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【完結】婚約破棄されて怪物辺境伯に嫁いだら、思った以上に怪物でした  作者: さき


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25/52

25:書庫で明かされる真相

 

 その日の夜、マリエラは眠る前にステファンに日中のことを尋ねることにした。

 ベッドの上で、決意を宿すように枕を抱きしめながら。その姿と「ステファン、聞きたいことがあるの」という深刻な声色に当てられたのか、ステファンもまた神妙な顔をしている。


「き、聞きたいこと……?」


 尋ね返してくるステファンの声には緊張の色さえ宿り始めていた。

 ゴクリと生唾を呑んだのか、銀色の毛で覆われた喉元が動く。


「今日、突然雨が降ったでしょう? あの時に不思議なことがあったの……」


 双子が雨を予測し、洗濯物を取り込むまで長引かせた。

 我ながら不思議な話だと分かっている。仮にステファンと出会う前にこの話を他者から聞いていたら「そんなこと出来るわけないじゃない」と笑い飛ばしていただろう。

 だがあの光景とやりとりを前にすれば笑い飛ばす気にはならない。

 真剣みを帯びた声色でどういうことなのかとマリエラが問えば、ステファンも笑い飛ばすことなく真面目に聞いてくれた。


「今回も僕が説明しなかったせいでマリエラを悩ませてしまった。すまない」

「じゃあやっぱりあの子達が雨を予測して降るのを待たせたの?」

「あぁ、そうなんだ。マリエラ、もう夜遅いが少し話をさせてもらっても良いだろうか。きちんと説明したい」


 ステファンが許可を求めてくる。彼が纏う空気は真剣みを帯びて些か張り詰めているようにも感じられ、マリエラの胸中に緊張が湧く。

 それでもと頷いて返せば、ステファンが「部屋を移動しよう」と促してきた。




 彼に案内されて連れてこられたのは屋敷の書庫。

 壁面を天井近くまで届く本棚で覆い、それだけでは足りずあちこちに背の高い本棚を置いた、本だらけの部屋。

 個人が所有する蔵書量は優に超えている。そこいらの書店でも太刀打ちできないだろう。曰く、過去この屋敷を使っていた者が趣味で集めた本だという。屋敷と同じように取り残されており、ステファンがそのまま譲り受けたらしい。

 並ぶ本は殆どが難しそうなもので、中には触れるのも躊躇うほどの古めかしい本もある。


 そんな書庫には調べもの用の机が設けられており、ステファンに促されてマリエラは一脚に腰を下ろした。

 そうして待つことしばらく、彼が分厚い本を数冊抱えて持ってきた。


「その本は?」

「この国の……、いや、大陸も含めての歴史書だ」

「……歴史書?」


 一冊を受け取り、じっと表紙を見つめる。

 頑丈な造りだ。表紙には綺麗な文字で書名と年号が記されている。一目で歴史書だと分かる代物。……そして同時に、一目で内容の真面目さも伝わってくる。

 そんな本が、机に積まれること四冊。たった四冊とはいえ一冊一冊が分厚く、とりわけどれも厳格な歴史書なのだから言い知れぬ圧すら感じてしまう。

 思わずマリエラはごくりと生唾を呑み、深刻な声色でステファンを呼んだ。


「……三日待ってくれないかしら」

「マリエラ?」

「三日経ったら、私、この本を読み終えて書庫から出てくるから。だから三日待って欲しいの」


 これではまるでステファンを恐れて自室に籠った時のようではないか。

 彼の怪物と呼ばれる外見を恐れ、自室に逃げ、だが逃げ続けないと決めた。そうしてステファンに『三日経ったら部屋から出て貴方と向き合うから』と時間を貰ったのだ。結果的に三日ではなく二日で部屋から出たのだが。

 だけど……、とマリエラは机の上に積まれた本を見つめた。


「三日……、いえ、やっぱり五日ちょうだい。五日でこの本を読み終えて、私、ちゃんと書庫から出るから!」


 歴史書の重々しさを考えるに、三日だと少し心細い。

 だからこそ更に二日を追加で要求すれば、ステファンが慌てた様子で宥めてきた。


「別にこの本を読むようには言わないから安心してくれ」

「そ、そうなの……? 良かった、てっきりこの本を全部読まないといけないのかと思っちゃった。五日、もしかしたら七日間ぐらい書庫に籠る覚悟だったわ」


 ほっと安堵すれば、その様子が面白かったのかステファンが苦笑を浮かべた。

 次いで向かいに座り、一冊を開いてマリエラに見せてくる。細かな文字がぎっしりと並んでおり、右下には絵が描かれている。

 人の絵だ。だが手は無く肩から先が鳥の羽のようになっており、足も膝下から鳥と同じ足になっている。それでいて胴体は人間の造り。

 正面、横、背面、と描かれたそれは物語の挿絵というよりは図解。否、実際に存在したものをスケッチしたかのようだ。


「これって……。違うところもあるけど、でも、ジャックと似てる」


 ジャックは鳥の頭と羽を持つ少年だ。

 背に鳥の羽が生えており、手は人間らしい手をしているが足は脛から先が鳥と同じ造りになっている。

 本に書かれている絵と違いはあるものの、どちらも『人と鳥を合わせたような姿』だ。これは偶然で片付けられる共通点ではない。


「どういうこと? これ、凄く昔の歴史書よね……?」

「過去に居た『怪物返り』だ。他にもそうだと思われる記述が残されている」


 机に重ねていた本を手に取り、ステファンが該当ページを開いて並べだした。

 どれも先程の歴史書同様、人とは思えない、そして既存の生き物とも違う存在の絵が描かれている。中には文章として残されているものもあり、挙げられている特徴は文字だけで見るならばまるで夢物語に出てくる幻想の生き物ではないか。

 これらは全て、ステファンや子供達のような『怪物返り』についてだ。


「でも、どれも全部『神返り』って書いてあるわ」


 並べられた本の該当箇所を見比べながらマリエラが呟けば、ステファンが静かに一度頷いた。



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