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【完結】婚約破棄されて怪物辺境伯に嫁いだら、思った以上に怪物でした  作者: さき


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02:結婚の申し出は……


 

 リベリオからあらぬ濡れ衣を掛けられ婚約破棄を言い渡されてから三ヵ月。

 あのとき去り際に願った話し合いは一度として叶わず、シャレッド家を訪ねても門前払い。それどころか手紙を何通出しても返事一つ寄越さない。なしのつぶてとはまさにこの事だ。

 そのうえミゼラ家の不正とマリエラが不貞を行ったという話は一気に社交界どころか国中に広がってしまい、三ヵ月が経つ今はマリエラはもちろん両親さえも碌に家から出られなくなってしまった。



「どうしてリベリオはあんな事を言い出したのかしら……」


 マリエラがミゼラ家の屋敷の一室で深く溜息を吐いた。

 窓の外は晴れ渡っており、思い返せば今日は友人の家の茶会に誘われていた。あんなことが無ければこの晴天のもと、友人達と楽しく語り合っていただろうに……。

 幸い友人達はあの話を信じず、マリエラの境遇を想って手紙を交わしてくれている。だがそれに甘んじて顔を出せば、友人達まで非難と好奇の視線に晒されかねない。彼女達がみなシャレッド家より地位の低い家だから猶更だ。


「マリエラ、少し良いかな」

「どうしたのお父様」


 声を掛けながら部屋に入ってきたのは父だ。隣には母の姿もある。

 二人とも顔色が悪いが、あんな事があったのだから当然だ。


 マリエラの不貞疑惑同様、ミゼラ家は不正など働いていない。それを証明するために両親はあちこち奔走していたのだが、リベリオがよっぽどうまく手をまわしたのか、いまだ疑惑を晴らせずにいる。

 実際の領民が証言をしてくれているというのに、それすらも「脅されて言わされている」だの「金を貰っている」だのと言われてあしらわれるのだからおかしな話だ。根回し以上の何かが蔓延っている気がするのだが、それも暴けず疑惑は広がるばかり。

 今の両親にはそんな境遇への疲労がありありと見え、マリエラは居た堪れないと目を細めた。


「ごめんなさい、お父様、お母様。私があんな男と婚約なんてしていたから、ミゼラ家まで不正の疑いをかけられたんだわ。私がもっと早くリベリオの性根の悪さに気付いて、私の方から婚約破棄を叩きつけてやっていればこんな事にならなかったのに……。せめて頬を引っ叩いてやればよかった」


 悔しい、とマリエラが項垂れた。

 あの一件から三ヵ月、今では両親に対しての申し訳なさすら抱いていた。……それとリベリオに対しての並々ならぬ恨みも。

 誤解を解くため落ち着いて話をする場を設けようと働きかけていたが、今もしリベリオと顔を合わせたら話し合いの前に一発引っ叩いてしまうかもしれない。

 そうマリエラが溜息交じりに話せば、父がなんとも言えない表情を浮かべた。マリエラを労わる表情ではあるのだが、それを浮かべる父の顔にも疲労の色があって痛々しい。


「貴族の令嬢としては些か物言いが物騒な気もするが、それぐらい芯が強い方が良いのかもしれないな。ひとまずお前が泣き腫らしてばかりではなかったのは良かったよ。それで話があるんだが、実は姉上から『こちらに越してこないか』と提案があってな」

「伯母様のところに?」

「あぁ、あの村はひとが少なく、暮らしている者達も社交界の騒動には興味が無いらしい。噂よりも姉上の話を信じているというから私達のことも受け入れてくれるだろう。領地については落ち着くまで叔父が頼まれてくれると言っていた」

「大叔父様が……」


 父の姉である伯母も、そして父の叔父でありマリエラにとっては大叔父にあたる人物も、どちらも信頼できる人格者だ。引っ越すことにも、そして領地の管理を任せることにも不安はない。

 だがこれは明らかに『逃げ』だ。世間はミゼラ家が不正と不貞を認めて王都に居られず逃げたと考えるだろう。リベリオはさぞや得意げにこの件を語るに違いない。

 それを考えれば腹立たしくさえあるのだが、かといってこのまま意地を張って王都に戻っても解決の糸口は掴めそうにないのも事実。両親が心労で日に日にやつれていくだけだ。


「そうね、今は静かなところで生活した方が良いかもしれないわ。いつ越すの? 私も準備しなきゃ」

「日にちは決めていないが、極力早めにとは思っている。それでだな……、このタイミングで、実はマリエラに結婚の申し出がきているんだ。私達が越すのに合わせて、マリエラもそちらに住まいを移しても良いと思うんだが、どうだろう」

「あら、そうなのね。心機一転、知らない場所で生活するのも……、待って、結婚!?」


 心機一転するのも悪くない、と言いかけ、マリエラは慌てて父に詰め寄った。


 だが、婚約が破談になり、その話題の熱も冷めぬうちに他家から申し出が、というのは別段おかしな話ではない。

 早い者勝ちといえば聞こえは悪いが、縁談一つで社交界の優劣がひっくり返ることすらあるのだ。どの家だって良縁をと必死である。

 好条件の子息令嬢の婚約が破談になり、途端に慰めの言葉を告げつつ他家が飛びつきあっという間に結婚……。なんてことも珍しくない。


 もっとも、これは破談された側に何の非も無ければの話である。


「でも私は世間では『不貞を働いた女』になってるじゃない。それにお父様もお母様も不正を働いたって……。そんな家に結婚を申し込むなんて、まさか相当な訳あり男なんじゃ……」

「訳ありであることは否めないな」

「やだ、本当に訳ありなの?」


 冗談半分で『訳あり男』と言ったつもりだったが、どうやら当たっていたらしい。


「実は……、お前に結婚を申し込んできたのはステファン・ロンストーン様なんだ」

「ステファン・ロンストーン様……」


 父が話しつつ一通の手紙を差し出してくる。

 マリエラは告げられた名前を呟くように口にしつつ、その手紙を受け取った。

 白い封筒には綺麗な文字で差出人の名前が綴られている。父が挙げた名前、『ステファン・ロンストーン』だ。

 それをじっと見つめ、次いでマリエラは一度顔を上げて父と母へと視線をやり、再び封筒へと視線を落とした。

 いったん視界から外してみても書かれている文字は当然だが変わっていない。読み間違えようのないほどはっきりと、美しい文字で『ステファン・ロンストーン』の名前が綴られているのだ。


「ステファン様って……、怪物辺境伯?」


 マリエラが手紙に問いかけるように疑問を口にすれば、両親が困ったような表情で顔を見合わせた。





次話は18:20更新予定です。

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