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第7話:少年との邂逅。

今回少し文量多めです( *¯ ꒳¯*)

side:ルウ・ブラン



 ゴブリン狩りが楽しくなって、見つける度に狩殺していたら、茶髪の青年とばったり出会しちゃったんですけど。草生える。


「……えっと、違いますけども」


 俺は目の前の茶髪の青年の「…妖精、ですか…?」とかいうふざけた言葉に否定の言葉を述べた。

 

 汗だくで、膝立ちの青年。いや、その姿勢きついだろ…。

 てか、これがこの世界でのファーストコンタクトじゃん! やっべ、なんか緊張してきた。


 ほら、青年もなんか状況掴めてないっぽいし、もう困惑ですわ。とりあえず声でもかけとくか…?


「こんなところで、息を切らしてどうされたんですか…?」


 青年は未だ整わぬ息で答える。


「ゴブリンから逃げていて、それで……この光景は、君が…?」


 ゴブリンの死体を見つめる瞳には困惑の色が透けて見えた。


「えっと、そうなりますかね」


 え、こいつゴブリンから逃げてたの?

 あの雑魚オブ雑魚のカスカスゴブリンから?

 しかも俺がゴブリン倒しているところ見ていたはずなのに、なんで確認してくんのさ。節穴か?


「あなたは、どうしてゴブリンから逃げていたのでしょうか…?」


「…村がデーモンに襲われて、村人の避難のために僕が囮に……そうだ、アリは、アリは無事なのか…?」


 いや、アリって何。虫か?昆虫か?胸部がやけに細くてまじまじとみるときしょいんよな、蟻って。

 てか俺、この青年を助けたっぽいよね。お礼はないんですか。


「…大変でしたね。まずは、一旦状況を飲み込むことに専念してください」


 そして気づけ! 俺に助けられたという事実にな!


「……本当に、死ぬかと思った。森の中、迫り来る足音……助かったのか。いや、そうだ…」


 ホークは立ち上がり慌てた様子でこちらを向く。


「助けてもらっておいて、感謝の一つもないなんて……本当に申し訳ないです」


 ほほう。結構結構。ちゃんと謝れるやつにぐちぐち言うつもりなんてこれっぽちもないさ。

 ほんで、君の名前なんて言うんですか。


「…名前を伺っても?」


「あわわ、何度も失礼を…。名乗り遅れました、僕はホークといいます」


 慌て様が草生える。

 俺も名乗るか。どうしよ、仕草なんかつけたほうが印象的だよな。

 あ、ゲーム内でお気に入りだった〈カーテシー〉の仕草を真似するか。


「…ルウさんは、ルウ・ブランといいます。見ての通りーー剣士をしております」


 両手の指先で薄いローブをつまみ、膝を曲げて身を屈めながらローブを上へと持ち上げる。


 うまくできてるのか、これ。

 ホークさんはなんかルウさん見たまま固まってるけど、なんで? ダメだった? るせぇ、初めてだったんだよ!


「えっと、どうかしました…?」


「…え? い、いやその…綺麗で優雅だなって」


 見惚れてたんかい! まあわかる。俺もこの仕草お気に入りだもん。


「…ありがとうございます。それで、ホークさんはここで油を売っていても大丈夫なんですかね? …先ほど、村が襲われていると言っておられましたが」


 俺がそう言うと、ホーク青年の表情と顔色がみるみる変わる。


「そうだった、アリが、父が…。行かないと。助けてくださり、ありがとございました」


 ホークが深々と頭を下げる。


 いいって事よ。ん?まだ何か言いたそうだな。


「……非常識で厚かましいことを重々承知した上で、一生のお願いです。どうか……先ほどゴブリン打ち払った道具を、貸してはいただけないでしょうか」


 深々と頭を下げた姿勢のまま、ホークはそう言い切った。


 …どゆこと? 道具って何? 俺なんか使ってた?


「道具とは、どれのことですか…?」


「さっき、その剣が光ってゴブリンを切ったように見えたんです。…だから、その剣がなんらかの力を持った魔法の武器なんじゃないかなって」


 …あーなるほど。ある程度の察しはついた。


 ホークとやら、俺がゴブリンを倒したのはこの〈エレドリームレイピア〉の効果だと思ってんだな。

 そうだよな。皮だけ見たら、年端もいかぬ少女な訳で、こんな少女が魔物に対抗する策なんて、アイテムに頼るくらいしか俺だって思いつかんわ。


 で、どうして貸してくれって頼んでくるかなんだが…。


「…デーモンを、討つためですか?」


 核心をつかれた!って感じでめっちゃ驚いてて草。

 察しのいい俺だから…いや、ルウ・ブランだからそれくらいわかります。


「…その剣は、とても高価で大切なものなのでしょう。ですが、村を救うために今一度、デーモンやゴブリンの対抗策として貸していただく事はできませんか…。あそこには父もまだいるはずで…どうか、どうか…」


 ほらやっぱり。

 村救いたいんか…。手伝ってやりたいけど、デーモンってのも、ゲーム内だとピンからキリまで種類が様々いたからなぁ。


 この世界で死んだら多分終わりだし、まだみみっちくゴブリンしばいてるだけで良いかなって…。


 でも、ルウ・ブランならどうする?

 

 命をかけて必死に村人の命を繋ぐ青年を、簡単に見捨てたりするか?


「…見捨てたりは、しないですよね」


「…え?」


「しかし…残念ながら、お察しの通りこの剣はルウさんの大切なものですので…」


 俺がそういうと、ホークはやや大袈裟に肩を落とす。


 なんだこいつ、まだ落ち込むには早いってのに。


「……ですがーー剣を差し出す代わりに、ルウさんがそのデーモンを打ち払うことはできます」


 そういうと、ホークは驚いた表情をこちらに向けた。


「ルウ・ブランさんが…ですか?」


「…はい。ルウさん、腕は立つはずなので。必ずやデーモンを退いてみせます」


 俺が直接出向いて、デーモンとやらをボコボコにしてやる。

 そもそもデーモンなど、ゲームの中では魔人の副産物にすぎない紛い物にルウ・ブランが負けるはずがないんだよ。


「…では、ホークさん。案内をお願いできますか」


 ホークは俺の言葉に力強く頷き、俺をデーモンの元まで案内せんと歩き出した。

 

 さて、とりあえず緊張して震えているこの手をどうにかしますかねぇ…。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷


side:ホーク



 ゴブリンの死体の山に立つ少女。

 見た目は幼さの抜けきらぬ12歳ほどの少女だが、その可憐さには目を見張るものがある。

 そして何より、彼女の強さは圧倒的であった。


 僕は膝立ちのまま、息も絶え絶えに少女を見上げる。


「…妖精、ですか…?」


 咄嗟に口をついた言葉に、彼女は即座に否定した。


「……えっと、違いますけども」


 汗だくの俺に、少女はやや呆れたように見えたが、次の瞬間には落ち着いたーー鈴のような声で尋ねてきた。


「こんなところで、息を気らしてどうなされたんですか…?」


 息を整えながら答える。


「ゴブリンから逃げていて、それで…‥この光景は、君が…?」


 僕の視線は、首を切られたゴブリンへと向かう。

 これは確認だ。僕は未だに、自分が助かったという実感を得ていない。だからこそ、今目の前で起きていることについて少しでも理解したいのだ。


 少女は僕を見て、少し戸惑いながらも肯定する。


「えっと、そうなりますかね」


 信じられなかった。あの恐ろしいゴブリンから追われる僕。そんな僕を彼女は助けてくれたのだ。


 まるでどこかの貴族のような装いに、麗しい見た目。この少女は、容姿に優れただけでなく、大きな勇気と行動力、優しさを秘めているに違いない。


 そんな少女が口を開く。


「あなたは、どうしてゴブリンから逃げていたのでしょうか…?」


 その問いに、過去の恐怖が蘇った。


 村が襲われ、村人と愛しい人を守るために僕が囮になったことを思い出す。


「…村がデーモンに襲われて、村人の避難のために僕が囮に…そうだ、アリは、アリは無事なのか…?」


 洞窟をちゃんと塞げたのだろうか。

 それに、デーモンがついに動き出して、村人たちを襲っているかも知れない。そう思うと肝が冷えた。


「…大変でしたね。まずは、一旦状況を飲み込むことに専念してください」


 まるで包み込むような声色。

 少女の言葉に少しだけ落ち着きを取り戻し、僕は立ち上がった。

 

 僕の膝は、恐怖と疲労による負担により、ガクガクと微振動を発していた。


「……本当に、死ぬかと思った。森の中、迫り来る足音……助かったのか。いや、そうだ……」


 そこで僕は重大なことに気がつく。


(…感謝も何も、伝えられていないじゃないか…っ!)


「助けてもらっておいて、感謝の一つもないなんて……本当に申し訳ないです」


 少女は僕の無礼を軽く微笑み、頷くことで許す。そして、僕の名を尋ねた。


「…名前を伺っても?」


「あわわ、何度も失礼を…。名乗り遅れました、僕はホークといいます」


 慌てて名乗ると、少女は微笑みを続けながら、自分の名を告げる。


「…ルウさんは、ルウ・ブランといいます。見ての通りーー剣士をしております」


 彼女は優美な仕草でローブを持ち上げ、膝を曲げた。


 そこで僕は確信する。


(ーーこの娘は、貴族の出だ。…こんなに美しい挨拶、見たことがない)


 僕は思わず見惚れてしまっていたらしい。


「…えっと、どうかしました?」


「…え? い、いやその…綺麗で優雅だなって」


 思わず漏れた正直な感想。

 それを聞いた彼女は微笑んだ。


「…ありがとうございます。それで、ホークさんはここで油を売っていても大丈夫なんですかね? …先ほど、村が襲われていると言っておられましたが」


 その言葉に、村や村人たちのことが再び頭をよぎった。


「そうだった、アリが、父が…。行かないと。助けてくださり、ありがとうございました」

 

 僕は深々と頭を下げたが、まだ言いたいことがあった。


「……非常識で厚かましいことを重々承知した上で、一生のお願いです。どうか……先ほどゴブリン打ち払った道具を、貸してはいただけないでしょうか」


 青白い色を呈する、美しい刺剣。

 彼女、ルウ・ブランが持つその剣が、ゴブリンをバラバラにするのを僕は見たのだ。


 それと同時に、僕はこんなことを思った。


 ーーこの人とこの剣があれば、デーモンを討ち払えるかも知れない。


 しかしそれは叶わぬ願いであると確信している。

 少女は幼く、その腕は細い。故に、この少女をデーモンと対峙させるのはあまりにも残酷で、悲惨な結果を生み出す可能性だってある。

 15歳のホークが尻尾を巻いて逃げる相手に、この幼き少女が立ち向かえる光景が見えなかったのだ。


 だからこそ、その剣だけ借りて、僕が単騎でデーモンを討ち払えないかと考えたのだ。

 デーモンが討ち払えずとも、ゴブリンならば倒せるかもしれない。とにかく、村人の安全を確保することができるだろう。


 とにかく、あの剣には確実に強大な力がかかっているのは見てわかる。武器があれば何か変わる。そんなふうに僕は思ったのだ。


 深々と頭を下げたまま、少女に懇願する。少女は若干の戸惑いを見せつつ、尋ね返してきた。


「道具とは、どれのことですか…?」


「さっき、その剣が光ってゴブリンを切ったように見えたんです。…だから、その剣がなんらかの力を持った魔法の武器なんじゃないかなって」


 少女は少し考え込んだ後、理解したようだ。

 

「…デーモンを、討つためですか?」


 僕はどこか、この少女ならばそれを理解しているだろうという気持ちはあったものの、いざ言葉にされると心底驚いた。と共に、デーモンと対峙する自分の未来を思い描いて恐怖した。


 しかし、ここで止まってはいけないと僕は自分を鼓舞し、少女に懇願する。


「…その剣は、とても高価で大切なものなのでしょう。ですが、村を救うために今一度、デーモンやゴブリンの対抗策として貸していただく事はできませんか…。あそこには父もまだいるはずで…どうか、どうか…」


 少女はクリーム色の長髪を揺らしながら考え込む。ホークがその根本から毛先まで満遍なく光沢を呈する髪に見惚れていると、少女が決意したように答えた。


「…見捨てたりは、しないですよね」


「…え?」


 見捨てないという言葉に、ホークの心に温かいものが浮かぶ。


「しかし…残念ながら、お察しの通りこの剣はルウさんの大切なものですので…」


 見捨てないと言っておきながら、剣は貸さないという彼女の言葉に、僕は肩を落とした。

 しかし、次の言葉が僕に再び希望をもたらす。


「……ですがーー剣を差し出す代わりに、ルウさんがそのデーモンを打ち払うことはできます」


 驚愕と希望の交差。

 この少女は、デーモンと戦うという意味がわかっているのだろうか。


「ルウ・ブランさんが…ですか?」


 命の恩人であり、手助けをしてくれようとするこの少女に疑問系で言葉をかけることなど、失礼極まりないが、そう質問しないと気が済まない。


「…はい。ルウさん、腕は立つはずなので。必ずやデーモンを退いてみせます」


 力強い眼差し。

 瞬時に増す気迫。

 凛として堂々の佇まい。

 

 その姿を見て、僕の中にあった疑いの気持ちは瞬時に晴れた。


 ーーそんなに細い腕で何ができる?


 ーーデーモンと戦うという意味がわかっているのか?


 それらを納得させるだけの存在感が確かに彼女からは感じられたのだ。


 彼女が自らデーモンと戦うと公言してくれたのだ。


「…では、ホークさん。案内をお願いできますか」


 僕は力強く頷き、ルウ・ブランさんをデーモンの元へと案内することを決意する。


 もう足の震えも、体の疲労も嘘のように消え去っていた。

 

 僕はこの時、この少女ならば本当にデーモンを打ち払うことができる。そんな風に感じていたのだった。

⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【明滅する虫尾】

〈説明〉

明滅虫という、一見サソリのようでいて、尾の毒針が提灯のような形と発光機能を持つ虫。その尻尾。

激しい明滅による目眩しにより獲物を捕食、もしくは逃走の際に使用する。

敵の位置を永続的に捉え続けるために射る、明滅矢の素材として鏃に塗布される。

ちなみに、明滅虫は美味である。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……目が痛くなるので、見かけても刺激せずこっそり通り抜けるのが良いでしょうかね。もちろんですけど、食べたことはないです……今後も食べようとは特に思いませんけども……」

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