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第53話:これが…エクソ?

閲覧ありがとうございます( *¯ ꒳¯*)

Side:ルウ・ブラン



 鳴き声に導かれるように、ルウさんは迷宮のように入り組んだ屋敷の廊下を進んでいきます。


 そんなルウさんの行手を阻むように、天井の梁やシャンデリアなどのオブジェクトから飛びかかってくるのは、怪鳥オニキスロック。


「…あっちのルウさんも言っていましたけども、本当に数が多いんですね」


 一見すると、幼い子供が大量の怪鳥に襲われ手も足も出ない、いわば絶体絶命の渦中にいるようにも映るルウさんとオニキスロック。


 しかし、場面から連想される事象とは裏腹に、ルウさんは右手に持ったエレドリームレイピアでオニキスロックをバッタバッタと切り落とします。


「……さて、もっと先へ進みましょう」


 曲がりくねった廊下を抜け、異様に広いホールを横切り、階段を上がっていく。


 階段の壁に飾られた肖像画の目が、ルウさんの背中を追ってくるような感覚に少々背筋がゾワっとしながらも、振り払うように走り続けーー。


「――助けて、やめて! こっちに来ないで、痛いことしないで!」


 強く訴えかける少年の声が廊下のすぐ先、扉一枚越しの部屋から聞こえるのがわかる位置までやってきました。


「…さて、エクソとご対面ですね。戦いの準備として基本的にエンチャントはしたほうが良いですけどもーーエクソの耐性は極端。必ずしもバフが優位に働くとは考えられません」


 ということで、今回はバフもなにも無しで猪突猛進ですかね。


 大丈夫、今のルウさんはレベル233そのままの強さ。

 見たところこの夢は崩壊があまり進んでいないようですし、夢を食べるほど成長するというエクソの性質上、アリさんの悪夢で戦ったエクソよりは幾分か弱いはず…。


 迷宮は広いですし、危なくなったら逃げられる場所もあります。


 勝てる算段は分かりませんけども、負けない算段はついてますよ。


 ルウさんは勢いよく扉を開けます。

 走っていた速度を保ったまま飛び蹴りで扉を突き破った結果、右の扉のちょうつがいが壊れて右の扉が吹き飛んで行きましたが、まあ……気にしない。そんな日もあります。


「――助けに来ましたよ、ロイスさん」


 扉の先に映るのは、豪奢な寝室といった雰囲気の空間。大きな天蓋付きのベッドがおかれたその部屋の隅に、なにやら小柄な影が見えました。


「…む、あれがエクソですかね。観念してーーんぇ?」その影をまじまじと見つめ、ルウさんは驚愕します。


 その影は、小さな角が額に一本だけ生えた、それ以外はなんの変哲もない、紫色の毛皮を持ったウサギでした。

 そんなウサギが、見た目通りの強いとも言えない頭突きをベッドの柱にかますと、ベッドの上では9歳ほどの見た目の少年が大粒の涙を流しながら絶叫します。


「……えっと、いや…これが、エクソですか…?」


 角ウサギと、それに過剰に怯える子供。

 まるで動物園のふれあいコーナーで本気で怖がる子供のような構図が、ルウさんの目の前にはありました。


 いや、しかし少年の絶叫は遠くからでも聞こえるほどのもの。

 角ウサギの頭突きは、見た目以上の何かがあるに違いありません。


「…角ウサギさん、こっちです。狙うならルウさんを狙ってください」


 手をぱんぱんと打ち鳴らし、ルウさんという存在がこの部屋にいることを角ウサギに知らせると、ルウさんの予想通り角ウサギは標的をルウさんに移します。


「…さぁ、ドーンと来るんです」


 両手を広げて、いつでも突進を受ける姿勢をとりました。


「…お姉ちゃん、危ないよ!」


 ルウさんの、まるで抱き抱える一歩手前のような姿勢を見てロイスくんが声を上げるも、ルウさんの姿勢はもう変えられません。


 視線の先、ベッドの横から迫り来る影が見えました。


 それは紛れもない角ウサギで、人が走るのと同じ程度の速度――ルウさんからすれば蚊が止まるような速度でゆっくりとルウさん目がけて突進してきます。


「…こっちおいでー、です」


 そしてついにその突進をこの身に受ける時がやってきました。

 まず硬い角がルウさんの手のひらにあたるも、速度が速度であるため、対して痛いということもありません。


 次にふわふわな毛皮と、小動物由来の高い体温が手のひらに伝わってきてーー思わず抱き上げてしまいました。


 角ウサギは「ミッ!」と怒りの声をあげて全身をばたつかせますが、ルウさんの束縛はその程度では抜けられません。


 抱き上げてから数秒経った頃でしょうか。

 角ウサギの野生のカンがルウさんに勝てないことを悟ったのか、急におとなしくなりました。


「…おっとっと、これはこれは、可愛らしいエクソもいたものですね」


 ルウさんは角ウサギーーエクソの頭をその小さな手で撫で回しながらベッドの方へと視線を向けます。


 ベッドの上には、ポカンと口を開けて放心するロイスくんの姿。


 まるで「なにしてるの、それ魔物だよ?普通に触っていいの?」と言いたげな表情を無視して、ルウさんは話しかけます。


「…ロイスさん、先ほどもいいましたが、助けに来ました。もう大丈夫です。必ずや現世に帰してみせますので」


「…あ、うん」


 なんだか信頼されていない様子…?

 おかしいですね。こんなにもエクソを丸め込んで、手のひらの上で踊らせているというのに。


「お姉さん、怖くないの…それ、魔物だよ…?」


「……んっと、そうですね。怖くないですし、むしろ可愛いまであります」


「…えぇ」


「……安心してください。こう見えてルウさん、かなり強いので」


 そう言って角ウサギを抱えたまま胸を張ると、ロイスくんは胡乱げにルウさんを見つめてきます。


「…そういえば、自己紹介がまだでしたね。ルウさんは、ルウ・ブラン。旅の剣士をやっております」


「……僕は、ロイス。ロイス・だよ」


 泣き腫らした瞳で、ロイスくんはルウさんの方を見てきます。

 

 さて、ロイスくんの無事も確認できましたし、そろそろこの悪夢も終わりにしてしまいましょうかね。


「……角ウサギさん、ごめんなさい」


「ミュ?」


 ルウさんは抱き抱えたエクソを、思いっきり抱きしめます。

 すると、角ウサギは「ミョギュゥ」と悲痛な鳴き声を上げながら再びもがき始めました。


 ルウさんが今やろうとしているのは、圧殺です。

 なぜ数ある殺害方法で圧殺を選んだのかといえば、それはなんだか、あっちのルウさんであればそうしていそうだな、というただの思いつきからの行動でした。


 そうこう言っているうちに、角ウサギさんの関節がメキメキと嫌な音を立て始めます。


「…さて、生まれ変わったら普通のウサギになってくれたらいいなと思います」


 一気に力を込めるとーー角ウサギは「キュ」という断末魔とともに脱力し、紫色の霧となって霧散し始めました。


「…終わりましたね。ではロイスさん、戻りますよ」


 そう言ってロイスの方を見てみれば、まるでルウさんを「こいつ、武器も持たずに魔物を抱き殺した…信じられねぇ」と言った表情で見つめるばかり。


 む…失礼ですね。

 仮にもルウさんは命の恩人。

 感謝の一言くらいあってもいいんじゃないですかね?


 ……とか、あっちのルウさんなら思うでしょうけども、ルウさんは違います。

 

 9歳の少年が、この不気味な空間で恐ろしい魔物と二人きり。

 そんな極限の環境下にいながらもこうして生きているだけで、ルウさんは十分です。


 そんなことを考えているうちに、徐々に意識が遠くなって…来ましたね。


 ……どうもあっちのルウさんと、完全に繋がるには時間がかかる模様。


 …ふふ、ではではルウさん、そちらにバトンは……任せましたよ……。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷


Side:ルウ・ブラン



「…ん、んむぅ」


 何時だ、今。てか何してたんだっけ?


 …あーそうだ、ロイスの夢の中でエクソをぶっ倒そうって。

 どうやら、あっちのルウはうまくやってくれたみたいだな。


「……んしょ」


 ふぁ〜、ねみぃぜこりゃ。

 ん、なんだクラーラ、そんな泣きそうな顔をして。


 俺はベッドから起き上がり、伸びをすると涙を目にため今にも泣き出しそうなクラーラが視界に映った。


 いや、それだけではない。

 その場にいるナンヌもヤシムもホークも、まるで奇跡を目にしたかのような、形容し難い表情をしていた。


「……ありゃ、どうしたんですーー」と、周囲のただならぬ雰囲気を案じて口を開くが、遮られる。


「――ブラン、遅い! 遅いじゃない……少しって言って、何時間経ったと思ってるの…」


 え、ええ?

 クラーラさん、もしかして泣いておられる?

 他の誰でもない、この俺を想って?


 ――とんでもないツンデレかよ!


「……あ、えっと…その、ルウさんが悪夢に行ってからどれほどの時間が経過したんです?」


 俺の疑問に答えるように、涙を流すクラーラの後ろに控えたナンヌが口を開いた。


「お昼前、嘘つきが寝て……もう夜。ゆすっても叩いても起きなくて、もう起きないんじゃないかって…」


「…そんなに時間が経っていたんですね」


 …まあ時間がかかったのは、十中八九あのクソ扉のせいだな。こんなに小さな子供を泣かせやがって、死んで詫びろやクソ扉。


「…あれ、ここはどこ……」


 ふと真横からそんな声が聞こえ、振り向いてみれば困惑した表情のロイスが上半身を起こして周囲を見渡していた。


 ロイスを見たホークは「――今すぐアラマンダ夫人を呼んできます!」と言い、夫人たちが待つ治癒室へと駆けていく。


 そんなホークにさらに困惑しつつ、ロイスは自分が今どんな状況なのかを察するために視線を次から次へと泳がせる。


「…なんで僕、服着てないの…?」


 お、ついにお目覚めか。


「みんなどうして、僕をみてるの…」


 周囲を見渡し、皆の視線が自分に向いている意味がわからないといった表情をするロイス。

 そして俺――ルウと目が合い、理解する。


「ぼ、僕、変な場所に閉じ込められて……お姉ちゃんが助けてくれて……」


 ついに自分が置かれた状況を理解しつつあったその時、治癒室の方から布をはためかせる音と、慌ただしく走る音が勢いを増しながら近づいてきた。


「――ロイス! あぁ、ロイス、私のかわいいロイス。顔を、顔を見せなさい」


 それは他でもない、ロイス・アーシェリアスの母、アラマンダ・アーシェリアスだった。


 アラマンダ夫人はベッドに座るロイスを見るや否や、乱れた髪も気にせずロイスを抱きしめる。


 突拍子もない状況に、豆鉄砲を食らったようなロイスだったが、実の母との再会が喜ばしい現実感を湧き上がらせる。


「……お母さま、おかあ…さ、うえぇぇぇん、怖かった、もう出られないと思った、うぁぁぁん……」


「私も、私ももう、あなたの誕生日を祝えないと思ったら……よかった、本当に良かった…」


 こうして、夢縛りにかかった少年とその母親は現世で再会を果たしたのだった。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷



 少年と夫人が落ち着きを取り戻したのは、それから夜も更けて、星がはっきりと見えるころだった。


「……本当に、ありがとうございます。果たして、どなたが息子の病魔を取り払ってくれたのでしょう?」


 ロイスを横にベットに座り、ホークやルウ、クラーラたちを見渡す夫人。

 夫人の疑問に、ロイスが答える。


「あの、フードのお姉ちゃん。ルウ・ブランさんが、僕を魔物がいる部屋から助けてくれたんだよ」


 夫人の泣き腫れた目が、ルウに向く。


「……あなたが、聖女なのですね」


 俺はどうしようかと悩む。

 心の中では苦笑いだ。

 聖女なんて大袈裟な。けれど不治の病を治したことは周知の事実。変に否定するものおかしいだろう。


「…アラマンダ夫人、あなたがそう思われるのでしたら、ルウさんはそれでいいです」


「全く、欲を感じませんのね。……ブランさん、私のロイスの恩人様、どうか、どうかそのお顔を一度でいいから、見せてくださらない…?」


「…んえっと……」


 俺がホークの方に『顔見せても大丈夫かね?』とアイコンタクトを送れば、ホークは『大丈夫だろうと』頷いた。


「……わかりました」と言って俺はフードをとった。


持ち上げたフードに前髪が引っかかり、ファサリと音を立ててクリーム色の髪の毛が顕になる。


「…なんて美しい…まるで高嶺の花…」


 アラマンダ夫人は、フードの下から現れた年端も行かぬ美に感嘆の溜息を漏らす。


「……こういうわけで、顔を隠していました。説明もなく、すいませんね」


「えぇ…これなら誰だって納得よ…」


「…とりあえず、ロイスさんの快癒、おめでとうございます」


「お姉ちゃん、僕の方こそ…ありがとう」


 そんなこんなで、その日はアーシェリアスの2人は夜も遅いということで、教会で一晩を明かす運びとなった。


 そして、2人の寝床を用意する際、ホークと話をする機会があったのだが、2人には病気の名前が夢縛りであることは伏せておこうという話になった。


 貸し出したベッドは貴族のものに品質はかなり劣るものの、文句などは一切口にせず快適な夜を過ごしたのだとか。


 俺はそんなアーシェリアス家の2人を見て、貴族の印象が少し変わったのだった。


⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【乾いた朽枝】

〈説明〉

真っ白な花をこぼしたのちに残った、全てを終えた白い枝。

次の命を撒き散ったこの枝には、もうなにも残っていない。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「…イベントアイテムです。なんでしたっけ、この枝に真っ白な花を咲かせる方法を探しに行くんでしたっけ」

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