第52話:ルウ・ブランを知る者。
閲覧ありがとうございます( *¯ ꒳¯*)
Side:ルウ・ブラン
「…せいやー」
ねじれ、迷宮のように入り組んだ廊下を勘で突き進み、やる気のない掛け声で〈オニキスロック〉という、黒い光沢のある羽とルビーのような赤い目を持った、猛禽類を彷彿とさせるフォルムの怪鳥を適当に切り捨てていく。
オニキスロックの全長は、翼を広げれば5メートルにもなるだろうか。
★ーーーーーーーーーーーーー☆
・モンスター名前:Lv/【オニキスロック:14Lv】
〈種族〉
・オニキスロック
〈能力値〉
・[HP:90/90]
・[MP:19/19]
・[筋力 :19]
・[器用さ:21]
・[耐久度:26]
・[素早さ:20]
・[賢さ :11]
・[魅力 :1]
〈スキルツリー〉+1
◆【オニキスロック】
[呪爪][混乱攻撃]
〈付与効果〉
・ー
☆ーーーーーーーーーーーーー★
こんな具合の、パラメータからして雑魚中の雑魚だ。
呪いの効果を付与してくる[呪爪]と、その名の通り混乱を付与してくる[混乱攻撃]を持った、状態異常特化のモンスター。
レベル差で勝手にレジストされるから俺にとっては指慣らしにもならないゴミ。
そんな具合で、俺は今まさに、悪夢を攻略中なのであった。
「…雑魚も、数が多いと少しばかり鬱陶しいですね」
オニキスロックは天井や梁を自在に飛び回り、時折力強い鉤爪を突き立てて急降下してくる。
俺は右手に持ったエレドリームレイピアで、急降下の勢いを利用してオニキスロックを切り捨てた。
両断された怪鳥はまだ暖かい肉塊となって、歪んだ床に勢いよく崩れ落ちる。
しっかし、どこに進めばいいんだ。
あの扉を抜けてからずっと、オニキスロックの群れと、永遠に続く分かれ道に行手を阻まれてるんだが。
道に関しては〈ワールドマップ〉を使っているから迷うことはないんだが、全ての道を片っ端から行くってのもな…。
オニキスロックもこんだけ群れると、流石にだるい。
あーあ、ゲームならこういう時、何かしら道しるべというか、ヒント的なものがもらえるはずなんだけどなぁ…。
「……ふふ、そういう時は、ルウさんに任せてみませんか?」
……ん?
………今、誰がしゃべったんだ?
「…ありゃ、気がついていませんね。おーい、ルウさんは、ルウさんに話しかけているんですけども」
どこから声が…。
不思議に思って口元に手を当てて気がつくーー。
は…?
口が勝手に動いて……なんだこれ!?
「…ふふ、ようやく気がつきましたか」
待て待て待て、俺の口が動いて、勝手にしゃべってるんだが…。
「……はい。だってこの身体、ルウさんのものなんですからね」
は、はぃ?
この身体は俺の、いや正確には俺のものじゃないけど、ほぼ俺のものみたいなものなんだが?
一体誰なんだよ!
さっきから俺の身体で勝手にしゃべりやがって!
「…んー、もしかしてルウさんって、察しが悪い人だったりするんですかね……? さっきから言ってるじゃないですか、ルウさんはルウさんに話しかけているって」
だから、ルウってのは俺のことでーー。
「……最初の頃、原初の夢で案内人の話も聞かず走り出し、3時間迷子に。困り果てた結果、他の夢渡りに話しかけてようやく行き先に辿り着くも、武器の装備をしていなかったため雑魚戦では大の苦戦を強いられる」
ほぁ?
い、いや、なんでそんな昔のコト勝手に口走って…。
「…バザールで夢渡りが売っていた装備を、全財産を叩いて購入するも、実はそれが詐欺だったことに後程気がつき、悔しさのあまり熱を出して寝込んだこともありましたっけ」
おいおいおい!
やめろって、マジで死にたくなるから。
「……毎日毎日、飽きもせずにルウさんの写真でフォルダをいっぱいにして、ルウさんの身体から出ていくときには『おやすみルウ、またくるねチュ』と言った定型を欠かさない」
のおおおぉぉぉぉ……。
俺が毎晩ルウに送った愛の言葉まで…。
テメェ、何もんだよ!
こんなこと知ってるやつ、俺のフレンドにもそうそういなかったぞ!
「……ほんとうにわからないんですか…?」
知るか、こんなやつ!
仲の良いフレンドーーハルジオンも化石饅頭も、俺の歴史にこんなに詳しいやつなんていねぇよ!
あるとしたら、ゲームログを見れる運営か、ルウ・ブランか俺自身かだぞ…。
……ん?
ルウ・ブラン。
お前さっき、自分はルウさんに話しかけてるとかなんとか言ってたか…?
とある一つの可能性が浮かび上がり、俺の背筋に冷たいものが走る。
だって、そんなことあるはずがない。
思い描く人物は、あくまで架空の存在で、俺の脳内で勝手に補完されているに過ぎない、形だけあって、心はない人形のような存在であるはず。
もし、その人形が意思を持っていて、自分に話しかけてくれているのなら、どれだけ摩訶不思議で嬉しい事象だろうか。
……まさかとは思うが、お前はーールウ・ブランなのか?
「……ようやく気がつきましたか、ルウ・ブラン」
どこか嬉しそうな声。
……そんな、だって、信じられない。
あの事故の後、寂しさを紛らわすために作った、たかがゲームのキャラクターに人格があるものか。
「…むぅ、失礼な。人格ならちゃんとあるじゃないですか、ここに」
ほんとうに、本当にルウ・ブランなのか?
俺が心の底から愛してやまない、最愛の嫁。
ロマンと癖を詰め込んだ、願いの写し身。
……本当の、本当に?
「…本当の、本当ですよ。ルウさん、あなたがルウさんを作り、動かし、世界を見た――その全てをルウさんは覚えていますとも」
――うぉぉぉぉん、ルウ、ルウ!
俺のルウぅぅぅぉぉぉぉぉおお!
俺はルウ・ブランと話せたという非現実的な多幸感から思わず、自分の身体を強く抱きしめる奇行に出る。
「――きゃっ。……えっと、何するんですか…」
あ、すまん…。
ちょっと嬉し過ぎて……。
「……まあ、正直よくやってた事なのでいいですけども…」
んえ、もしかして俺がこの世界に来てからの奇行、全部ルウに見られてた?
だとしたらまずい!
身体チェックとか言いつつ森の中で全裸になろうとしたことや、ホークをたぶらかして遊んでたことがバレーー。
「――何してるんですか! ……ルウさん、どうやらあなたが現世にいる時は、精神だけ夢の方に隔離されてしまっているみたいで、あなたが現世で何をしていたのかは全く知らなかったんですけど……色々とやってくれていたみたいですね…」
ルウは「はぁ…」とため息を吐く。
よ、よかったぁ……正直あんなことやこんなこともやってたけど……危うく口が滑るところだったぜ。
「……もう聞きたくないです」
いや、ほんとにすまん。
これからは気をつけるから許してくれ…。
「……」
そ、そうだ、話題を変えよう。
えっとーー。
「……ルウさん、あなたはこの悪夢のエクソを倒しに来たんじゃないんですか。…そんな無駄口ばかり叩いている場合ですかね、今」
お、おん。
そういえば俺は夢縛りの治療のためにここに来たんだった。
んでもよ、道がわからなくて途方に暮れてたんだよ。
「……最初に言いましたよね? そんな時は、ルウさんに任せてみませんか、と」
いや、任せるっつったって、同一人物なんだからできることは変わらないだろ。
「…ふふ、本当にそう思いますか? …ルウさん、あなた気がついているんじゃないですか、この万能感に」
…そういえば、この夢に入ってきた時から、やけに身体が軽いというか、いつも以上に体が言うことをきくというか…。
この体の変化に関して、何か知っているのか?
「…もちろん、ルウさんの憶測でしかないんですけども、多分この万能感は、あなたではない、ルウさんの精神がこの身体に順応したおかげで、本来の力を取り戻しつつあるのではないかと考えています」
…お、おお。
よくわかんねぇ、もうちょい簡単に教えてくれ。
「……ルウさん、案外バカなんですね」
うっせぇやい!
「…ふふ、まあいいでしょう。…以前、あなたがアリさんの悪夢の中で戦ったエクソ、覚えておられますか?」
ああ、そりゃもちろん。
大接戦で、最後、俺は死んだと思ったが……気がついたらエクソは倒してるし、アリは助かっているしで…。
「…あのエクソに、最後トドメを刺したのは他でもないこのルウさんですよ」
え、そうだったの!?
あーいや、その節はどーも…?
「…本当に感謝してくださいね? あの時のあなた、結構危なかったんですから」
…いや、本当に感謝っす。
……ところで、それと体の変化にはなんの関係が?
「…ルウさん、あなたははっきり言って、ルウさんの身体を使いこなせていません。あなたが精神の主導権を握っている時のルウさんは、レベルにしてせいぜい150が限界と言っていいほど、弱体化しています」
…はい?
十分動かせてると思ってたけど、そんなにも俺はこの身体を活かしきれていなかったの?
「…ルウさんの見立てでは、アリさんの悪夢のあのエクソ、レベルにして200もなかったと思いますよ」
そうだったのか…。
じゃあなんだ、俺が意識を失ってそこにルウの本当の精神が入ってきて初めて、本来の強さを発揮できたってことなのか?
「…はい。その通りです」
なるほどなぁ。
ということは、この万能感っていうのも、この身体の本来の精神が入ってきたことによってもたらされているということなのか?
「…ですです。これでわかりました? ルウさんに任せて欲しいという言葉の意味が」
えっと、つまりは俺だとルウを完全に活かしきれないから、一度本来の精神に主導権を全部譲れってことでいいのか?
そうしたらルウさんがなんとかするって感じか?
「…その通りです。ルウさん、あなたはバカかもしれませんが、考えることはできるんですね」
一言余計じゃい!
そんなこと言ったら、俺が作ったお前もバカじゃねえか。
「……仮にそうだとして、ルウさんがあなたよりもルウさんの身体に適しているのは事実ですよ」
……。
「……」
…やめだやめだ、なんだこの不毛な争い。
「……とりあえず、ルウさん、あなたは一度ルウさんに身体の主導権をくださいませんか?」
おう。
もちろんそうしたいのはやまやまなんだが、どうしたらいいんだ?
何か儀式的なものでもやらないといけなかったりするのか?
「…んっと、儀式は必要ないです。なんというか、寝る時みたいに心の中で目をつむって、精神統一みたいなことをやってみてくれません?」
…なんとも抽象的でざっくりとしてるな。
……まあ、ものは試し。
……しっかし、寝るっつったてよ、もう長らく寝てないもんだから寝る感覚なんて………。
……。
………。
…………。
―――。
――。
――さて、あっちのルウさんには一度意識外に出ていってもらえましたかね。
「…なにが『寝る感覚なんて…』ですよ。精神統一するの、上手じゃないですか」
まあ、ルウさん、あなたはルウさんに全て任せてくだされば結構ですよ。
と、いうことで早速先へ進む道を探しましょうか。
「…感覚、研ぎ澄まして……」
静寂の中、研ぎ澄まされた聴覚に一つ、物音が聞こえた。
それはかすかに聞こえる少年の涙声。
ルウさんは声が聞こえた方へ歩き出すわけです。
待っていてください、ロイスさん。
⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー
・アイテム/【魔法書・風】
〈説明〉
風の魔法について記された本。
使用することで読解した魔法を習得することができる。
ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎
ルウ「…風属性の魔術を習得できるアイテムですね。風魔法のギミックとして、空を飛んで崖を越えたり、濃い霧を吹き飛ばしたりするものがありました」




