第4話:初めての戦いと、葛藤。
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side:ルウ・ブラン
教会から出た私は、その光景に息を呑んだ。
陽光が葉の間から柔らかく降り注ぎ、木々の葉はキラキラと輝く。
風に乗って草木、花の香りが漂い、鳥たちは楽しげにさえずる。
うん、やっぱここ日本じゃないわ…。
「……こんな場所だったんですね」
俺…じゃなくて、私…めんどくせぇ、やっぱり俺でいいや。
流石に日本人弱者男性を極めに極めた俺に、いきなりの美少女なりきりムーブはきちぃ…。
要は皮さえしっかりしていれば内心何考えているかなんてわからないわけで。言動に気をつけりゃいいだろ。
そんなことより、俺はしばらくその場に立ち尽くした。てか、景色が綺麗すぎて見入ってたんだわ。
「……まるで、夢の中にいるみたいですよ」
んで、俺がいる場所がアホほど綺麗な場所だってことはわかったんだけども、どうしようか。
この辺りの地形に関してなんも知らんし、そういや、マップは使えるのかな?
「……〈ワールドマップ〉」
ルウ・ブランがそう口にすると、目の前にフローティングキャストが表示される。
…おお、これこれ。アルハントリスク内でよく目にした〈ワールドマップ〉そのまんまじゃん。
んで、今俺はどこにいるのかね…?
「……ありゃ、もしかしてこのマップ、ルウさんが歩いた付近しか登録されていない感じでしょうか?」
マップの表示を見れば、青色の点ーー俺の周りの教会と森を円を描くように約半径50mほどが表示されており、それ以上の地形は全て灰色に塗りつぶされていたのだ。
なんも使い道ないじゃん…。まあ、足運んだところを記録できるから、森の中でも迷わなくなるのはありがたい……か?
とりあえず、そういうことにしておこう。もしかしたら将来、地図埋めとかすんのかな。うっへぇ、面倒臭い。なんて事考えてやがんだ。
はい、気持ち切り替えて。
「そういえば、この赤い点は何なんでしょうかね」
なーんか、地図見たら教会の裏側あたり、つまり俺が今いる位置と真反対のところに赤い点がついてるのよな。
ゲームにはこんな機能なかったし、ちょっと困惑。
予想だけど、モンスターかアイテムって線があるかな? 別ゲーではマップ上にアイテムやらポップしたモンスターやら確認できるものもあったし。
ーーもし、モンスターだったらどうしよう。
「……戦闘、逃走、交渉。」
まあ交渉は、俺人見知りだし友好モブでも実践する気は起きないけど、戦うか逃げるかなら、俺は逃げたいな。
「……ルウさんは、逃げませんけども」
あーくそ、どうしよう。ロールプレイするって決めた以上、あの点がモンスターなら戦わないといけんのよなぁ…。
なんとか確認する方法ないのか…? 例えば、マップ上の赤点をタップしてみるとかーー。
★ーーーーーーーーーーーーー☆
・モンスター名前:Lv/【ゴブリン:8Lv】
〈種族〉
・ゴブリン
〈能力値〉
・[HP:19/30]
・[MP:2/2]
・[筋力 :15]
・[器用さ:9]
・[耐久度:5]
・[素早さ:9]
・[賢さ :5]
・[魅力 :-93]
〈スキルツリー〉+1
◆【ゴブリン】
[雄叫び]
〈付与効果〉
・〈スタン〉
☆ーーーーーーーーーーーーー★
うぉわ! なんじゃこりゃ、ゴブリンのステータス表…? タップしたから見れたんか!
まじで何この快適仕様。人生イージーモード入ってる? 人生終わったけど。
……でなになに? 赤点の正体はゴブリンで良いのかね。
これがアルハントリスク基準のステータスであるなら、こいつは………こいつは、雑魚中の雑魚ということになるな。やーい、ざーこざーこ。
「…スタンしちゃっていますし、とりあえず見に行ってみます…?」
えいままよー。ルウ・ブラン様がこんなカスカスステータスに負けるとお思いで?
なんか気がデカくなってるけどまあいいや。
ボロ教会の角を曲がればーー。
ーー灰色でボコボコの肌をした、小柄でがっしりとした体つき。
小さくて尖った耳、大きな曲がった鼻。光沢のない小さな瞳。総合的な評価は、野生的で凶暴で獰猛。
腰布一枚を装備した、いかにもなゴブリンが、教会の裏手、先ほどルウがいた場所から壁一枚挟んだところで横たわっていた。
「グキキキキキィ……」
ゴブリンは、その醜悪な瞳で俺を睨みつける。
…いや、ぶっさ。てか、こいつあれじゃん。アルハントリスクの、序盤に出てきたルシッドゴブリンの色違いじゃん。あいつは緑っぽい色してたっけか。
あとさ、こいつがスタンしてる理由って、もしかしてさっき俺が使った〈雷鳴破裂斬〉の電気ショックのおこぼれだったりする? それしか考えられんよね。え? 雑魚すぎん?
ーーとりあえず、トドメを刺してみましょうかね。
俺はエレドリームレイピアの柄を右手で握り、抜くーー。
常に青白い光を湛える刀身は美しく、まるで見たものを夢の中へと誘う魔力を帯びているかのよう。
俺はその剣を無防備にも横たわるゴブリンの首に突き立てーー。
「ギャッグゲギィギィガ!」
ゴブリンが今から何をされるかを察し、悲痛な叫び声を上げる。
ん? 待て待て、俺、今平然とゴブリン殺そうとしていないか?
体が勝手に動いたような……って、そんなわけあるかい! なんか今日あれだ、気が大きくなってる。転生したことがそんなに嬉しかったのかな。
ちょっと気をつけよう。んで、このゴブリンどうしようか。
「……起きて襲われでもしたら大変ですし」
やっぱり殺してしまおうか。俺はルウ・ブランなんだ。ルウ・ブランは悪を蹴散らす正義の剣! …って設定だから、チョンパしましょ、チョンパ。
これから魔物を殺す機会なんていくらでも訪れるだろうし、慣れるためにもやってしまいましょ。
「…えい」
俺は冷静に剣を振り下ろす。
迫り来るエレドリームレイピアの刃に、ゴブリンの醜悪な顔が恐怖に歪む。
「ギョ、ゲゲィ………」
その刃は冷酷な一閃としてゴブリンの首筋を深く切り裂き、血飛沫が舞い上がる。
ゴブリンの体が一瞬硬直し、その後首が体から離れて地面を転がる音を立てる。
「……めちゃめちゃ、グロいですね」
ゔぉえぇ! きったねぇ! …正直、ゲームみたいに倒したら勝手にドロップアイテムに変換される、みたいなことちょっとかなりだいぶ相当期待していたんだけど……淡い期待だったか。
でも、生き物の首を刎ねたはずなのに、グロい、汚い以外の感情はたいして湧いてこない。
なんだ、死んだせいかね。死への感受性がとことん低くなってる気がするわ。
とりあえず…。
剣についた血糊を、高速で剣を振ることで払う。
俺がやってみたかった所作のうちの一つだ。
生命の価値だとか、難しいことは後から考えれば良い。
ひゅんっと風を切る音と共に、刀身から血錆が吹き飛んだ。
「……初めてやりましたけど、これはなかなか、かっこいいですね」
そんな月並みの感想を述べたのち、再び目の前の現実と向き合う。
これ、どうしよう。死体持っていきたくないし、ストレージにも入れたくないんだけど。
でも、転生後最初の戦いが、なんか運よくスタンしてたカスゴブリンに、誉なき刃を向けて勝ちました。その後の死体は気持ち悪くて回収していません! とか、今後恥ずかしくて生きていけんだろ…。
腹を括れ! 俺は男だろ……ルウ・ブランは女の子だけれど。
「……気持ち悪いですね……〈ストレージ〉」
そう呟くと、ゴブリンの死体が血の跡を残して消える。
しゃあああああああああ!
成し遂げた!
俺はモンスターを倒して、ハンティングトロフィーも手に入れて、今こうしてここに立っている!
もう怖いものなど何もーー。
視界の端に常に表示してあった〈ワールドマップ〉につい視線がよる。なぜなら、赤い点が無数に出現していたためでありーー。
あいつ! …最後の叫び声に反応して他のゴブリンが寄ってきたじゃねーか!
…死体回収、徐々に慣れていこうな、俺。
日もだいぶ落ちてきたころ、鬱蒼と繁く森の中では、黄昏のゴブリン大討伐が行われていたという。
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・アイテム/【矢草】
〈説明〉
茎の芯が非常に硬く、尖らせるだけで矢の代用となることからついた名前である。
また、この植物の茎に羽と鏃を付けることで上質な矢を作ることも可能。
平野に群生していることが多く、矢草帯と呼ばれる大きな群生地もあるという。
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ルウ「……ルウさんもアーチャーを一時期経由したので分かりますが、マップ状の色々なところに生えていた印象ですね。矢が切れたら終わりの世界なので、レアリティの低いアイテムながらとても重宝したことを思い出します」




