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第48話:嫌な予感。

閲覧ありがとうございます( *¯ ꒳¯*)

Side:ルウ・ブラン



「…ありゃ、広場で転んじゃったんですね。そりゃ災難というもの…〈ヒール〉」


 ある日の真っ昼間。

俺は道端で泣いていた少年の膝に手のひらを当て、ヒールを使う。


「…さて、治りましたよ。…え、お礼? いえいえ、お気になさらず…」


 勝手に怪我を治し、言葉の最後に「今後怪我をしたら、街の北はずれの教会を伺うように」と付け加えて、何事もなかったかのようにその場を立ち去る。


 …うむ、やっぱり慈善活動は気持ちがいいな!ガッハッハ!


 …あ、ども。

 辻ヒーラーやってます、ルウ・ブランです。


 いやぁ、あの後、俺なりに色々考えたんだよね。

 何をしたらあいつらのためになるかって。


 そしたらまあ、回復商売の繁盛の手伝いでもしてやろうかなって考えに至って、今こうして辻ヒーラー兼宣伝隊長をやってるのよ。


「…ふふ、教会の方々にはなんのことわりもいれていませんからね…。急に客が増えて驚くといいですよ」


 そして、教会が今以上に忙しくなって治癒が追いつかなくなってきた時、俺が颯爽と登場して「…ふ、ルウさんがその仕事、手伝いましょうか」とか言って手伝うのな。


 そしたら再び俺に羨望の眼差しが向けられてーー。


 ニマニマといやらしい笑みをフードの中で浮かべていると、遠くで声がする。


「――きゃぁぁ! ガラスで指を切ったわ! いったぁい!!」


 ――よくぞ怪我してくれましたお客様!

 治癒院の常連コースはいかがですか!


 俺は声のする方へ、勢いよく駆けて行くのだった。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷



 皆に再び認めてもらいたいという思いから、勝手に宣伝をし始めて早5日。

 その日は宣伝の効果を目で見て確かめようという思いから、早朝より教会の入り口付近で椅子を準備して座っていた。


 そういえば、教会はだいぶ変わった。

 教会全体に清掃が行き届き、壁や床には埃ひとつない状態。

 ボロボロだったベッドも全て新品に取り替えられ、衝立で生活スペースを仕切り、プライベートな空間もできた。


 治癒師として働く子供たちの、治癒専用ブースもあるし、最初に来た頃と比べると完全に別の建物である。


 そして、現在は陽が登ってまだあまり時間が立っていないというのにも関わらず、教会の前には十数名の行列ができていた。


 俺は数珠繋ぎに並ぶ人々を、教会の入り口付近から眺めていた。


「…ふむふむ。骨折、切り傷、火傷…色々な怪我人が並んでおられますね」


 見た目はごく一般的な民間人といった装い。

 しかし、その者たちのいずれも何かしらの負傷を負っていた。


 それは全てこの教会に治癒を受けに来た者たち。


 ふと耳を澄ましてみれば、並ぶ者たちの会話が聞こえてくる。


「ちょっとふざけて油壺に火をつけたら、爆発するなんて…ったく、ついてないったらありゃしない。…はぁ、早く聖女様に治してもらいたい」


「全く、浮気なんかでどうしてそこまで怒る気になれるのよ。あの人が投げてきた包丁で、肩に切り傷ができたじゃない。…噂の聖女、この傷を跡にしたら、許さないんだから」


 …ほうほう、こいつらの目当ては聖女とかいう存在なのか。

 うちの教会でヒールできる女つったら、クラーラとナンヌだが、あいつらが聖女とでも呼ばれてんのかね?

 

 ナンヌは…多分、根は優しいから、そう言われても納得だけど、クラーラに関しては絶対ないだろうなぁ。


 ということは、ナンヌが聖女…?


 …ちっと気になるし、見に行ってみるか。


 俺は教会内を少し裏手にまわり、治療室の控え室のような場所に向かった。

 休憩用の机と椅子、少量の菓子と水が用意された部屋。


 座っていたアベニウスと目があった。


「あ、ルウ・ブランさん。珍しいね、ここにくるなんて」


 控え室に滅多に姿を現さないルウを見たアベニウスは目をパチクリとさせている。


「…少々、皆さんの様子が気になりまして。今、治療室には誰が入っておられます?」


 アベニウスは「そういうことね」と頷いて答える。


「今治療に当たっているのはクラーラとナンヌだね。リュバンとヤシヌは、ヤシヌが食べたいお菓子があるっていって、二人で街に出ていってから、まだ帰ってきてないみたい」


「…ふむふむ」なるほど。ヤシヌのわがままに振り回されるリュバンにはいつも同情するよ。


 まあ、とりあえずクラーラたちがいるならいいや。


「…ルウさん、治療室に入っても大丈夫ですかね?」


「クラーラたちに用があるの?」という言葉にルウが頷くと「大丈夫だと思う」と許可をくれた。


 俺はさっそく、衝立で作られた短い通路を抜けて治療室に向かった。

 その先ではーー。


「あいたたた! 嬢ちゃん、乱暴だよ、もっと優しく…」


「うっさいわね。大人なら我慢しなさいよ!」


「痛いのは、今だけ」


 右手親指の爪が剥がれ、生肉が露出した男性と、男性の指にヒールするクラーラ。

 そしてクラーラの背後からヒールを支援するナンヌの姿があった。


「ほら、治ったわよ。銀貨一枚置いて早く次の人を呼んできなさい!」


「またね、おじさん」


「あ、あぁ…。評判とは少し違ったが…安いし腕は本物…それに、罵倒もなかなか……」


 治った右手で銀貨をクラーラの手のひらに置き、戯言を残して治癒室を出ていくおじさん。

 俺はそんな治療の一部始終を見て立ち尽くしていた。


 …うん。

 ないない。

 これが聖女は、ない。


「ふぅ。ナンヌ、最近やけに人が多いわね」


「それ。しかし、なぜ?」


 一息ついている彼女らに、俺は後ろから声をかけた。


「…えっと、お二人とも、調子はどうですか?」


 先ほどの出来事を目撃してしまったため、若干定まらないニュアンス。


 そんな声に反応して先に振り向いたナンヌ。

 遅れてクラーラとも目があった。


「…嘘つき、いつからそこに?」


「…あー、今さっきですかね」


「あら、ルウ・ブラン。あたしたちはいつも通り好調よ。それで…何しにきたのかしら?」


クラーラは腕を組んで若干高圧的にルウを見つめる。


…色々と絶好調なのはさっきの一幕で十分察したよ。


「…えっと、ルウさん、何かお手伝いできることがないかな、と思ってやってきたのですけど…不要でしたかね?」


 本当は聖女の噂の真偽、こいつらのどっちが聖女なのかを確かめたかったんだが、この様子だ。

 聖女とかいうのは、どこかしらででっちあげられた噂なんだろう。

 

 だからとりあえず、俺にも何かできることがないかと聞いてみる。


「…ルウ・ブラン。あなたにやってもらいたいことはここにはないわ」


「嘘つきは、やりたいこと、やる」


 おおん。

 手伝いが、やりたいことだったんだけど…やらせてくれねえのか。

 まじで俺、厄介者扱いされてんのかな。


 …思い切って聞いてみるか?


「…あの、最近皆さん、少し頑張りすぎじゃないですかね? …もうちょっとルウさんのこと頼ってもらっても…」


 困ったような表情で首を傾げてみる。

 そんな俺の様子を見て、気まずそうな表情を浮かべるクラーラ。


「あ、あなたは適当にふらついてきなさいよ! 頼るも何も、あたしたち、特に困ってることもないんだから」


 おい、なんか後ろめたいことでもあるのか!

 困ってることはないかもしれないが、あの人数治療するのは骨が折れるだろ?

 俺が手伝ってやろうって思ってるのに、どうして頑なに俺の介入を拒むんだよ。


 俺がそんなことを考えていると、クラーラの背後から声がした。


「…あのさ、クラーラ。ここまでくると流石に嘘つき、かわいそう。隠す必要はないし、はなしてもいいんじゃない?」


 申し訳なさそうに俺を見つめるナンヌ。

 クラーラが「…確かに、そうかもしれないけど」と何やら渋っている様子。


 そんなクラーラに痺れを切らしたナンヌが口を開いた。


「嘘つき、ごめん。最近、嘘つきの仕事ないでしょ」


「…はい。なぜなのか全く検討もつかないのですけども…」


「みんな、嘘つきがいなくても、やっていけること、嘘つきに見せたかったみたい。そしたら嘘つき、安心するでしょ?」


 えっと、つまりは、みんなが自立したことを俺に見せて、安心させるために俺の仕事が奪われてたってこと…?


「…ルウさんは意図的に暇にさせられていた…?」


「…そのとおり」


 おい!

 仕事とられて安心するどころか不安で仕方なかっただろうが!


 …でも合点がいったわ。

 結局俺は必要とされなくなってたんだな。

 まあとりあえず、ネガティブな理由じゃなくてよかった。


「…そういうことだから、あなたはやりたいことをやりなさい。…たまには、自分のためのご褒美の一つや二つくらい与えても、誰も文句は言わないと思うわよ?」


 クラーラ…そんなに俺を思ってくれていたのか。感動。


「…そうですね。お言葉に甘えて、少々自分の時間をとってみましょうかね」


 よくよく考えてみたらこの世界にきてから、俺は全く自分の時間というものを作っていなかったな。

 前はゲーセン行ったりカラオケ行ったり、飯食いに行ったりしていたが、そんなものはないし、何より娯楽に勤しめるほど余裕がなかったからな。


 せっかく聖ゴーフレット王国とやらにいるんだし、大通りなんかを観光して、美味い飯でも食ってみるのも悪くない。


 そうだな。金もあるし、ちょっとばかりはめを外してみるとするか。


「…また何か困ったことがあれば、ルウさんに相談してくださいね。では…」


 そういって俺はバカンスを夢見て治癒室を出て行こうとしーー。


 ドタバタという足音が聞こえる。


「――大変だ。貴族が…貴族の馬車が教会の前に止まってる!」


 通路を駆け抜け、必死の形相を覗かせたリュバンの言葉によってその場にいた誰しもが顔を見合わせた。


 …あー、これ、緊急事態ってやつですか?

 俺、すっかり観光行く気満々だったんですけど。


「…嘘つき、さっそく出番」


「よ、よかったわね! さあ早く貴族なんて追い払ってしまって!」


 のおおおおおおおおう!

 なんで…なんで、いらん時に限って問題がやってくるんだよぉぉぉ…。


「…何事もなく、終わってくれたら嬉しいですね」


 半ば諦めのように、俺たちは貴族の対応の準備を行うのだった。


⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【春風石】

〈説明〉

渦巻き模様の小さな石。

内包するのは、暖かく小さな風の力だと言われている。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「…風属性の武器を最初に強化する際などに用いられますね」

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