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第3話:幸せの下に蠢く影。

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side:???

 


 聖ゴーフレット王国と、ペイザンヌ皇国の両国を隔てる、ブラゼ川。


 その遥か上流、木々が聳える山の中で、不穏な影が蠢いていた。

 

 傾きかけの陽光を反射する、まるで何かを威圧するかのような無骨で金属質な全身鎧(フルプレート)の者達。

 手には赤、金、緑、青などの気を纏った剣を持っており、その剣は精神的な雰囲気を感じさせる。それはどこか、勇者の持つ聖剣のようでいて、そうではない。


 そんな武装した者たちが計二十名、整列していた。


「……商人より情報を得た。奴らは黒だ。…故に、今日の夜全てが変わる。あの村はもう二度と平穏を取り戻すことはない。…怯え、震えるがいい。これがペイザンヌ皇国の力だ」


「「ペイザンヌに栄光を」」


「では、本国より彼の方をお呼びしよう。…まずは、贄の準備だ」



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷



 緑豊かな山々に囲まれたソテー村は、和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気に包まれた小さな村であった。


 村人たちは皆顔見知りで、自給自足の助け合いをしながら、穏やかな日々を送っている。


 そんな村に暮らす一人の少女、アリはその明るい性格から村の誰からも愛されていた。


 長い金色の髪と、澄んだエメラルドのような瞳が目を引く少女で、年齢は15歳ほどといったところ。

 小柄で華奢な印象で、服装はシンプルで可愛らしい、淡い緑のドレスを着ている。


 そんな装いで、少女はソテー村の外れにある巨木のてっぺんに登っていた。


「ホーク、そっちは見えたー?」


「うーん……多分あれが、聖ゴーフレット王国で、あっちがペイザンヌ皇国かな? 両国とも、本当に綺麗だよ。でも、あそこまで行くのは簡単じゃないだろうね」


 アリと共に木にのぼり、眼前に広がる広い世界を臨むのはアリの幼馴染、ホークである。


 真っ黒の髪と、アリと同様エメラルド色の瞳の少年。歳は15歳。

 麻糸で編まれた白のシャツと、グレーの長ズボンを穿いており、その装いはどこか知的で、落ち着きがあった。


「他には、他には?」


 アリとホークはこの村から出たことがなく、外の世界に興味を持っている。

 ホークは村長の息子で、その家には外に関する情報が記された書物がいくつかあり、それを愛読していた。


 そして今日、木の上から、書物の座標と照らし合わせて国を同定したのである。


「ちょっと待ってね……えっと、あれが多分戦争の跡かな? ブラゼ川の辺りの大地に、黒い焦げみたいなのがあるよ」


「ふーん、面白いね。でも、どうして戦ったんだろう?」


 アリは興味津々で聞き返す。


 ホークは少し考え込んだ。


「…占い師が何かを予言したとか、巨人を滅ぼすためだったとか、元々は一つの国で王族が仲違いしたとか、色々な話があるんだけど、でも結局は力を求めた人たちの欲が招いた争いなんだろうね」


 ホークは一呼吸おいて、話を続ける。


「まだ聖ゴーフレット王国とペイザンヌ皇国の戦争は続いていて、聖ゴーフレット王国は何年も前に巨人族と協力関係を結んだそうだよ」


 えっへん。と胸を張るホーク。

 彼の知識は何も家の本棚から得たものだけではない。

 時折村に訪れる商人を引っ掛けては、夜中聞き込みをするほど、彼の行動力はずば抜けていた。

 そして聞いた話を読み解いて、その知見を手に入れているのだ。


 笑顔で話を聞いていたアリはふと、ホークの顔を覗き込むように近づいた。


「よいしょ。ねえ、ホーク。いつか私たちもあの国々を見にいこうよ。私、冒険してみたい」


 ホークは急に近づいたアリの顔に驚き、まるで熟れた柘榴のように真っ赤で、今にも破裂しそうな顔になった。


「え、あ、僕は戦争は嫌だけど…そうだね、アリとなら行ってみたい…かも」


 その時、一陣の風が吹き、ホークのバランスが崩れ、彼は木から落ちそうになる。


「わ、わぁ!」


「ホーク!」


 アリが咄嗟に手を伸ばし、ホークも叫びながら差し出された手を掴もうとしたが、間に合わずそのまま地面に向かって落ちていった。




「…いってて」


 ホークは背中をさすりながら歩く。


「派手に落ちちゃったねー」


 アリとホークはそれぞれの家に向かって歩みを進めながら、昨日の出来事を話していた。


 ホークは痛む体とは裏腹に、目を輝かせて話す。


「…昨日きた商人、面白い話をたくさんしてくれたんだよ。ペイザンヌ皇国の市場には、見たこともない珍しい品々がたくさんあるんだって」


「へえー、魔法の道具なんかも売っているんでしょ? ずっと消えない火とか、無限に水の出る桶とか」


「そうなんだよ。それで、その商人にお礼としてチップを渡そうと思ったんだけど、どうやらこの村の伝説やら歴史やらに興味を持ってたみたいでさ。…僕の家、色々書物があるでしょ?」


「ホーク、村長の息子だもんね」


「そう。だから、父にたのんで、数時間程度本を貸し出したんだ。あれは、僕と同じ知識欲に飲まれた人の目をしていたからね。だから商人をやっているんだろうな」


「安上がりで、いい商人さんだね」


 二人がそんな会話をしていると、道端で作業をしていた村人が声をかけてきた。


「アリ、ホーク、ちょっといいかい?」


「えっと、こんにちは、おじさん」


 ホークは立ち止まって挨拶をした。


「…今、村外れの方から歩いてきたよな? 最近、魔物が増えてきているんだ。危険だからあまり出歩くな…とはいっても、そういうお年頃だからな。一応、大人の目線からものを言わせてもらったまでさ」


 一呼吸おいて、まだ話は続くようで。


「そうそう、魔物の件だが、ちょっと前、村長さんがペイザンヌ皇国に助けを求めることにしたんだよ。あまりにも頻繁に出没するから、調査と討伐をな」


「皇国に…? そんなに危険な状態だったなんて…。ごめんなさい」


「そう言えば、父がそんなことを言ってた…。心配をおかけしました」


 アリとホークが申し訳なさそうに謝ると、おじさんは納得したようで、先ほどのピリピリとした雰囲気を消して、おおらかさを纏う。


「まあ、さっきも言ったが、若いんだから窮屈に感じるんだろうな。お前らはまだ子供だ。俺たち大人のいうことさえしっかり守っていれば誰も怒りはしないさ」


 おじさんは作業を終えたのか、アリとホークに背を向けて歩き出す。


「…まあ、皇国の助けが来るまではもう少し大人しくしたほうがいいと思うけどな。んじゃ、またな」


そう言い残しておじさんは去って行った。


「ホーク、魔物が増えてきている話、ちょっと心配だね」


 アリが不安げに言った。


「…うん。でも、ペイザンヌ皇国の魔法技術は目を見張るものがあるっていう話だから、必ずこの村を救ってくれるよ。でも、当分はおじさんのいうとおり、村の外には出ないようにしようね」


 ホークはアリを安心させるように微笑んだ。


「何かあったら、ホークを頼ってもいい?」


「え、う、うん。もちろんだよ。僕ができることならなんだってすると約束する」


 最後は力強く、ホークはそう言い切った。


「……そっか、安心した。ありがとうね、ホーク。またね」


 アリはホークに手を振りながら、自分の家の方に向かって歩き出した。


「あ、うん。…またね、アリ!」


 ホークもアリに手を振りかえし、自分の家へを歩き出す。こうして、アリとホークはその1日を終えたのだった。

⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【石切虫】

〈説明〉

石を削るヤスリ状の歯を持った芋虫。

体液に、一時的だが筋力を高める作用があり、一部のポーションの素材として用いられる。

歯は武器や防具などに加工される。

肉は非常に美味であり、葡萄酒と共に嗜まれるのだとか。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……ルウさんも筋力上昇系のポーションは持っていますけども、虫が入っていると考えると……少しくるものがありますね…」

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