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第38話:できること、やるべきこと。

閲覧ありがとうございます( *¯ ꒳¯*)

Side:ルウ・ブラン



 ――その日の夜、教会内で初めて大々的な会議が行われた。

 掃除され、綺麗になった床に、祭司がどこからか持ってきた長机を置き、椅子で周りを囲う。


 設置された椅子には、ホーク、祭司ハトホボ、ロースト、アッルンガーレ、そしてルウ・ブランが座っていた。


 それぞれが緊張した面持ちで対面している。


 ――俺を除いてだが。


 …いや、この会議に俺出る必要あったのか…?そもそも、生活基盤を整えるための会議としか伝えられてないし、下手なこと言ったら恥ずかしいし、いっそだんまりを決め込むか…?


 そんなことを考えていると、ホークが全員の顔色を窺った後、開会を告げた。


「この教会に住まわせてもらってから、数日が経ちました。みなさん、それぞれ現状、何が足りていない、こんな不満があるなどが出てくることだと思いますので……今日はこの場で意見を出し合い、生活基盤を整えるためにどうしたらいいかを決めていけたらと思います」


 ホークが話を終えると、早速と言った様子でローストが声を上げた。


「ゴホン。まず私から話そう。…私はこの街の冒険者総合ギルドについて少し調べてみた」


 ローストは自信ありげに周囲を見渡しながら言った。


「冒険者総合ギルドとは、魔物の討伐から荷物の運搬、探し物など、さまざまなことを依頼として受け、それを達成すれば報酬を得られるという仕組みの団体だ。…私たちは、村にいた頃は力仕事も魔物退治も経験してきた。それにーー」


 ローストはルウに一瞬を持っていき、言葉を続ける。


「それに、私たちはブランさんから剣を教えてもらったこともある。私たちの中にはこういった、力仕事や狩を得意とする者もいるし、ギルドに登録して稼ぎを得るのは一つの手だと思う」


 び、びびったぁ…。唐突に俺の方なんか向いて話しやがるから話振られるのかと思ったわい!


 俺の心中など全く気にとめず、ローストの提案にホークが若干眉を顰めた。


「…僕もそのあたりについて調べてはいたんですけど、即日換金なのでお金が欲しい時に得られるのは良いと思います。…ですが、怪我や命の危険も伴います。万が一負傷でもして戻ってきた時、教会の負担が増える可能性も考えられます」


 ホークの言い分は、安全でないため村人を危険に晒す真似はできないというもの。


「…命あってこそ、怪我なくしてこその日常だと、僕は思っているんです。運よく僕たちは生き延びました…ですけど、次、死なない保証なんてないじゃないですか。…もう一度命を失うのは、もう懲り懲りです…」


 ホークの意見にローストが食い下がる。


「ホーク。父親に似て、ずいぶん慎重で思いやる人間になったんだな。…そのあたりは私たち自身で注意して対処するつもりだ。そもそも、全員が戦いに出る必要もない。ギルドの依頼には子供でもできる依頼もあるし、むしろ物資の運搬のような依頼が大半だ。各自こなせる依頼を選べば、ホークが心配するようなことも起きないはずだ」


 ホークは少し考えた後、静かに頷く。


「…なんだか、僕の感情ばかりで喋ってしまい、申し訳ないです。確かにみんながみんな戦う必要はなかったですね…。とても現実的な案ですし、希望者を募って参加させるのがいいと、僕は思います」


「私もそれがいいと思う」


 ローストが満足げに頷き、冒険者総合ギルド加入は可決された。


 …ふむ、冒険者総合ギルドとな。

 そんなものがあるなんて知らなかった。

 でもなぁ、そういう組織って、仲介料を取られるからあんまり好きじゃないんだよな。

 ギルドで依頼なんて受けて行くくらいなら、困ってる人に直接悩みを聞いて解決した方が稼げそう。知らんけど。


 ルウ・ブランはおとなしく座っているが、その表情の下にあるのはいつもくだらない考えなのであった。


 そんなことはつゆ知らず、アッルンガーレが手元の羊皮紙に目を落としながら口を開いた。


「次…わたしの番かね」


 アッルンガーレは村の中ではそれなりに歳をくった人物で、狩や農業の知識が豊富な、いわゆる知識人であり、同じく知識人のホークとは仲の良い存在である。


「…教会の横にある枯れた畑、有効活用できないかと考えている。ここの土壌、栄養が枯渇しているのは、ソテー村と似ている。村での農作業の経験もある村人も多い。…自給自足の基盤を作るが吉…」


 アッルンガーレは続けて具体的な案を述べる。


「…まず、固まった土を耕す。そして土壌の改良。…灰が欲しい。灰さえ撒けばあの土質だと、それだけで土地は肥沃になる」


 アッルンガーレの案に祭司ハトホボが口を開く。


「…アッルンガーレさま、灰とは、暖炉に積もった木の残りかすのことでよろしいのでしょうか?」


 ハトホボの質問に、アッルンガーレは頷くことで肯定する。


「…でしたら、ぜひこの教会に残っているものをお使いください」


「…ありがたく、使わせていただきます。しかし、灰はまだ足りない。…故に、街から灰を集めたいと思っている。…この街、パン職人や鍛冶屋がいる。頼み込めば、安く譲ってもらえる可能性が高い」


 一同が「なるほど…」と感心するなか、ホークが口を開く。


「でしたら、今、教会の横で持て余しているガロウルスと牛車も使ってあげてください。大量に物を運ぶときは、きっと役に立つと思います」


 ほう、なんか綺麗に話がまとまってていいね。

 やっぱり俺なんて必要ないんだわ。


 …ん?

 なんかみんな俺のほう向いてどうしたんだ?

 話ならちゃんと聞いていたぞ…?


 みんなが改まった表情で俺の方を向く。

 そしてホークが口を開いた。


「…どうでしょう、ブランさん。僕たちが今できることとして考えられるものを挙げたつもりですが、ブランさんはどのように考えられていますか…?」


 ホゲェ!?

 いや、え、俺もなんか言わなきゃなんないの?


 ……正直言って、この会議があること事態、唐突の知らせだったから考えなんて何にも持ってきていないんだけど…。


 俺が考える素振りを見せると、一同は沈黙し、静かに俺の方を見つめ続ける。


 ヤヴァイ、なんで俺の言葉を待ってるんだよ!

 小学校のころ、先生に指名された子が問題を答えられずに沈黙していたら他の人に問題がいくじゃん!

 俺は何も答えられないんだから、なんか誰か別の話題出してくれよ…。


 …あ、だめ?

 じゃあ適当に何か言うか…。

 信じろ、ルウ・ブランの脳みそを!


「…回復魔術」


 …俺の口から出たのは『回復魔術』ただそれだけ。


 はぁ!?

 なんだよ、回復魔術って!

 全員が『?』ってなってるじゃねーか。


 誰か殺してくれ…てか死にたい。自分で死ぬ。切腹させて……回復魔術じゃなくて開腹魔術を誰か俺に教えてくれ…。


 祭司ハトホボが俺の失言に疑問符を投げかける。


「…回復魔術といえば、低域のものであれば〈ヒール〉などですかな…? それが、どうかなされました…?」


「…祭司さま。この教会は、怪我人の治癒をして、その報奨金で生計を立てておられたんですよね?」


「…そうでございますが」


「…以前、ルウさんは見ました。訪れた旅人さんに祭司さまが〈ヒール〉で治療されているお姿を」


「あのときでございますね」


「…ですです。そこで気がついたのですが、祭司さまは〈ヒール〉を2回に分けて使用しておられましたよね?」


「…ええ。お恥ずかしながら、私一人では力不足で、簡単な傷以外、1度の〈ヒール〉で治すことができないのですよ」


「…失礼ながら、そうなのではないかと、薄々勘づいておりました。ご不快になられたのであれば、申し訳ないです」


「いえいえ、とんでもない。私の回復が弱いのがいけないのですから」


「…ところで祭司さま、〈ヒール〉はどのようにして習得なされたのでしょうか」


 一同は『この話が生活基盤の安定となんの関係があるのだろう』と言った顔をしているが、それは俺自身も同じである。


「…〈ヒール〉は、まだ孤児だった私を育ててくださった祭司さまが、何にも秀でた部分がない私に取り柄を与えるため、教えてくださいました」


「…習得は困難でしたか?」


「…いえ、コツさえ掴めてしまえば、才がなくとも…少なくとも、私程度の回復魔術を行使できると思いますな」


「…ふむ。ありがとうございます」


「いえいえ、こんな老骨の話など…。しかし、なぜそのようなことを聞かれるのでしょうか?」


 皆同じ意見を持っているらしく、俺の様子を窺ってくる。


「…ルウさんはですね。子供たちにも生きる術があってこその、生活基盤の安定だと考えているんです」


 ホークが疑問符をずっと浮かべたまま俺の言葉の意味を問う。


「…と言うと?」


「…子供たちに、回復魔術を覚えていただいて、この教会を『治癒院』として復活させたいと思っています」


 その言葉に、周囲にざわめきが起こる。


「…回復魔術は誰でも使用ができる…。しかし、才能がないと回復量が少ない。それを数でカバーできないでしょうか?」


 ハトホボが感嘆の息を吐く。


「ほお…。子供たちは手に職を得て、教会も元の機能を取り戻す…なんと素晴らしい」


「…ついでにいえば、祭司さまの負担も減らすことができますかね」


 皆その意見に賛成のようで、のちに子供達に回復魔術を使えるようになりたいか聞いてみる運びとなった。


「…しかし、ブランさんの考えはなんというか、いつも角度が別すぎて驚かされますよ」


 ホークの言葉に「全く、その通りだ」と皆肯定の言葉を並べる。

 そんな言葉を聞いて俺は言いようのない脱力感と安心感を得ていた。


 …よ、よくやった、ルウ・ブラン…。さすが俺の嫁…。

 最初こそ下の見えない紐なしバンジーみたいな感じだったけど、なんとか無事に着地できてほっとしたわ…。案外、適当な意見を口にしてみるのもいいのかもしれないな……もうしないけど。


「ところで、ブランさんはどうするつもりなんだい? 冒険者総合ギルドで依頼をこなすのか、ここで治癒院の再生を手伝うのか、はたまた別のことをするのか」


 唐突にローストが俺に話しかけてきた。

 おい、まだ緊張が解けてねえんだ。気安く喋りかけんじゃねぇ。


「…んー、そうですね。当面は治癒院で過ごそうかなと思っています」


 だって冒険者組合、なんか色々面倒くさそうじゃん。だったらここでのんびりグータラしながら適当に回復魔術使ってる方が楽そう。


「…そうか、残念だな。てっきりブランさんほどの腕ききならギルドに足を運ぶものだとばかり思っていたが…それなら仕方ない」


 おう!すまんなロースト。

 あんたの娘さんは俺がきっちり見守っとくんで、ガンガン稼いできてくんなまし。


 そして夜もふけてきた頃、ホークが立ち上がり、最後の言葉を口にする。


「皆さん、貴重な意見、本当にありがとうございます。皆で力を合わせていけば、どんな困難も乗り越えられると信じています。…今後とも、よろしくお願いします!」


 ホークの言葉に全員は互いに顔を見合わせ、満足げに頷く。


 こうして、生活基盤の安定をはかる最初の会議は幕を下ろしたのだった。


 さあ、明日からも適当に頑張るぞ!


⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【激震石】

〈説明〉

常に震える、黒色を呈する不気味な石。

非常に硬質で叩いて砕くのは困難である。

しかし、常に震えているため自身の振動で少しずつ削れ、そして無くなるという。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……砂の上に置くと、振動で砂を掘りながら徐々に埋まっていくんです。ルウさん、そういうの大好きなのでよく見ていましたね」

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