第37話:再生の幕開け
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Side:ルウ・ブラン
聖ゴーフレット王国の住宅街のはずれにある教会での生活が始まり、数日が過ぎた。
ソテー村の14名と教会の孤児、祭司たちは共に困難な境遇であるが故に早々に打ち解け合い、助け合っていこうというスタンスになったらしい。
「クラーラお姉ちゃん、高いところのほうきとってぇ」
「えぇ、ラアレちゃん、これでいい?」
「うん、ありがと、クラーラお姉ちゃん!」
12歳のお嬢様っ気のあるクラーラと、8歳のラアレが仲良く話すのを楽しそうに見つめるナンヌの姿。
そのほかにも教会の掃除を進める子供達の楽しそうな声が聞こえる。
教会の床を雑巾で擦る、5歳の男の子たち。
「…ね、ね。やしぬ、やしぬ」
「どうしたのリュバン」
リュバンはグーにした両の手をヤシヌに差し出すと、勢いよく広げた。するとーー。
「虫いた〜」
「う、うわぁ、やめろよ…しかもそれ、ヤモリだし…」
「…ほぇ? 虫とは違うの…?」
疑問符を浮かべるリュバンと、それを『理解不能』と言った様子で呆れるヤシヌ。
少し…いや、かなり抜けたところのあるリュバンと、5歳にしては大人びたヤシヌとでは性格は大きく違うが、なかなか相性がいいらしい。
そんな子供たちが本来あるべき姿を見て祭司はつぶやいた。
「…ルウ・ブランさま、本当にいくら感謝をすれば良いものか……あの子達が、あんなにも楽しそうにしております」
「…確かに、とても楽しそうですね」
しかし、馴染めなかった者もいる。
――12歳の少年アベニウス。
太陽光輪国キオッチョラが出自だという彼の肌は褐色であり、その些細な見た目の差から孤児になってからこの教会に拾われるまで、さまざまな差別を受けてきたらしい。
そんな彼は、歳の近いセルベルやクラーラとも会話ができず、真に心を開いているのは祭司のみ、といった様子だ。
ルウも1度接触を図ったものの「…助けてくれたことは感謝している。しかし、どうか僕には関わらないでほしい」と真っ向から拒絶されてしまった。
そんな彼は黙々と仕事をこなす職人気質なきらいがあり、村人から言われた仕事を手際よくこなすため、実は村人からの支持があったりもする。
…そのあたりは、時間が解決してくれたらいいなぁ。
このように、大きな問題もなく教会に皆馴染んできたのだが…。
ルウ・ブラン。俺もあまりこの環境に馴染めていないというのが実情だった。
俺はこんなちんちくりんななりだから、子供達と一緒にいることが多いと思われがちなんだが、実は違う。
お嬢様気質のクラーラからは初対面で「私より綺麗なんて、許さない」なんていって俺に対して対抗心を燃やされ、リュバンは馬鹿、ヤシヌはなんというか堅物な雰囲気があって馴染むことができなかった。
それに、ホークやアリ、祭司のじっちゃんや村の人たちの話や相談をすることが多いから結局は大人たちの輪の中に入ることとなったのだ。
…んで、最近やっとこさそこで、教会の孤児の中でも最年長のセルベル君と仲良くなったんだわ。
セルベル。彼も14歳という絶妙な年齢のせいで大人と子供の輪をぐるぐるしてたから、気になって話してみたら意気投合ってわけ。
それで俺はいま、そんなセルベルに剣の稽古をしてやっていた。
俺とローストのおっさんが教会の裏手で稽古をしているのを偶然見かけたセルベル。
やつは生まれつきの虚弱で、歳にしては筋肉もあまりないから半ば強引に誘ってやったのさ。
――晴れた日の朝、教会の裏庭、綺麗に磨かれた井戸の側でルウとローストが木剣で打ち合っていると、水を汲みに偶然訪れたセルベルがその光景を目にして立ち止まった。
そこから数分、ローストとルウは剣を振り終えるまでセルベルは遠巻きにその様子を眺めていたのだった。
「…大分、打ち込みで軸がずれることも減ってきましたね」
「…ふぅ、ブランさん今日もありがとう。朝からいい汗がかけたよ。…それじゃ、またよろしく頼むよ」
「…もちろんです」
なかなか良い筋肉がついてきたローストが息を切らして去る中、汗の一つも見せず凛とした表情で立ち尽くすルウ・ブラン。
セルベルはそんなルウの姿に見惚れていただけだったのだがーー。
「…セルベルさん、でしたっけ? 手持ち無沙汰でしたら、剣、やってみますか?」
セルベルが水をくんで立ち去ろうとした時、背後から声がかかったのだ。
「…いやえっと、おれは……」
剣を振るどころか、運動すらまともにできない自分では、ルウ・ブランに笑われる。そんなふうに考えてしまい、口が思うように動かない。
「……できないことは、恥ずかしがることではないですよ。どうです、ルウさんのためだと思ってちょっとだけやってみませんか?」
そういうや否や、ルウは軽やかにローストが残していった一本の木剣を拾い上げ、セルベルに投げた。
「…えっ!? ちょっと待って、おれ、剣なんて触ったこと」
「…どうぞ、思いのままに踏み込んで来てください」
慌てて木剣をキャッチしたセルベルだが、もちろん扱い方など全く知らない。
「――どうなっても、知らないからなっ」
しかし、ここで言われた通りにできなければ恥だと、一心不乱に踏み込んだ。
所詮相手は年下の少女だ。その細い腕は、自身の力任せの剣で崩せるだろうと、その一瞬思ったのだった。
しかし現実。足はもつれ、剣筋もガタガタな斬撃は、ルウの木剣に弾かれる。
「――うあ」
そして体勢を崩したセルベルは盛大に尻餅をついた。
顔を真っ赤にするセルベルを上から覗き込むような形でルウが口を開く。
「…どうでした? ルウさんに当てられそうです?」
「…無理。えっと、名前…ブランさんだっけ? 強すぎ」
「…ありがとうございます。ところで、もしやる気があるなら、この時間より少し前にこの場所にいらしてください。そこでちゃんと教えて差し上げますので」
――そんなこんなでセルベルは毎朝、早朝に俺と剣の稽古をするようになった。
そこで気がついたのだが、セルベル。やつはなかなか剣の筋がいいらしい。
腕力がない分、全身を使って剣を扱うことがスムーズにできてるっぽいな。
その反面、腕力がないので剣を持つ位置はずれるし、剣先も常にグラグラだ。
んで、今日の稽古でもそのことについて教えたな。
――ルウの真似をするようにセルベルに伝え、ルウが基本の構えを示す。
セルベルはそれを真似しようとするが、構える場所が定まらないため、剣先がぐらつく。
「えっと…こうか?」
「…違います。肘をもっと上に上げて…ほら、こんなふうに」
ルウはセルベルの手元に歩み寄り、背後から手で支えて剣を持つ位置を訂正する。
すると、ルウの手が自分の手に触れていることに気がついたセルベルは顔を赤くしてーー。
「わ、わかったから、手、離して! 一人でできるから」
「…んん、恥ずかしがってる場合じゃないですってば」
なんてことがあった。
物覚えはいいんだがな、あいつ、いちいちシャイなんだよ。
間違って俺がセルベルを吹っ飛ばしちゃって怪我させた時も、治療のために患部の腿を見せろって言ったら恥ずかしがって脱ごうとしないし。
結局は無理やり脱がせて回復魔術かけてやった。顔真っ赤にして上向いてこっちみないようにしてたの、草生えた。
とにかくあいつはシャイ。
俺の中でセルベルの印象は、貧弱シャイとなったのだ。
「…さて、一回休憩にしましょうか」
そんな数日間を振り返りながら今日も今日とてセルベルと剣をぶつけ合う。
短めの茶髪を汗で額に貼り付けたセルベルが不服そうに口を開いた。
「はぁ…はぁ…。ブランさん、やっぱり敵わない…」
横から見ていたローストが口を挟む。
「セルベルくん、ブランさんに数日で勝とうなんざ、百年早い。かくいう私も、ブランさんにはまだ一太刀も当てられたことがないんだけどな…がっはっは」
…いや、ロースト、お前そんなキャラだったか? 最近筋肉もついてきて、ちょっと見た目や言葉が脳筋寄りで怖いぞ。
「…それでも、セルベルさんの剣には、どこか光るものがありますよ」
「ふぅ…ありがとうございます…」
俺に褒められて恥ずかしそうに張り付いた前髪をいじるセルベル。
その後4回ほど打ち込んだのち、日課の剣の稽古は解散となった。
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・アイテム/【グリフォンの風切羽】
〈説明〉
グリフォンの、その大きな翼の風切羽。
小鳥のそれとは違い、非常に硬質で研げば肉を絶つ刃物にもなる。
空のシンボルとして描かれることの多いグリフォンだが、体が重いため実は地上を歩いて移動することのほうが多いらしい。
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ルウ「…グリフォンはどの部位もそれなりの値で売れるんです。なので、ルウさんは最初の頃なんかは乱獲していましたよ」




