第36話:教会に起きた奇跡。
閲覧ありがとうございます。
今後はこの教会を中心に物語を展開していけたらな、と思います( *¯ ꒳¯*)
ーー地下室。
卓上に置かれた一本の蝋燭。灯る火がホークの声に揺れる。
「――というわけで、僕たちが全力で教会の支援をしていきますので、受け入れていただけないでしょうか…?」
老祭司ハトホボは目を瞑り、ゆっくりと頷く。
「…ええ。人は皆神の子。…もちろん受け入れさせていただきます。…ですが……」
ハトホボは両手を顔の前で組み、少しだけ間をおいて話し始めた。
「……ホークさま。あなた方が教会の手助けをしてくださるなら、住む場所は保証いたしますが、食料などに関して、すでに私たちは限界……それ以上の支援はこの教会では到底まかなえないと思っていただきたいです…」
「それは当然です…むしろ、僕たちが教会を使わせていただくんですから、食料の支援なども後々させていただきたいと思っています」
ホークはその後、自分たちは施しを受けるために来たのではなく、あくまで自分たちの居場所を求めてやって来たのだと説明した。
ホークの話が終わった頃に、ハトホボはまっすぐな視線を向けて口を開く。
「……ふむ。ホークさまは、全くの聖人なのですね。私にはない、若さもある。…独り言ですので、聞き逃していただいて構いませんが……この教会、もし後継がいるなら、ホークさまのような方にお願いしたいものです…。そうすれば、安心して4柱の神の客になれるのでしょう」
「…祭司様、冗談はよしてください。…僕じゃ分かりませんけど、残された子供達は決していい気はしませんよ」
「…失礼いたしました。しかしまぁ、私などではあの子達をどうすることもできませんでした…。可哀想だと勝手に拾ったは良いものの、肝心の世話ができないのであれば、それはもう共にいないのと同じです。…きっとあの子らもそう思っているはずでしょう…」
ホークは「そんなことない」と口に出しかけるも、実状を知らない今、軽率な言葉はかけるべきではないと判断し口を閉じる。
「…ほほ、暗い老ぼれで申し訳ないですな。…そういえば、先ほどのフードをつけた…ルウ・ブラン。そう、ルウ・ブランさま、彼女はどういった人なのですか? …どうやら出ていったきり、帰ってこないようですが」
ホークは、そういえばブランさんは何をしているんだろうと思うのと同時に、ルウ・ブランがどういう子供…人なのかを考え、伝えた。
ルウ・ブラン。旅の剣士をしている少女で、魔物に襲われ村を追われるまでからこの国にやってきたことなど、様々語る。
最初は頷きながら話を聞いていた祭司ハトホボはその逸話のたび、徐々に驚いたような表情をするようになった。
「…ま、まるで物語の英雄、もしくは人間の鑑である聖女のようなお方なんですな…」
ホークも振り返りながら語っていて同じようなことを思っていた。
窮地の村に突如として現れ、見返りも求めずに次々と現れる壁を乗り越える助力をする存在。一体どんなお人よしな英雄なのかと。
「ええ。僕たちは、もし世界で最も聖人であるものを挙げろと言われたら、迷いなくブランさんを挙げると思います」
「…ぜひ、この教会にもお力を貸していただきたいものです」
「ブランさんなら、多分今頃、すでに何かしているんじゃないですかね。実は…先ほど、祭司さまが戻ってこられる前に彼女は『ここの人たちを助けたい』と言っていたんです。多分そろそろーー」
ホークが言葉を連ねる最中、その時、地下室の扉がゆっくりと開かれた。
――階段から現れたのは先ほどとは違いフードを取払い、光沢のあるクリーム色の長髪を背中まで伸ばした、薄紫のローブを着た少女。
「…えっと、お話中でしたかね?」
先ほどのフードの少女の下から現れた、まだまだ幼さの残る、それでいて気品ある整った顔立ちに、ハトホボは数瞬見惚れていた。
「…あ、そっか…フード。祭司様、改めまして…ルウ・ブランと申します」
どこか慌てたような口調とは裏腹に、丁寧なカーテシーを繰り広げる。
「…ほぅ……なんと美しい…」
ハトホボは椅子から立ち上がり、ルウ・ブランに軽く頭を下げた。その仕草にはどこか一抹の敬意が感じられる。
「…ルウ・ブランさま。あなたの話はホークさまより聞き及んでおりますよ。…どうか、ぜひ私らめにご助力賜りたく……」
「…えっと、そんなことよりちょっと上に来てください。少々、見ていただきたいものがあるんです。…きっと、驚きますよ」
それだけ言い残すと、回れ右をして階段を登っていくルウ・ブラン。
その堂々とした姿に、ハトホボは若干驚きながらも、ホークと共に彼女の背中を追って歩き出すのだった。
――階段を上がり、教会の小さなホールにたどり着くと、ハトホボの目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
「…んむ、ふぁぁ…あれ、祭司さま…?」
金髪を短くまとめた、年齢にして12歳程度の少女が自前の吊り目を眠たそうに擦り、ベッドから姿を起こす。
「…そ、そんな……クラーラ…目が見えるように…」
「…あぅ、さいしさま、おはよぅ」
布地がまだ白い、新目のベッドから祭司を呼ぶのは、産毛のような黒髪がふわふわの、玉のような女の子、ミロネ。
「…こんなに頬がぷっくりと……肌もツルツルに…」
この二人だけではない。
未だベッドの上で眠っている者もいるが、7名の子供全員がつい数時間前とはまるで別人のように健康的な容姿、安心した顔をしていた。
「…あぅ、さいしさま、なみだいたい、いたい…?」
「…あぁ、違いますミロネ。これは嬉し涙なのです…」
枯れ木のようだった7人の子供たちが、手足に肉をつけ、健康そうな顔色でベッドに眠るその姿は、まさにこの数年、ハトホボが思い描いた情景そのものだった。
「…本当に、あなたたちなのですね。セルベル、アベニウス、クラーラ…」
ハトホボは視線をベッドがらベッドへと移し、涙ながらに呟く。
「…ナンヌ、リュバン、ヤシヌ、ミロネ………ッ! ……なんと………なんという奇跡なのでしょう……」
ハトホボの後ろではホークがルウに向き直り、疑問符を投げかけていた。
「ブランさん、これはいったい…?」
ルウ・ブランは肩をすくめながら淡々と答える。
「…むぅ、助けるって、言ったじゃないですか。回復アイテムを使って」
「…ブランさん、僕はちょっと言葉が見つからないよ……」
「…もちろんルウさんだけであの子達を治したんじゃないですよ。ソテー村の方々にもご助力していただいて、現状があるんですからね」
さも「大したことはしてないです」と言わんばかりのルウ・ブランの姿を見てホークもハトホボも言葉を失ったのだった。
――その後、次々と目を覚ました孤児たちが次々と祭司のもとへと足を運び、互いに回復を祝う姿を、ルウ・ブランやソテー村の面々が暖かく見守った。
その光景を遠目で見ていたルウは一歩だけ足を引き、ホークにだけ聞こえる声でつぶやいた。
「……ホークさん。わかっていると思いますけども、教会のお手伝いというのはまず全員が健康であるのが大前提で、この先どうやっていくかが大切なんですからね」
「…は、はいもちろん考えています…。ところでブランさん、あの人、先ほどからずっと、ブランさんと僕のことを睨んできていませんか…?」
「…えっと、あの茶髪の…?」
ホークがいう通り、祭司に集まる7人の孤児のうちの一人、一際高い身長を持つ最年長であろう少年が、ホークとルウを注視していた。
「…んー、ルウさんたちに何かついているんですかね? …ホークさん、何か心当たりは…?」
ホークは顎に手を当て、数秒ほど考える素振りを見せる。
「…僕に心当たりは……。ところでそろそろ夜になるし、祭司さまに村全体の挨拶と、使用しても良いベッドがどれなのかを聞かないと」
「…やっと、牛車生活から解放です。さあ、明日からまた頑張りますよっ」
「ええ、ブランさん、よろしくお願いします」
その後、ハトホボはルウやソテー村の面々に改めて礼を述べ、教会を住まいとして提供することを正式に申し出た。
その夜、ルウを除く22名は泥のように眠りについたのだった。
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・アイテム/【氷獄魔弾】
〈説明〉
投げると爆発する、恐ろしく密度の高い氷の結晶。
爆発後、白い冷気を触手のように伸ばすその様は、死の蛇とも言われ恐れられた。
扱いを誤れば自らも傷つけかねない危うさがある。
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ルウ「…いや、ルウさんはまさか味方も自分も巻き込むだなんて思っていなかったんですよ。気がつけば皆凍結。……アイテムの扱いは本当に気をつけるべきだと痛感しましたね…。あの時のパーティーの方々、本当にすいませんね…」




