第2話:スキルと魔術と、目標と。
ブックマークをつけてくださった方々、本当にありがとうございます( *¯ ꒳¯*)
今回の話で一旦、説明的な話は終わりで次の話からしっかりと物語を進めるつもりです。
「……なかなか、どうもこうして確認するだけで疲れるんですかね」
ここまで容姿に動きやら、ステータスにアイテムやらを確認するのに大体、体感時間で一時間くらいかな?
結構疲れてきてたんだけど、やっぱりあれを確認しないわけにはいかんわな。
「あれとは、そう……スキル、魔術諸々のことですかね」
ルウ・ブランのロールプレイをする上で1番欠かせない……とまでは言わないけども、頑張って組んできた能力が使えるかどうかは結構大切な部分だと俺は思ってるのよ。
〈ステータス〉に〈ストレージ〉も使えて魔術・スキルが使えないなんてことないと思っていたんだけど、案の定使えたわ。人生楽勝。あ、人生終わってたわ。草萎える。
俺は〈ソーサラー〉ってジョブのパッシブで[低域魔術全使用可能]を持っているから、火、水、風、地、雷、氷、光、闇の8属性と、毒、聖、邪、時、空間、音、精神の特殊魔術7つの、計15種属の低域魔術を行使可能なんですわ。
パッシブスキルは、スキルごとにある熟練度を最大値まで上げたものが獲得できるスキルで、火力がバカたかいやつとか、汎用性に富んだやつが多いんだけども…。
ソーサラーも例に漏れずって言いたいけど、正直言って器用貧乏すぎて実用性があんまりない。でも、夢幻廻廊や一部のコンテンツや、マップ探索なんかでは役に立ってたから構成に入れてたのな。
話はずれたけど、俺はまず、火属性の低域魔術〈エンバーフロウ〉を行使してみた。
なぜ火魔術なのかというと、端的に言えば見た目で行使できたのか判断しやすいと自分の中でそう思ったからで、それ以上の答えは…ない!
魔術の行使、ゲーム時はマイクに魔術名を言うか、キーボードで入力するか、ショートカットキーから出力するかのどれかだったんだけど、今はマイクもキーボードもなかったからーー。
「……とりあえず、ものは試しということで…〈エンバーフロウ〉」
顔の前に手をのばす、ルウ・ブラン。
古びた教会の静けさに、少女の声が溶ける。
すると手のひらから、細かな火の粉が流れ出した。
ーー手のひらをつたい、指の間を抜け、周囲を優しく照らしながらゆっくりと空中に舞い上がる。
「……きれい」
心の底から、そう思った。
火の粉はまるで生きているかのように、温かみのある橙色の光を纏い、教会の床に広がる割れたガラスが火の粉を映し出す。
まるで星屑のように輝きながら周囲を照らす火の粉を見て、思わず息を呑んだ。
「……いや、とんでもな」
ーーてな感じで、度肝抜かれたよね。
魔術の行使に一切の問題なし! そういや、MPはどうなっているだろって〈オープンステータス〉でみてみたらちゃんと減ってたわ。いいねぇ、リアルだねえ。
〈魔術〉が使えるなら、ってことで最後に確認したのが〈スキル〉な。これがなかなかに面白い結果に終わったんだよなー。
ーー俺は魔術の行使が成功したことに安心しつつも、さらなる確認を行うべく準備をしていた。
「……スキルの確認しないとですね。ですけども、スキルって戦闘状態でないと発動しない仕様なんですよね……」
そう、これが大切なのよね。俺はまだ敵といえる敵どころか、鳥の鳴き声を聞いた以外に何も生体反応を実感してないの。
もしかしたら教会の外には動物やモンスターがいるかもしれんけど、初戦でスキル発動させられる自信なくない? てかそもそも俺戦えるの? ルウ・ブランになったはいいけど、中身が俺なわけで。
弱者男性エンジョイ中の俺が適当なゴブリンにすら多分勝てないことは言わずもがなでしょうに。
魔術はね、あれなんだよ。街中とかフィールドとかのギミックに使うことがあったから基本的にいつでも、どこででも使用が許可されていたんだけど、スキルは完全に戦闘向けでしょ?
街中で急に百本の剣降らせますとか冗談じゃないのよ。だから戦闘時以外はスキルのコマンドが出ないようになってたんだわ。
スキルのマークは、いつもなら画面左端にクロスした剣のアイコンが浮かぶんだけど……まあ、ないわな。
「…これも、ものは試しですかね」
ーー意を決して、レイピアを抜く。
鞘からゆっくりと抜かれる〈エレドリームレイピア〉は、まばゆい光を放ちながらその姿を露わにした。
ーー柄には精緻な装飾が施され、刃は薄く鋭く、美しい青みがかった光がまとわりついている。
そのレイピアのあまりの見事さに、魔術と同様またもや俺は見惚れてしまった。
「本当に……美しい……。…じゃなくて」
しかし、すぐに気を取り直し抜いた得物を目の前に携えた。
「……発動しなかったらしなかったで、また機会はいくらでもあるはず。……〈雷鳴破裂斬〉」
俺がスキルの名を口にすると、ルウ・ブランの手のひらから何か熱いものが迸り、携えた刺剣に流れこむ。
パチパチと青い閃光を駆け巡らせるソレは、高密度に圧縮された雷鳴だった。
次の瞬間、力強い電撃がレイピアの先から発せられると同時に、目の前の古びた木製の椅子が粉々に砕け散った。
「ーーえ、ちょ」
続いて、床にまで雷が伝わり、黒焦げの跡が広がる。
壁にも稲妻の跡が焼き付き、ステンドグラスは音を出して割れてしまった。
「……えっと、強くない?」
それはあまりにも突然の出来事で、俺は驚き戸惑いながら周囲を見渡す。
「……使えちゃったぁ。……そこはゲームと違うのねえ……」
ーーぱねぇ…。その一言に尽きるよ、マジで。
その時、罪悪感が俺を襲ったよね。
だって、知らない教会内の物品を粉々にしちゃったんだもの。
エレドリームレイピアしまって、手を合わせちゃったもん。ごめんなさいの意を込めて。うん…多分許された。
ーーそんなこんなで現在、何はともあれ、これで俺が今置かれている状況が、完全にゲームの世界と同じじゃないってわかったわけだ。
そこで、考える。
俺って、死んで、なんでルウ・ブランになってこんなところにいるんだろうなって。
前の人生、目標もなくのんべんだらりと自堕落な生活を送っていて、なんで俺が選ばれたのかなって。
多分、神様が見てられなかったんだろうな。
クソキモオタク、犯罪者予備軍の弱者限界男子大学生。
それで、多分ルウ・ブランになりたい!ってずっと家の中で叫び回ってたから、哀れに思ってこうして願いを聞き届けてくれたんだな。知らんけど。
じゃあ、それに恥じぬように生きないと。
「どうしましょうかね……ルウさん、目標なんてないんですけども…」
確かに、ゲーム内のルウ・ブランならそう言うだろうな。しかし俺は違う。
俺はここに、一つの目標を掲げる。
「……とりあえず、ルウ・ブランを貫き通す…とでもしておきましょうかね?」
俺が最も愛したキャラクターになれたのだ。
もはや生前の目標は達成されたも同然。
ならば、今この生は、この命は誰のためにある。
それは間違いなく、ルウ・ブランだ。
だから俺はルウ・ブランとして生きる。
最高のロールプレイを成し遂げてみせる。
「それがルウさんの、目標ですかね」
“私”は、今にも崩れそうな教会ーーその先に広がるまだ見ぬ光景を目にするために、一歩、また一歩と踏み出すのだった。
ーーただし、若干ガニ股で。
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・アイテム/【精霊のグラジオス】
〈説明〉
勇者の花の別称を持つ、大きな水色の花弁をつける植物。
多量に養分を蓄えた花弁を周囲に振り撒くことから、周囲にはその養分で育った花畑が作られる。その光景を古人たちは勇者の象徴である“精霊の祝福”と準えた。
主に観賞用として摘まれることが多く、時には行事となどに用いられることもある。
また、ポーションの素材としても流通しており、微弱な覚醒作用を持つことで知られている。
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ルウ「……周りに養分を撒き、花畑を作る花。まるで人を助けて周囲に満開の笑顔を咲かせる勇者を彷彿とさせる、素敵な花ですね」