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第20話:アリの夢のエクソⅠ。

遅くなりました( *¯ ꒳¯*)

side:ルウ・ブラン




 ルウは、アリとドリームゴーレムを洞窟に残し、エクソを探すために、月明かりが薄暗く照らす森の中を走る。


「…さて、どのあたりにエクソがいますかね」


 大抵、エクソがいるのは夢の端っこだ。あいつらは、夢を食べて力をつける。

 つまり、夢の端をぐるっと回れば見つかるはずなのだが…。


「…そもそも、夢の端ってゲームの中だけの話でしたし、この夢に果たして端なんてものがあるのでしょうか…」


 先ほどから森の中を走り続けているが、見当たるのはルシッドゴブリンだけだ。


 木の影から姿を現す醜い小人鬼に、抜身の刺剣を突き立てながら風のように駆け回る。


「ギョゲゲガ!」

「ゲゲグキョ」


 叫び声も短く、首を落とされて地に臥すゴブリン。


 うん。楽しいわ。

 

 抵抗する間もなく大地に体が崩れ落ちる様を後ろに、一息つくこともなくゴブリンを切る様は、まさに殺戮の風か、光の嵐といったところだろう。


「…それにしても、バクの召喚を試すことができてよかったですね」


 ゴブリンを切り捨てながら、召喚したドリームゴーレムのことを思い出す。


 以前より、バクの召喚を試みていたが村の中ではあまりにも奇天烈なことはできないので自重していたのだ。


バクの能力値も、パッと見た感じゲーム内と変わりないステータスをしていたので、周囲に生息するルシッドゴブリン程度には負けることもないだろう。


「…んー、それにしても見つかりませんね」


 周囲をいくら探索しても、あるのは暗い森と、木々の隙間から時折現れるルシッドゴブリンのみで、一向に見つかる気配はない。


 いや、待てよ。まだ俺が探索初めて10分も経ってないだろ。

 アルハントリスク内での苦行を忘れたか?

 【飛竜軟骨】とかいうレアアイテムのドロップのために、アルハント・デアの山岳地帯で飛竜討伐に奔走した日々を。

 まだ探索なんて始まってすらねーよ。これはまだ準備段階、指ならし。


 とりあえず、マップを分割して探す範囲を限定していきましょ。闇雲にやっても見つからねぇ、そんなのはゲームの時に嫌というほど理解した。


「…では、ひとまず、あの少し大きな木が生えているあたりまでくまなく探索ですかね」


 俺は視界の向こうに映る、小高く聳える木に指さしをしてから、今いるあたりを駆け始めた。




 …一方その頃、洞窟内に取り残されたアリは、心配と恐怖といった複雑な心境に立たされていた。


「ルウさん、大丈夫かな、早く戻ってきて…」


 ルウ・ブランという少女は、アリが見たあの化け物、エクソを探しにここを発った。それから幾ばくかの時間が経過したが、未だ戻ってくる気配はない。

 アリからしてみれば、先ほど初めて出会った少女、そんな彼女がアリのために命を張るなど、到底信じられないことである。崇高な思考をしたルウ・ブランという少女。彼女には無事に戻ってきて欲しいのだ。


 アリがルウ・ブランに帰ってきて欲しいと願う理由は心配のほかに、彼女がここに残していったもの対しての恐怖からもきていた。


「…私のことずっと見てる」


 見ているというのは、それ自体に瞳らしきものが見当たらないので正しいのかは不明だが、少なくともアリのそばに寄り添うように佇む、一匹?の巨大なドリームゴーレム。

 巨躯と、人体とは違った不気味な構造の生物に、アリはひどく恐怖していたのだ。


(タコヤキクン…だっけ。魔物…じゃなくて、ルウさんのペットだって話だけど、絶対魔物だよね)


 非現実的なゴーレムをチラチラと見ては、視線を逸らす。そんな行為を何度も何度も行っていた、そんな時だった。


 タコヤキ君の核のような場所が赤い光をこぼしたかと思えば、アリを背中に入口の方へと歩き始めた。


「え、ちょっと待って! 外は危険だから、だめだってっ。ふんぬーー止まれっ」


 アリは洞窟から出て行こうとするタコヤキ君の腕を掴み、強引に引き止めようとするも、タコヤキ君の剛腕からなる馬鹿力に対抗すること虚しく、ポイっと後ろに投げ出されてしまった。


「ねぇ、待って! 待ってって!」


 アリの言葉を無視して洞窟の入り口へ直行するドリームゴーレム。まるで何かに執着するかのような彼の行動に、アリは心底困惑していた。




 …アリのいる洞窟の目の前、そこには30を超えるルシッドゴブリン達が集結していた。ゴブリンは群れて行動をする、社会的な生物である。

 以前、アリがルウと出会う前にここを襲ったゴブリンのいく匹かが、他のゴブリンにここに人間が隠れられる洞穴があると伝えていたのだ。


「ゲギョギョケッキョァ」

「キョキョーケッキュギュ」


 あるゴブリンは、人間の排泄物や残された食料品に思いを馳せ、またあるゴブリンはその洞穴で新たなコロニーを築き上げる長になることを企む。


 先行する4匹のゴブリンが、河辺の洞窟の入り口へと歩みを進める。あの先に眠るのは、どんなお宝なのだろうか。


 醜い笑みを浮かべながら、ゴブリンは洞穴に頭を突っ込みーー瞬く間に吹き飛び、首のない肉片となって集まったゴブリン達に降り注いだ。


「ギャゲ!?」

「ゴーゲッギャッゲッゲヤ!?」


 突然の出来事に困惑するゴブリン達。いったい先行したゴブリン達に何が起きたのだろうか。


 そしてその謎は、即刻解けることとなる。


 洞穴の入り口から覗くのは、月の色を反射する結晶状の生命体。その巨躯と硬質な剛腕がゴブリン達を粉微塵に吹き飛ばしたのだろう。


 仲間をやられた怒りと、期待通りではなかった半ば裏切られたという感情からくる怒り。そんな様々な怒りが、その場のゴブリン達を即座に支配した。


「ギャブゲッゲ」

「ゲーギャンギョグギョゲ」


 統率の無い動き、全方位からの人海戦術は一斉にしてクリスタルの生き物、ドリームゴーレムを取り囲んだ。

 そして、ゴブリンは手に持った棍棒や、繊維状の植物を切り出して作った槍などで攻撃を行おうと、近寄りーー即座に吹き飛び、動かなくなった。

 そんな攻防などといった考えを捨てた、一方的な暴力によってその場に居合わせた30を超えるゴブリンはものの数秒で息をしない肉片へと変貌したのであった。


 その光景を、アリは洞窟から身を乗り出して見ていた。


「ーーす、すごい」


 ゴブリンを大勢屠ったタコヤキ君には、一切の汚れもなく、月明かりを反射してただただ幻想的であったという。




 そんな一幕が演じられているとも知らないルウ・ブランは、鬱蒼とした森の中を駆け回るのをやめ、低木の陰に潜んである一点に集中していた。


「…ようやく見つけましたよ…エクソ」


 見上げるほどの巨躯。頭以外を覆う黒く錆びついた鎧には無数の刻印が刻まれ、濃厚な瘴気が絶えず漏れる。

 顔面はまるで溶けたかのように崩壊した顔で、眼窩の中では赤い光が糸を引く。口元は裂け、大きく開いた口からは、抜け落ち不揃いの歯が顔をのぞかせる。

 そんな、ある種騎士のような外見のバケモノは背中に巨大な血肉のついた剣を背負っており、その剣がどれだけの命を潰してきたのかを容易に想像させた。


 見るからにアンデット系のエクソ。いや、怖すぎ。アルハントリスク、見た目が恐ろしい敵に関してはとことん怖い見た目してるからな。

 このエクソ自体は見たことのない種類だけど、どの程度の強さなんだ…?


 早速、〈ワールドマップ〉からエクソのステータスを見ようとワールドマップを開くと、エクソのいる位置には大きな赤い丸が出現していた。どうやら、ボス級の魔物はこうして大きな赤点で示されるのだろう。


 赤点を…タップ! 見せてくれ、そのパラメータ!




★ーーーーーーーーーーーーー☆

・モンスター名前:Lv/【エクソ:???Lv】


〈種族〉

・悪夢


〈能力値〉

・[HP:???/???]

・[MP:???/???]

・[筋力 :???]

・[器用さ:???]

・[耐久度:???]

・[素早さ:???]

・[賢さ :???]

・[魅力 :???]


〈スキルツリー〉

◆???



〈付与効果〉

・ー


☆ーーーーーーーーーーーーー★




 どんなパラメータかね…って、うん?


 おいおい、マジかよ…パラメータ見れねえじゃえか! てっきり今まで同様パラメータ見れるものだと思ってた分ショックでかいわ。草萎える。 


 いやー…どうだろうか。軽率に殴りにいっていい相手なのか、判断をしあぐねるな。

 というのも、エクソの強さはピンからキリまで様々いて、レベルによるパラメータもあるけど、固有のスキルを持っていたり、耐性や属性の相性なんかもあったりする。


 上手いプレイヤーなんかは、敵の攻撃を巧みにかわして格上にも勝利することができるとはいうが、それも相手のレベルが10でも上回ればプレイスキルもほぼ意味をなさなくなるんだよな。


「…属性相性としては、ルウさんはどの属性も付与できるので、問題ないかもしれませんけども…」


 うむ。レベル差がどれほどのものなのかわからない以上、今挑むのは危険に身を晒すことと同義だよな。


 いやー、しくった。タコヤキ君、アリのところに置いてくるんじゃなくて、エクソの戦闘能力を知るための方法として取っておくべきだった。

 …でもそれだとアリが襲われて夢が崩壊する可能性があるか。


 ーーぬああああああ、人生ってうまくいかないよな、全くもって。計算されてるんじゃないかってくらい失敗の選択肢を引き当ててるわ。


 さて、過去のことを悔やむよりも、今後どうするかを考えるのが先だな。とはいってもやることはただ一つなんだが。


「…ここで逃げ出せば、またエクソを探す羽目になりますし、エクソはアリさんを襲いに行くかもしれません。ここで倒してしまいましょうか」


 俺はルウ・ブランだ。

 ゴブリンと最初に出会した時もそうだったが、何も持たない落ちぶれた大学生、川畑優樹ではなく、容姿端麗で剣も魔法も使える俺の嫁、ルウ・ブランなんだ。逃げていいのは前世までで、俺はルウ・ブランとして生きると決めたんだ。


「…でもまあ、勝てそうになかったら撤退しましょうか。逃げではなく、エクソの情報を持ち帰って対策するという名目で」


 俺は茂みに身を潜め、息を殺してエクソの動向を窺いつつ、エレドリームレイピアを抜く。


 夜の闇とに包まれた森は静まり返っており、時折そよく風が木々を揺らす音だけが響いていた。


 そんな中、月明かりに照らされてエクソのその巨大で醜悪な影が浮かび上がる。


 うへぇ、気持ち悪い見た目しやがって。さて、よくわからんけどさっきから動いてないみたいだし、エンチャントして殴り込むとするか。

 

 アンデッドは無難に聖属性のエンチャントだよな。


「…〈エンチャント・ディバインライト〉」


 俺が手に持つエレドリームレイピアに薄青い光が纏わりつき、周囲の植物を清い光で微かに照らす。


 よし、準備万端…とは、まだいかない。なぜなら今回に関しては勝てるかわからない相手に挑むわけだからな。

 てなわけで、アイテム使うか。

 ゲーム内ではエリクサー症候群によって倉庫の肥やしになっていた、自己強化系のアイテムを使う時がついにやってきた。


「…〈ストレージ〉」


 ストレージを開いて、道具の欄にスクロールすれば、限界数の999個までスタックされたアイテムの数々が出迎えをする。


 …さて、アイテムを使っていくんだが、使用するのは筋力・体力を底上げする〈ゴールドパワーダスト〉と、素早さ・耐久度上昇の〈セージガルーダマジックポーション〉。あとは…属性ダメージアップ効果のあるスキルの効果を得られるアイテム〈スクロール・ブーストダメージ〉かな。


 使用順序は、効果時が6分と最も長いスクロールから。ダストとポーションは共に5分の効果時間だから、お好みでって感じかね。


 早速インベントリから〈スクロール・ブーストダメージ〉を取り出し、小声で読み上げて使用する。


「…スクロール・ブーストダメージ。んぅ」


 巻物は言葉と共に溶解し、その紙面に記された文字のみが空中を漂い、ルウの体にまとわりつくように全身へと伝う。それと同時に、ルウの魔力の一部が高まるような感覚にかかる。


「…変な感覚。これで属性ダメージが上がるんですね…。…では次は、ダストとポーションですね」


 金色の粉が入った小瓶をストレージから取り出し、蓋を開けて頭から振りかける。金色の粉は空中を分散しながら舞い落ち、ルウのクリーム色の髪やローブなどに降りかかり、解けるようにしてルウの体へと吸い込まれていった。


「…これは、はっきりとわかるものなんですね」


 明らかに先ほどよりもみなぎる力。手のひらをグッパグッパしてその実感を得ると、次は風を濃縮したような色を呈する液体の入ったポーションを取り出した。そしてそれを一気に飲み干す。


「…早く動けるような気がします。…確かめてみますか〈オープン・ステータス〉」




★ーーーーーーーーーーーーー☆

・名前:ジョブ:Lv/【ルウ・ブラン:魔法剣士:233Lv】


〈種族〉

・夢渡り


〈能力値〉

・[HP:32,030/30,530](+1,500)

・[MP:18,269/18,419]

・[筋力 :654](+350)

・[器用さ:433](+150)

・[耐久度:291](+450)

・[素早さ:424](+250)

・[賢さ :398](+200)

・[魅力 :507]


〈カスタムスキルツリー〉+3

◆【ソード・マーグヌス】

[かぶとわり][ビッグバン][葬送無双][雷鳴破裂斬][急所突き]


◆【オール・エンチャンター】

[オール・エンチャント][エンチャント持続時間+120秒][常時属性ダメージ][オーバーダウン][重ねがけの技法]


◆【極域風魔術】

[ウィグリッド][ベイグルーン][カタストロフ・タイフーン][常時風属性ダメージ][風属性ダメージ+150%]


〈パッシブスキル〉+3

◇【魔法剣士】

[エンチャント強化][エンチャント速度up][被ダメージ-10%]


◇【ソーサラー】

[魔術ダメージ+200%][魔術被ダメージ-30%][低域魔術全使用可能]


◇【ホーリーナイト】

[ホーリースマイト][ヒーリングレイン][ディバインシールド][ディバイン・ジャッジメント]


〈装備〉

●【頭:アストラル・バンド】

[消費MP-5%][オートヒール][賢さ+120]

■【体:リュクス・ガーブ】

[属性被ダメージ-10%][耐久度+200][HP+1000]

〓【腕:アルトラル・バングル】

[詠唱短縮][器用さ+150][賢さ+80]

▼【脚:リュクス・グラディエーター】

[状態異常耐性][耐久度+150][素早さ+150]

▲【武器:エレドリームレイピア】

[属性ダメージ+50%][防御貫通][筋力+250]

◆【外套:】


〈装飾品〉+5

★【光の指輪】

[被ダメージ-5%]

★【魔術師のペンダント】

[魔術ダメージ+50%]

★【神秘の崩壊石】

[ラスト・フレア]

★【天使のはね】

[被ダメージ-5%]

★【縁起のブレスレット】

[オート・ヒーリングレイン]


〈付与効果〉

・[属性ダメージ+25%][HP+500][筋力+100][素早さ+100][耐久度+100]


☆ーーーーーーーーーーーーー★





「…どうやら、ステータスはちゃんと上がっているようですね。では…いきますか」


 怖い。正直言ってめちゃんこに怖い。

 ずっと言ってるけど、どう足掻いてもルウの中身は川畑優樹だからな…。


 俺は初撃のタイミングを見計らいながら、エレドリームレイピアを携え、足に力を入れていつでも瞬発できる姿勢をとる。


「…剣先と頭部が交わる………今ーーー」


 初撃の位置どりを終えた直後、ルウはクリーム色の閃光となってエクソの頭部目掛けて一気に突進した。


⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【硬質な犬歯】

〈説明〉

獣の口に生える、鋭く尖った硬質な歯。

防具や武器などに加工される。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……様々な種の獣がドロップするんですけども、大きさや形状で区別をあまりしないのが、ルウさんとしてはとても気になるところですかね……」

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