第14話:変態は秘密裏に動き出す。
ここから先、性的まで行かずとも少し不快な場面が出てきます。苦手な方はこの話と次の話あたりは読み飛ばして頂けたらと思います( *¯ ꒳¯*)
side:ルウ・ブラン
…最近、俺には悩みがある。それは…。
「…ルウさん、そろそろ服変えたいです」
そう。装備を変えて見た目をチェンジしたいのだ。この村に来てはや2ヶ月。来た時から俺の服装は、クロークを着用した以外に何も変化していない。
「…そもそも、クロークの下に服が隠れるのも気に食わないですしね…」
せめて、下の服が全部隠れないようなフード付きのケープのようなものを装備したい。
しかし、そう簡単に装備を変更できないのには理由があった。
「…ルウさんが、何もない空間から物が出せるってバレたら、何となく面倒くさそうじゃないですかね…」
ええー! たくさんアイテム持てるのすごーい! じゃあ、これ持ってね!
あそこのものを盗んできてほしいんだ。なんでもしまえてなんでも出せるきみののうりょくなら簡単だろ?
なんて感じで利用される可能性だってあるし、普通に村人にとって脅威になり得るから信頼を損なう原因になりかねない。
だから、迂闊にストレージを使おうにも使えないんだよな…。
まあいい。今のルウも十二分に可愛いし、村を出るまで我慢するか。
さて、今日は訓練場で村人に剣術を教えるんだったか。刺剣を握って、行くとしますかね。
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俺は数日前、八歳の少女ラアレと、その父ローストとの会話を聞いた。
「おとうさん、ブランちゃんすごいんだ! あんなに大きなまるたを、こんなにいっぱい!」
両の手をのびのびと広げ、その丸太がいかに巨大であったかを表すラアレ。
その横で、その父ローストは言った。
「…おれたちにも、それぐらいの力があれば、村を壊されることも、お前が母を亡くすこともなかったのにな……」
その会話を聞いた俺は思わず口にしてしまったのだ。
「…ルウさんでよければ、剣をお教えしましょうか?」
そこから先は早い。
小さな村に、少人数。一気にその触れ込みは知れ渡り、気がつけば村人総出で簡易的な訓練場を完成させた。
人の胴体と頭を模した、木を掘り抜いて作られた人形。
質素な木剣に、歪な弓。
そんな場所で、俺は夕方に剣を教えることとなったのだ。
なぜ夕方かというと、夕方は体温が上がり、筋肉や関節が柔軟になるため怪我のリスクが減ると聞いたことがあるからだ。ちなみに聞いたことがあるだけで、根拠はない。
あと、俺は剣を教えると言ったが、前世では侍をやっていたわけでも、剣道をやっていたわけでもない。
が、しかし。ルウ・ブランにはどうやら経験や知識がある程度あるらしく、感覚的ではあるが剣術のさわり程度ならば教えることができた。
「ローストさん、構えが形になってきましたね」
木剣を構え、静止するローストさんは力が欲しいと言っていただけあって、かなり努力をしているようだ。そして、その努力を無駄にしないセンスもある。
元々丸太とかそういった資材を運んでいたから、筋肉のつきは良かったけど、剣術の分野にも活かせるなんて考えてもいなかったわ。
「ブランさん、ありがとう。だが、まだ打ち込みで軸がずれてしまってね」
うん。
なんかね、喋り方も若々しいっていうか、覇気が出てきた感じがするのよね。運動は人を変えるというけど、そんなに早く効果が出るものなのかね…?
あと、この村で頑張ってる人はもう一人いる。
それは、皆察しの通りホーク君である。
「…はぁ。…はぁ」
「…素振り、お疲れ様です。連続15回。だいぶ回数を重ねられるようになりましたね」
ホークははっきり言って、力も弱いし、踏み込みは逆足になるなど、センスは低いが…。
「…はぁ。…よし、あと……5回…」
センスは低い。だが、根性がある。
ガッツは絶対に裏切らないから、そのまま続けて欲しいね。
なんで根性がそんなにあるんだって聞いたら、次はアリを守れるようにだって。一途だねぇ。
んで、なんだかんだ他の人たちも真剣に取り組んでくれているんだけど、一人だけふざけてんのかってくらいへなちょこなやつがいるんだよなぁ…。
「おーい、ブランちゃん。見てくれないかー」
壮年の男性。ガッチリとした体型と、堀の深い顔だち。そしてホークと同様に茶髪で、目はエメラルドを思わせる緑色。
そう、ホークの父親であり村長のバケットである。
あいつ、結構いい体してんのに物覚えが悪すぎる…。一日の間に何回あいつの横で剣振ってやらんとならんのだ…。
「…また肩に無駄な力が入っちゃってます。なるべく深く息を吸って、肩の力を抜いてください」
「おお、こうかな?」
「…えっと、手のひらにはちゃんと力を入れてくださいよ……」
てか、剣教えるのにフードは邪魔すぎな。ちょっと脱ぐか。
フードに指をかければ、クリーム色の長髪が露わになる。
撫でるように風が吹き抜け、生き物のように長髪が軽やかに舞い上がる。柔らかく、艶やかなそれは風にあそばれ、まるでクリーム色の絹が空中で踊っているかのようにも映る。
よーし、剣術の指南続けるぞ。なんだ村長。こっちばっか見てんじゃねぇ、やる気あんのか。
「…本当に綺麗な髪だな」
お? 褒めてくれてありがとうな。
何にもケアとかしていないけど、こんなに綺麗なのはやっぱりゲームのキャラ故なんだろうな。
「…ふふ。ありがとうございます」
嬉しいから微笑みで返してやるよ。
さあ剣を振れ! …っておい?
村長は俺の頭に手を乗せて、撫でるような動作を行う。
「本当にありがとう。見えるかい、君のおかげで皆があんなにも努力をしようとしている」
頭を撫でられながら村長の向く方を見れば、夕陽に照らされて木剣を振るうホークやローストたちの姿が映る。
「…君には、皆の剣がデーモンを倒せるくらいまでに成長させて欲しいね」
確かに、そうなったら俺がここから立ち去っても戦力的には何も問題はないわな。
でもなぁ…。
「…だとすれば、一番道のりが長いのは村長さん。あなたかもしれませんよ…」
「あっはっは。そうかもしれないな。ならば私はより一層、君に剣術を指南してもらわなくてはな」
笑い事じゃないぜおっちゃん…。
あと、頭撫ですぎな。そろそろしつこいわ。
「…ホークさんに負けないように、頑張ってくださいね。…あと、そろそろ手、どけてください」
「はっは、痛いことを言うもんだ」
そう言って、俺の頭をポンポンと2回叩いて手を離す村長。
成長する気あるのかねぇ…。
そんなこんなで、その日の剣の訓練はお開きとなった。
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数日後、空を覆う重たい雲からは絶えず雨が滴り落ち、大地を暗く濡らす。
悪天候に見舞われ、俺は貸家にいることを余儀なくされた。
「…だいぶ、暇ですね」
少し前までは雨の中でも、外に出れば復興作業に勤しむ村人と会うことができた。しかし、村の復興も終盤に差し掛かった頃である。
屋根があるのだから、わざわざ雨に打たれる必要もなく、誰も外には出ないだろう。
なら、誰も見てないんだし、家の中で装備変えて遊んでいてもよろしいかい?
「…〈ストレージ〉」
装備欄に移行して…。
おぉ。あるねぇ。
ルウ・ブランの正装がたくさん。
とりあえず、この〈星雲のワンピース〉と〈花柄刺繍のカーディガン〉、〈微睡のサンダル〉なんて、王道だが、ロリには合う装備だよな。
これで決定。
きめの細かいクリーム色の長髪に、澄んだ青の瞳。
淡いピンク色のフリルがあしらわれた白を基調としたワンピースは膝丈まであり、ルウが動くたびに髪と同様、ふわふわと波打つ。
淡い黄色のカーディガンには花の刺繍が入っており、ルウの清楚なイメージによく馴染む。
サンダルは、至ってシンプルなものだが、どこか子供らしい無邪気さとルウの大人っぽい精神面を魅力として引き立てている。
うむ、パーフェクト。
ルウって案外どんな装備でも似合っちゃう娘だから、何着せてもかわいいんだけど、王道はやはり良いね。困ったらこれ着よう。
能力値は下がるけど、オシャレっていいもんだよな。テンション上がるわ。
そう言って〈ストレージ〉から出した〈鏡〉の前で色々なポーズをとる。
今日はずっとこうしていよう、そんなふうに思った矢先、不意な出来事とはやってくるものだ。
「ふんふふーん」
コンコン。
ルウの家の扉が叩かれる音。
お、誰だ?
「…どなたでしょうか?」
「ブランちゃん、少し用事があってね。雨が降っているから、扉を開けて入ってもいいかな?」
もはや聞き慣れた村長の声。
雨に濡れるのもかわいそうだし、さっさと入れてやろう。
「…どうぞ」
「…邪魔するーーーよ?」
おい、なんで扉開けたまま固まってんだ。
「…?」
ルウが思わず首を傾げちまったじゃねーか。
なんか俺の家に変なものとか置いてあったっけーーあ。
ルウが後ろを振り返ると、そこには人一人分の大きさの巨大な鏡と、鏡面に映り込む美少女の姿があった。
や、や、やっべぇええ!
鏡とか今の装備とかなんか色々、見られちまったぁぁぁああ!
俺は机を囲むように配置された椅子に、対角線になるよう村長と座った。
「…その服装に、その力……」
「…いや、あの。…見られたら面倒なことになるかなって、思ったんですよ…」
なんで見られちゃうかなぁ…。
こう言う時こそ注意して行動するべきだったでしょうに。
「いや、私はブランちゃんを咎める気はないが…物を出現させる能力は、知るものが知れば悪用されかねないな…」
だよねー…。だからさ、言わないでよ。他の誰にも。
「…ルウさんも、そう思っていたんです。ですから、どうか他の方々には言わないでもらえませんか……」
「あぁ。君の意見は尊重する。もちろん誰にも言うつもりはないよ…。二人だけの秘密だ」
なんか言い方きもいけど、確かにその通りだわ。村長さんなら口も軽くはないだろう。
「…知られたのが村長さんでよかったですよ……」
そういうと、バケットの目にほんの一瞬異様な光が見えた気がしたが、多分気のせいだろう。
ほら、あんなに真剣に俺を見つめて。本気で悩んでくれてるんだな。良い村長だ。
ん、村長さん、まだ何か言いたげだな。
「…ブランちゃん。君の過去について話を聞かせてくれないかい? 例えば、生まれ故郷や家族の話なんかを」
え、やだ。だって過去とかないもん。
「…すいません、ルウさんの過去は…言えないです」
言えないけど、なんか悲しい顔して俯いて匂わせアピール。
「…その顔。たまにそんな悲しい顔をするね。…君はまだ子供だ。抱え込む必要なんてない。……だからどうか、ブランちゃん、君のことについてもっと詳しく聞かせて欲しいんだ」
そう言い放つと、村長は椅子を立ち上がり、俺の後ろへと歩みを進める。
「え、ちょ…」
そして、ルウの肩に手をおいたかと思えば、そのまま滑るように肩を通り越して、ルウの小さな体を包み込むように抱きしめた。
「…私を、頼ってくれないか。抱え込む必要なんてない。君の心のモヤが晴れるまで、この村にいてくれたって構わないさ…」
ルウの耳に、村長の吐息がかかる。
くすぐったいわ! 何これ、これが親心ってやつ?
ここまで他人事に真摯的になれるの、村長の素質がありすぎるだろ。
でも、ちょっと近いわ…。なんというか、こっちが恥ずかしい。
それに、困ってることなんて本当はないから、何話せばいいかわかんないし…。
「…」
ルウは返す言葉が浮かばず、沈黙した。
バケットはその沈黙を、ルウの心は今揺れているのだと思い込み、腕に力が入る。
「…もし、もしよければ、私の娘にならないか。そうすれば、君は正式に村の者だ」
いや、急にそんなこと言われても困るんだが。それに、あんたのところはそのうちアリさんが娘になるんでしょうに。
「…それは、遠慮させていただきます」
「……そうか。残念だよ。でも、これだけは知っていてほしい。君の存在は、この村にとってとても大切なものなのだと…」
村長の声は震えていた。
「…わかりました。…それで、そろそろルウさんを離してもらえません…?」
ルウがそういうと、バケットはしばらくの間その場に立ち尽くし、ルウを見つめた。やがて、何かが切れたように彼の腕はゆっくりと緩み、ルウを解放したのだった。
村人に感謝されてるのか。まあそうだよな、デーモン倒して村の復興も手伝って、俺、もしかして英雄?
そんなことを考えていると、バケットは再びルウの用意した椅子に座った。
そういえば、何か用事があって来ていたんだっけ?
「…ルウさんの心配、ありがとうございます。それで、何か用事があって来られたんじゃなかったですかね…?」
「…あぁ、そうだった。君の寝具を取り替えに来たんだ。今日は雨だからね。水が贅沢に使えるから、私の家の分と合わせて洗ってしまおうと」
なるほど。そういや、前世では変えたことなかったから気にもしなかったが、寝具は洗わないとダメだもんな。
いやしかし、俺の体から老廃物出てないし、洗わなくても実質問題なさそう…だけど、乙女が使う寝具が一度も洗われていないって、なんかやだな。
「…助かります。ぜひお願いしても良いでしょうか」
「あぁ。もちろんさ。ブランちゃん、とりあえずその服を着替えたらうちに来なさい。今日はうちで泊まっていくといいさ」
寝る必要はないけど、寝具がないと寝っ転がれないもんな。
うむ。今日はお言葉に甘えるとするか。
「…あ、向こう向いていてくださいね」
流石に装備を変更するところは、いくら心の許した村長であれ、許容はできない。
とは言っても、ストレージ画面をいじるだけだから脱いだりするわけじゃないけど。
まあ、一瞬で服が切り替わるのも変じゃん。これ以上変な情報を与えないためにも自然を装うんだよ。
「…よし。着替え終わりましたので、いきましょうか」
村長は、ルウの寝具を担ぐ。
「よいせ。私は、いつでもブランちゃんを歓迎するよ」
晴れ晴れしたような笑顔。その裏に暗い光が宿っていることを、ルウはまだ知らなかった。
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・アイテム/【グリフォンの風切り羽】
〈説明〉
グリフォンの背に生える大きな翼、その風切り羽。
上質な風切り矢などに使用される。
頭などの羽飾りに加工すれば、強風を受け流す効果を得ることができる。
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ルウ「……ルウさん、グリフォンは大好きなんです。弱いくせして、素材の大体は高値で売れますからね。金策に良いのです」




