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第13話:畏怖と飯と豹変と。

PVが2500を超えていました。閲覧ありがとうございます( *¯ ꒳¯*)

side:騎士隊長エヴォリッチィ



 ペイザンヌ皇国騎士隊長、エヴォリッチィはソテー村の不穏分子、ルウ・ブランの存在に苛立ちを隠せなかった。


 騎士達の目的は、ソテー村を救った忌々しき少女の素性を探ることだった。そのために、一度祖国ペイザンヌ皇国へ帰還し、魔法具〈ヴァリュー・クリスタリア(真価透過の水晶)〉を持ち込んでいた。


 〈ヴァリュー・クリスタリア(真価透過の水晶)〉は、瞳の上に貼り付けて使用するコンタクトレンズ状の魔法具である。効果は、MPを消費して対象の能力値の合計を〈レベル〉という数値として可視化するというもの。


 とある、亡国の大魔術師が発明したとされる魔法具の一つで、ペイザンヌ皇国の数ある秘宝の一つである。


 なぜ騎士隊長級の者が秘宝を持っているかというと、破滅の使徒が屠られたことを上層部に伝えると、必ず返すこととその少女の情報を持ち帰ることを条件に手渡されたからである。


「…っ」


 エヴォリッチィは金属製のガントレットの上に乗った、半透明の水晶を見ながら苦い顔をした。


「…信じられん。ルウ・ブラン。やつの力は一体何だ…?」


 思わず冷や汗が出る。

 その様子に、部下の騎士達が動揺の声を漏らす。


「…隊長、何があったのですか? …ソル金貨といい、隊長の名前といい…」


 これは醜態だ。騎士隊長の座を賜った己が、段位の低い部下に心配されるなど、本来あってはならない。

 

 そんな思いからか、水晶の乗っていない方の拳を力強く握りしめた。


「…やつの力は、はっきりいって異端だ。全くの予想外。…これでは、我々の立場が危うくなりかねない」


 ルウ・ブラン。エヴォリッチィは彼女の能力を、甲冑の下に潜む瞳に着用した、〈ヴァリュー・クリスタリア(真価透過の水晶)〉を使用することで盗み見た。


 その結果、強さを表す指標となる、〈レベル〉なる数値は“233Lv”を指していた。

 

 233Lv。それは生命の限界であるとされる100Lvを軽々超えた、超常的な存在であることを示した。60Lvで人類の到達地点と言われるこの世界では、人間の身でありながら60Lvを超えたものはいないと考えられていたのだが、あの少女はその考えを根本から覆していた。

 そして、足がすくむほどの恐怖を覚えたのだ。


「…貴様、〈レベル〉という概念は知っているな?」


 エヴォリッチィが近くにいる騎士に問うと、騎士は頷くことで肯定の意を示す。


「……あの女、ルウ・ブランの〈レベル〉は“233Lv”だ…」


 騎士達の中にざわめきが起きる。それもそのはず、彼らもまた、エヴォリッチィ同様人間は60Lvが上限であると信じていたのだから。


「…ルウ・ブラン。やつは人間ではないのか…? それにーーーなぜ、なぜ私の名を知っている…?」


 名前もだが「落とし所を作ってあげた」という言葉も、まるでこちらの戦力を全て把握した上で自分たちではルウ・ブランに勝てないと言っているように聞こえた。

 実際、あの状況でエヴォリッチィはルウ・ブランという存在をその場でどうすることもできず、熟考していた節がある。


「ルウ・ブランも真価透過系の魔法具を持っていた…。233Lvという数値が真のものなら、それも納得。…それとも、ペイザンヌの何処かから情報が漏れたのか……クソッ」


 激昂のあまり、地面を蹴り付ける。

 今のままでは、判断材料に欠けすぎる。そんな思いがエヴォリッチィの焦燥を掻き立てるのだ。


「……」


 そんな彼の横には、いつの間にか黒のローブにフードという、如何にも密偵らしき男がいた。


「…夜の刃か。お前から見て、ルウ・ブラン。やつはどう映った」


「…あ、あれは何者なんですか…。森の中、村の中、どこをとっても隙がなく…。私では何もわかりませんでした……」


「やつのレベルは、233Lvだ。お前が近寄ることができないのも、当たり前のことか……」


「…騎士隊長殿。私は、このまま監視を続けていればよろしいでしょうか…」


「……いや、我らと共に、夜の刃。お前も撤退だ。ルウ・ブランは我らの情報を掴んでいる。これ以上知られるのは、我らが祖国に損害を与えかねない」


 ペイザンヌ皇国はいつか世界をその手にする、睥睨の国だ。そんな祖国の情報を名も知れぬ強者に流すなどすれば、失態として首を刎ねられない。


「…早急に帰還して、副団長様と団長様に報告だ。…王の民の鏖殺とルウ・ブランの対処。これは我々のみで対処できることではない…」


 報告がいけば、国はルウ・ブランを殺すか、取り込むかの手法を取るだろう。ともなれば、国の最強戦力が動くことになるかも知れない。


「このことは、魔人様に対処してもらうことになるやも知れぬな…」


 一度だけ見た、魔人のその恐ろしい姿を思い出して一瞬だけ身震いをした。


 何はともあれ、あの異端の存在を決して野放しにはして置けない。エヴォリッチィはそんな決意を固め、威厳ある声を響かせた。


「ペイザンヌに栄光を」


「「「ペイザンヌに栄光を!」」」



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷


side:ルウ・ブラン



 ふー、なんか騎士どもが多額な賠償請求してきたから適当にあしらって追い払ったんだけど、マジであいつら何?


「ブランさん、スープ置いておきますね」


「…はい、ありがとうございます」


 あ、ちなみに今俺は村長のお家で、ホークと村長と一緒にご飯中ね。うん。何となくわかってたけど味薄くてまずいわ。草萎える。


 騎士どもの話に戻すけど、なんか高圧的で苦手だわ。貸家から隠れてステータス見てみたけど、なんか1番偉そうなやつでも22lvとかで草はえた。他のやつは16Lvとかね。


 装備も、碌に付与効果もない金属製の鎧ばかりで、雰囲気としてはゲーム開始から3つ目の街で買える防具って感じかな。つまりほぼゴミ。


 装飾品も真価透過のうんたら?とかいう多分、鑑定系の装飾品しか付けてなかったし。


 オメーがこっちの情報盗み見るんだったら、俺だって容赦しねえからって、名前と職業バラしたら焦って逃げてやんの。ざーこ、ざーこ。


「ブランさん、お口に合いませんでした…?」


 ん?

 …あ、そういや全然飯が進んでなかった。うん、正直クソまずいよ。本当に。


「…いえ、村の貴重な食糧。今更ですけど、ルウさんが口にするのは勿体無いなと」


「いえ、その肉も、木の実も、ブランさんが取ってきてくれたものです。僕らこそ、何も恩返しができず…。先ほどだって、大切なソル金貨を…」


 もういいって。おめーら、払える金がないんだったらもうちょい頼っとけよ。俺は頼られたいの。それでクソッたれた自尊心を満たされて勝手に気持ちよくなりたいの。


「…3枚のうちの1枚。先ほども言いましたけども、ルウさんにとってこれはそれほど大切なものでもないので…」


「…ですが」


「ホーク、しつこい。ブランちゃんはもう良いと言っているんだ。お前のものならまだしも、彼女の行いにぐちぐち言っているのは見苦しい」


 ナイスバケットさん。

 ほんと、村長さんってすごいよな。言葉で人を動かしたり引き止めたりする力がレベチ。


 あーあ、ホーク君かわいそうに。

 でも、こうなったもの全部あの騎士どもが悪いから、恨むなら彼らを恨んでね。


 ホークも静かになったところで、まずいスープを啜りながら考察に耽るんだけど、今回の騒動で分かったことがあるわ。

 …いや、元から薄々気がついていたんだけど、ルウ・ブランの身体はどうやら、スーパーハイスペックらしい。


 だって、騎士のレベルが20Lvちょっとだよ?村人も2〜5Lv位だし。


 233Lvとかちょっとした大問題だろ。てか、魔物を倒すために騎士達やってきたって言ってたけど、あいつらじゃデーモンは絶対倒せなかったぞ。俺に助けられたこと、感謝しやがれ。


 でも、そうか…。ペイザンヌ皇国か。この村も人情が暖かくて住み心地最高だけど、そろそろ他の国や街も気になってくるよね。


「…ごちそうさまでした」


 うえっぷ…。何とか飲み切ったぁ…。


「おかわりがあるけど、食べるかい?」


 おいおい村長、俺を殺す気か?


「…いえ、見ての通りルウさんはもう、お腹がいっぱいなので。夕飯、ありがとうございました」


 そう言って、クロークの上からお腹をさする。

 ほぼ水みたいなスープで腹がいっぱいになるわけもないのだが。


「そうかそうか。…この後はどうするつもりだい? 時間的には、子供はもう寝る時間。うちで泊まって行ってくれても構わないが…寝る場所はホークと同じ床になるかね」


 村長がそういうと、ホークがスープを啜る手を止めて食い気味にバケットの方を見る。


「な…父さんは何を言っているんだ! ブランさんも僕みたいなのと一緒に寝るのは嫌なはずだ…」


 え? なんか俺、ホークと寝る流れになってない? いつからホークのヒロインルートにさせようとしてるんすか、この親父さん。

 そもそも、ホークにはアリっていう、ほぼほぼ許嫁みたいな存在がいるわけで。

 俺は純愛が好きだから、寝取り寝取られは許せないのね。


 …いや、ホークが恥じらいながらこっちみてくるのいじりたくもあるけど、俺もルウ・ブランが男と寝るのを許容できるかって言ったら、無理。うむ。言語道断だ。


「…村長さん、からかわないでください。そもそも、ホークさんにはアリさんという許嫁がおられるんですから。ルウさんは、いつも通り村の皆さんから貸していただいている貸家で夜を過ごしますよ」


 そういうと、ホークは顔を赤くしながら「べ、別にアリは…許嫁とか…」などと漏らしている。


「はっはっは、大人気もなくからかってしまった。では、食器はそのまま机の上に置いておいてくれて構わない。ホーク、ブランちゃんを村外れまで送って差し上げろ」


「…別に、ルウさんは一人で帰れるんですけども」


「そういえば、君はデーモンを倒したんだったな」


 可憐な見た目だから、つい忘れてしまうと笑い飛ばす村長。

 何だこいつ。今日はやけにテンション高いな。


 てなわけで帰りますわ。


「送りは大丈夫ですので。…では、ホークさんにバケットさん。それにアリさんも、おやすみです」


 まあ俺、夢渡りになったせいか眠れないんですけどね。


「ブランちゃん。おやすみ」


「…あ、ブランさん。…その、おやすみなさい」


 扉を開けて空をみれば、満天の星空が俺を出迎えた。


「…村の復興が終わったら、街へ出向いてみましょうか。…それまでに、アリさんが目覚めれば良いのですが…」


 そんなことを考えながら、俺は帰路についたのだった。


 …その言葉を、後ろで聞いていたものがいるとは知らずに。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷


side:村長バケット



「…ホークも、寝たか」


 新しい板材と、古い板材が重なるように張り巡らされた、簡素な家の中。

 入り口から入ってすぐの、机の置かれたそこは、客間のように使われることが多い。

 そんな部屋でただ一人、蝋燭の灯りを灯したバケットは、机の上に置かれた皿を見る。


「…ルウちゃん。今日も可愛かったよぅ…」


 木製の深皿に残ったスープの残液が、蝋燭の灯りをテラテラと赤色を呈して反射する。


 それを、恍惚といった表情でバケットは見つめた。


「…じゅり……」


 思わず、よだれが垂れる。

 

 そして蝋燭の光に影を伸ばしながら、辛抱たまらんと言った様子で、深皿に顔を埋めた。

 

 …じゅる、じゅるる。


 最初、それは単なる憧れだった。

 村を救った英雄に深い感謝と、自分にはない力に強い憧れを抱いた。


 …ぴちゃ、じゅる。


 そして、それはいつしか安心へと変貌した。頼ることのできる強い存在は、バケットの不安をいつも埋めてくれる。


 …ぺろ、じゅるじゅる、ぴちぇ。


 それも、今では立派な想いとなった。バケットは幼いながらも大人以上に大人びて、英雄的所作で周りを圧倒するルウに惚れ込み、気がつけば執着していた。


「……はぁ、はぁ。…私のルウ。どこにも行かないでおくれ……」


 ホークとくっつけようと何度も考えた。しかし、どうやらホークはアリのことを未だ諦めきれないと言った様子であり、ルウもホークのことは視野にないと言った雰囲気を感じる。


「…ふは、ふは、へっ、へっ……あれ?」


 深皿から、とうとうスープの味が消える。


「……そんな…。どうして出て行ってしまうのだ……」


 鋭い眼光。もはやそこにいるのはいつもの優しい村長などではない。

 ルウのその性格が、容姿が、雰囲気が、バケットを狂わせたのだ。


 バケットは、深皿に付着したルウの聖性を舐め切ったことを深く後悔し、蝋燭の火が揺れる客間の中、床に膝と手をついて小さく嗚咽した。


「…復興が終わらなければ、ホークがその気になってくれさえずれば、ルウちゃんは、ずっとこの村に……」


 歯を食いしばり、眼前に広がる床を見る。すると、ルウの座っていた椅子の下に、微光を放つ金色の糸のようなものが落ちているのを見つけた。


「……あぁ、あぁ…」


 バケットはソレにゆっくりと手を伸ばす。


「…まだ、いたぁ……」


 そしてソレを胸ポケットに大事そうに、大事そうにしまい込んだのだった。

⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【夢兎の尾】

〈説明〉

水色の体毛に短い脚を持った、夢兎の尻尾。

お守りなどのアクセサリーの作成に用いると、跳躍力上昇や移動速度上昇の効果を発揮する。

夢兎は毛皮もまた用途が広く、衣類や日用品にも加工されるという。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……可愛いんですよ、うさぎちゃん。可愛いんですけど、基本的に群れていて1匹いれば100匹はいるような生態なんですよね…。それに、カサコソとやけにすばしっこいですし……これ以上は辞めておきましょうか」

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