第12話:村に迫る金属の音。
今回も8000字超えてます。カロリー高くてごめんなさい( *¯ ꒳¯*)
side:ルウ・ブラン
ソテー村中央。
復興途中の村の中央には高く積まれた板材や石、皮革などがあった。
「…資材置き場もだいぶ潤ってきましたかね」
資材置き場の真横、小さく切り出された切り株には一人の少女が座っている。
淡い緑色のクロークを羽織り、頭部はフードで隠している。しかし、フードから垣間見える青い瞳とクリーム色の髪の毛はどこか神秘的であり、見るものを引き込む魅力を持つ。
その少女の名は、ルウ・ブラン。
この村の資材。そのほとんどをわずか数日で集めた村復興最大の貢献者である。
…うん、そんなことより前髪がとんでもなく邪魔。
お顔が可愛すぎてとんでもないから隠したほうがいいよってホークに言われてから、はや2日。
未だ一向に慣れられない俺がいた。
俺はフードに押さえられ、目にかかる前髪を指先で弄る。
「…切るのは、ルウ・ブランの見た目が変わってしまうので、言語道断ですよねぇ…」
やっぱりフードいらんかな。
そう思い、俺は2日ぶりにフードをはずしーー。
え?
次の瞬間、多方面から向けられた、俺への視線。
資材置き場の近くで作業していた人が、ブラゼ川から水を汲んできた人が、家の板戸窓から外を眺めていた人が、偶然その場に居合わせた誰もが、ルウの顔に注目する。
バカ見られてて笑う。
これがホークが言ってた目立つってことなのか…。
おいおっさん!見てんじゃねえ!
「…えっと、あはは」
ルウはクリーム色の髪を揺らし、青い瞳を細めて微笑む。そして、フードを先ほどよりも深めに被り直したのだった。
怖えぇぇぇえ!
今までこんなことなかったのに…。いや、2日間大衆の目から遠ざかってたから気がつけたのか。
どれだけ鈍感だったんだよ…。
とりあえず、わかった。
ホークの助言は適切だった。当分は顔を隠して生活しよう。
この時ルウは気がついていなかった。
フードを被っていても、ある程度の視線は向けられていることに。それは、ルウが身につける服の高質さに目を引かれるものであったり、村を救った事への感謝と尊敬の念だったりもするのだろう。
フードはルウの顔を隠すが、ルウの視界も遮っていた。故に周囲の視線を察することができないのだ。
常にある程度の注目を浴びているとはつゆ知らず、俺は板材を運び始めたのだった。
荷運びの先で村人の手が届かない屋根の簡単な修理を終え、次は何をしようかと考えていると、急に後ろから呼び止められる。
「ブランちゃん、少々お話いいかな」
んだコラ?
と振り返れば、そこにはホークの親父さん、このソテー村の村長さんがいた。
壮年の男性。ガッチリとした体型と、彫りの深い顔だち。そしてホークと同様に茶髪で、目はエメラルドを思わせる緑色をしている。
うむ、ホークと似ているな。さすが親子。
ほいで村長さん、何用すか?
「…こんにちは、村長さん。ルウさんはお話だいじょうぶですよ」
だいじょうぶですよって言葉あるけど、これややこしい言葉だよな。訂正したほうがいいか…?
「ありがとう。君はいつも忙しそうだから、断られるんじゃないかと内心思っていたよ」
さっすが村長。だいじょうぶの意味を正確に読み取る能力、まじ尊敬っす!
「それで話というのは、私の息子、ホークのことだ」
「…ホークさんに何かあったんですか?」
「ん? いや、違う。息子が世話になったと言いたかったんだ。アリの一件から塞ぎ込んでいたホークが、最近になって急に村のために働くと言って外出するようになってな」
まじか。ええことやん。
俺は一度引きこもると引きこもることに慣れちゃって復帰できないわ…。
んで、その一件と俺への感謝がどう関係してるんだ?
「…話を聞けば、ブランちゃん。君がホークを心配して気を紛らわせてくれたそうじゃないか。息子は知識欲が強い。君の話を聞いて色々と刺激をされたんだろうね」
「…そうだったんですか」
知らなんだわ。
でもあの日やったことって、お金の自慢と、おでこをくっつけてからかった事くらいじゃねえか?
知識人の刺激が俺にはわからんよ。
でも、ホークにいい刺激になったのならいいや。俺もホークから常識やらなんやらを教えてもらってるんだ。Win-Winな関係ならお礼なんて考える必要もなくなるしな! ガッハッハ!
「…ルウさんも、ホークさんには感謝しているんです。見ず知らずのルウさんを受け入れてくれて、その深い知見を驕ることなく謙虚に、それもわかりやすく教えてくれて…。…かなり助かっちゃってます」
微笑みながらのルウの言葉に、村長は呆れと感嘆が入り混じった表情でため息混じりに口を開く。
「…本当に君は、呆れるほどに聖人だな」
おう。俺は聖人じゃないけど、ルウ・ブランはそう言う設定だからな。
何か問題が起きたら解決してやんよ。
「…ルウさんは、村長さんが思っているほど誠実でも、親切でも、高潔でもありませんけども、できることならなんでもやります。お任せください」
「あぁ、ありがとう…」
村長はそう言って、徐にルウの頭に手を伸ばす。そして、フード越しに頭を撫でたのだった。
「…子供じゃないんですから、そういうのはやめてください」
ひぇ、びっくりしたわい。なんだ、こいつはロリコンか?
「…いや、すまん。娘がいたらこんな感じだったのかと…」
村長は慌てて手を離して、焦ったように言った。
まあいいわ。頭なんて人生で撫でられた記憶なかったし、ちょっと気持ちよかったからまた撫でることを許可してやるよ。
…にしても、頭撫でるとか恥ずかしくねぇのか…? 天然でこれができる、親っていう存在はやっぱり恐ろしくも偉大なんだな。
今度ホークにでも試してみよう。
「…そういえば、ホークさんはどこに?」
「ホークなら、炭と木の板を持って出て行った。今村に足りていないものを列挙するつもりで、村中で聞き回っている最中だろうな」
なるほど。さすがホーク。必要なものまとめてくれた方がわかりやすくていいもんな。
後で俺にも見せてもらいたいわ。
「…ところで、ブランちゃん。今日は暇なのかい?」
ん?
うむ。今日はもうやることないかな。
もう直日も落ちる頃合いだし、家に帰ってゴロゴロしたいかも。
「そうですね…。今日はもう、やることはないと思います」
俺がそういうと、村長は明るい笑顔でこう告げた。
「なら、今日はうちでご飯を食べていかないかい? ウミドが今日、怪我をしてしまってね。夕食を届けに行けないかもしれないと嘆いていたんだ。だから、ブランちゃんさえ良ければ、今日はうちで夕食を共にしたいと思っていたんだ」
まじか、ウミドおばさんの料理が食べられなくなってしまって、村長の家のご飯に招待されちゃったのかー。ウミドおばさんの料理、毎日楽しみにしてたのにー。
あー、残念だなー。
村長さん、悪いけどその話、乗った!!
貧しい村だけど、その中でも最も権力を握っているのが村長なわけで。必然的に1番良い暮らしをしていると考察できるんだ。
つまり……美味い飯が食えるかもしれん!
「…ウミドさんには申し訳ないですけど、そういった理由があるなら致し方ないですよね。……残念ですけど、今日は村長さんの食卓にお邪魔したいと思います…」
ごめんなウミドおばさん。毎度〈ストレージ〉の肥やしにするもの正直しのびないんだわ。
てことで、今日はお世話になりまーす!
……って、なんだ?
ルウが目にしたのは、村の入り口の方から駆け込んでくる、一人の若い村人の姿であった。
「ーー村長! 大変です、ペイザンヌ皇国の騎士数名が村の入り口に!」
その言葉に、村長は血相を変えて叫ぶ。
「…早急に、出迎えともてなしの準備をしろ! それと、誰かホークに村の入り口にくるように伝えてくれ! 私とホークで騎士様方の対応をする。それまでに村の中央に全ての村人と、もてなしの用意を!」
え? え?
ご飯は…?
「…ブランちゃん、君は村外れの貸家に隠れていた方が良いだろう。今回、少し面倒なことになりかねない…」
「…えっと」
ご飯は…?
「心配はいらない。騎士様達は我々を救いになる正義の騎士だ。…だが、君は一応部外者。何かあって、迷惑をかけては申し訳が立たない…」
いや、迷惑どうこうより飯は???
っておい! 話聞け! 勝手に走り出すな!
…どうやら俺は、飯の楽しみを奪われ、幽閉されることとなったらしい。
おら!クソ騎士!死んで詫びろゴミ、絶対に許さないからな。
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side:村長バケット
数時間後、世界に夜のとばりが降りる頃。
ついに、村の中央にペイザンヌ皇国の騎士、二十名が到着した。
彼らは重厚な金属鎧を見にまとい、威圧的な雰囲気を漂わせている。
村人達はその装いに緊張しながらも、なんとか受け入れたのだった。
村長が、全ての村人がこの場に集まったことを確認し、口を開く。
「…騎士様。ここにいるのが、先の襲撃で生き残ったソテー村の住人、その全てです」
大人、子供、老人、怪我をしたものなど、計二十三名の村人を見て、騎士のリーダーらしき者は頷く。
「…丁寧な出迎え、ご苦労。我々はペイザンヌ皇国の救援騎士。この村が魔物の襲撃を受けたと聞き、援軍として派遣された」
甲冑に反響する低い声。
村長とホークが一歩前に出る。
「私たち村人の要請に応えていただき、感謝の念に堪えません……」
村長がそう言って頭を下げると、その横にいたホークも、後ろに待機する村人達も全員頭を下げて、その感謝を露わにする。
そして頭を下げたまま、村長は話を切り出す。
「…来ていただいて申し訳ないのですが、この通り魔物に村は破壊され、魔物もどこかへ姿を消してしまいました……。なので今回はお引きーー」
村長が契約の解約を申し出ようとしたとき、リーダーらしき騎士が右手を差し出し、村長の言葉を中断する。
「…そうだな。我々が遅くなったこと、謝罪しよう。しかし、我々はまだやらねばならぬことがある。…祖国の占い師が言うには、魔物を討ち払ったのは、光の柱と、それを操る少女とのことだったが…」
騎士は辺りを見渡し、村長の頭に視線をやる。
「…その少女、この場にはいないようだが、どこにいる。直接会って話がしたかったのだが」
高圧的な言葉。
村長は額に脂汗を浮かべ、悩んでいた。
村長がルウを隠したのは、村のためであった。
現状、村の復興はルウに頼りっきりの状態である。そんなルウが騎士に見つかりでもすれば、連れて行かれることくらい容易に想像がつく。
ペイザンヌ皇国は、強欲で好戦的なことで知られている。
もし彼女が彼の国に連れて行かれれば、間違いなく戦場で使い潰しにされるだろう。
それだったら、このソテー村で村の復興を手伝いつつ、慎ましく暮らしていた方が、彼女にとっても幸せであるはずだ。
…しかし、その存在はバレてしまっているようだ。占い師。ペイザンヌ皇国には皇帝に仕える占い師がいると言われるが、少女と断定するあたり、全く底が知れない。
ペイザンヌ皇国を裏切れば、何かしらの罰を受けるのは当然の報いであり、村長は村人を守る責任がある。
(…ルウ・ブランを差し出すか…。しかし、彼女はまだ幼い少女…)
長い葛藤の末、天秤はついに傾いた。
「…彼女は、正規の村人ではないため、公式の場に相応しくないという独断のもと、村外れの空き家にいるよう声をかけております。…すぐに連れて参りますので、お待ちーー」
村長がルウを連れてこようとした時、まるで柔らかい金属で作った鈴のように、優しさと幼さを併せ持った声が響く。
「…いえ、お呼びにならずともだいじょうぶです」
村長も、村人も、整列する騎士さえも、誰しもがその声の主を目に入れようと視線を向ける。
空き家のある方。
淡い緑色のクロークを着用し、フードで顔を隠した少女が歩いてきているのが見えた。
クロークはその起伏の少ない体をすっぽりと覆い、歩く動きに合わせて優雅に揺れる。
一見控えめ。しかし、間近になればなるほど、その所作と衣服に惹きつけられる。そんな存在感のある少女。
騎士達はその所作に見惚れたのか、まるで中身のない甲冑かのように固まっている。
村人達はその少女をよく知っていた。ソテー村をデーモンの手から救い、村の復興にも尽力する、献身の鑑。
ーー名は、ルウ・ブラン。
騎士達がざわめく。
まるで何か、想定外の出来事と出会したかのように。
「…村長。この者は?」
騎士のリーダーらしき人物が、村長に答えを急くように問う。
「はい、この者こそ、ソテー村の英雄にして、旅の剣士ーールウ・ブラン様です」
すると、その話を聞いていたルウ・ブランが村長の言葉に「…はい。ルウさんが、ルウ・ブランですけども」と肯定する。
「あの日、村にデーモンとゴブリンが襲来し、村人は逃げ惑い、私も死を覚悟しました。…そんな絶望をあの聖光で照らしたのが、他でもない、このブラン様というわけです」
「…そうか。それはーー素晴らしい行いだな。しかし、人一人の力でそれが成されるとは、到底信じ難い。…村長。他に、もう一人の英雄がいたりするのでは?」
冷たい声。まるでルウの行いを微塵も素晴らしいと思っていない。そんなふうに感じられる。
「…我々も信じられませんが、確かにこの村を救ってくださったのは、ルウ・ブラン様ただ一人です」
「そうか…。ルウ・ブランとやら、貴殿の口からも聞きたい。協力関係にある者が裏に潜んでいたりはしないのだな?」
ルウはフードの下、青い瞳で真っ直ぐ騎士を捉えながら答える。
「…そうです。ルウさんが一人で倒しました」
騎士は再び「そうか…」と言って黙り込んだ。
それを見たルウは、村長率いる村人達の方へと歩みを進める。
それは、ルウ・ブランは村人の組に属しているという表現なのだろうか。
ルウが村長の横に立つと、騎士は甲冑の下で露骨に顔を歪めたのだった。
ルウが自らの意思で村側についたと言うことは、それを無理やり引き離せば皇国の騎士は人一人を尊重しない浅慮な集団だと思われかねない。
それを察したからこそ、騎士は動くことができなくなっていた。
村長はここぞとばかりに静寂を破る。まだ頭は下げたままだ。
「彼女がいなければ、村はもっと酷い状況になっていたでしょう」
到着の遅れた騎士達より、村人達はルウ・ブランに感謝をしており、現在部外者である騎士らには早急に帰還願いたい。
そんな意図が込められた言葉に、騎士達は言葉をなくし、甲冑の下で怒りをあらわにする。
しかし、先頭に立つ騎士は違った。「はは」っと小さな笑い声をあげ、ルウの方を向いた。
「なるほどな。どうやら、本当にブラン殿は魅惑の人らしい。…しかし、本来魔物の討伐は我々の仕事。その功績を奪われたとなると……何らかの補償が必要だ」
騎士の言い放った言葉に、村人達がざわめく。
もちろん、村長やホークも怒りを抑えられなかった。
「…別に、村に支払えと言っているわけではない。この有様、払える金もないのだろう? …そこで、ルウ・ブランとやら、村のために補償してくれるかね」
今まで黙っていたホークがとうとう牙を剥く。
「…補償だって? 彼女は、村を救ったんだぞ!?」
「それはわかっている。…しかし、こちらも仕事としてきているのだ」
騎士は一歩前に出て、ルウを鋭く見据えて続ける。
「…本来、この村より徴収するに妥当な対価は、フリム金貨にして800枚と言ったところか。…巨額の謝礼金を支払う用意はーーその煌びやかな装いだ。金に当てはあるのだろうな」
ルウはその言葉に一瞬困惑した表情を見せる。
フリム金貨800枚。それは襲われる以前のソテー村でも支払うことのできない、法外な金額であった。
しかし、ルウはすぐに落ち着きを取り戻した。
「…謝礼金は持っていませんけども、代わりにこれを」
ルウはクロークのポケットから、手のひらサイズの美しい金貨を取り出した。
「…騎士さん、手を」
「あ、ああ…」
騎士の手のひらに乗せられたのは、ずっしりとした重みのある金貨。表には満月のレリーフが、裏には太陽のレリーフが掘られている。
「これは……」
先頭の騎士はその美しい造形に目を見張った。
「まさか、伝説のソル硬貨……」
頭を下げていた村人達も、常に前のみを見据えていた騎士達も、皆一同にその金貨に注目した。
ソル硬貨は少なくともフリム金貨1000枚の価値を持つ、破格の硬貨だ。魔天戦争前に作られた、再現不可能の金貨。
それを目の前にして、金貨を持つ騎士の冷たい空気にも、わずかな動揺が走る。
「……これで解決としてください」
ルウは毅然とした態度で言った。
「…ブラン様、村のためにこのような……」
村長が取り下げるように諭そうとするも。
「…黙ってください。それに、使われない金なんて、死んだも同然です」
騎士はソル金貨を手にしたまま少しの間考え込んだ後、重く、ゆっくりと頷いた。
「…よかろう。これを持って、解決としよう」
騎士がそう言って、後ろに控える騎士にソル金貨を渡す。
村人達は安堵の表情と共に、若干の怒りを孕んだ表情でその光景をただ見つめていた。
しかし、怒りが収まらない者が一人。それは、ホークだった。
「…騎士様方は、僕たちを、この村を助けにきたんじゃなかったのか? なんでこんなことを……」
「…やめてください。ホークさん」
しかし、ホークの怒りは騎士に届くことなく、ルウが穏やかに制する。
「…思うところはあります。ですが、彼らもまた、自分たちの責務を全うしようとしているだけなんです…」
先頭に立つ騎士は一瞥をホークに投げ、くぐもった声を漏らす。
「…少年。ブラン殿に救われたな。…我々も困難な任務に従事しているのだ。次会う時には、その理解があるといいな」
そんな冷たい言葉に、ルウがすかさず反論する。
「…ルウさんが助けたのは、むしろあなた方の方だと思いますけどもね。落とし所を作ってあげたんですから」
そういうと、騎士は「…化け物が」と不満げな声を漏らした。
「ペイザンヌ皇国の騎士に次ぐ。ソテー村における問題は円滑に遂行された。今より祖国に帰還する。ペイザンヌに栄光を」
「「「ペイザンヌに栄光を!」」」
騎士達は文言を復唱すると、即座に撤退の準備を始めた。
「…ルウ・ブランか。名前は覚えたぞ」
ただ一人、先頭にいた騎士を除いては。
「……あなたの名前はーーふむふむ、エヴォリッチィさんですか。…階級は隊長。ルウさんも覚えましたので」
淡々と述べるルウに、騎士は鋭い視線を向ける。不快感からか、口元は微かに引き締まり、眉間には皺が寄る。
騎士隊長はしばらくルウを見つめた後、諦めたように視線を逸らす。
「…本当に、化け物か」
去り際にそう言い放ち、彼らは速やかに村を後にした。
夜の夕闇に、騎士達は消えて行ったのを確認した村人達は、各自安堵の声を漏らした。
「…どうなることかと思った」
「何が騎士だ。…騎士は、信用に値しない…」
「また、ブランさんに助けられたな…」
そして、他の村人と同様バケットもホークも安堵のため息を吐く。
「…ブランさん。ソル金貨、渡してもよかったんですか」
ホークが心配そうに言った。
「ブランちゃん。私が不甲斐ないばかりに…本当に申し訳ない……」
村長のバケットも同様に、心配と謝罪をする。
「…ホークさん、あの金貨はあと2枚もあります。ここにいる皆さんと比べれば、あの一枚なんて、価値のないものです」
ホークはまだ不満げな表情をしていたが、ルウの言葉に少しだけ和らいだのだろう。
「…ありがとうございます。ブランさんには、助けてもらってばっかりだ……」
「…こちらこそ、皆さんの助けがなければ、ここにいなかったかもしれませんから。そうですよね、村長さん」
村長は、今の今まで、ルウ・ブランを差し出そうとした判断を下した自分の狡猾さに恥じ、合わせる顔がないと、ルウに顔を向けていなかった。
「…しかし、私は……」
「…村の存続と、ルウさんのことを両方考えてくださっていたんですよね。それだけで、どれだけ皆が救われたことか」
村長の視界が揺らぐ。これは、涙だ。
「…さあ、泣いていないで、ご飯にしましょう。食べないと元気も出ませんので」
この日、ルウは村を再び救ったのだった。
晩には、村長の家で非常に微妙そうな顔をして飯を食むルウ・ブランの姿があったという。
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・アイテム/【水竜草】
〈説明〉
水竜の住む湖のほとりにのみ生育するという、非常に瑞々しい草。
非常に炎に強く、焚き火の中に放り投げても火がつくことはない。
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ルウ「……炎耐性の装備を作る際に、重宝されるんですよね。青白い葉っぱがひんやりしていて気持ちがよさそうです」




