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第11話:深い憂慮、少年の緊張。

…今回8000字超えてます。

 ルウがデーモンを討伐してから数日が経った。

 現状、村は壊滅的な状況と言って過言ではない。

 かつて50人ほどいた村人は、先の襲撃で23人までに数を減らした。

 そんな彼らは、半壊した家や壊れた建物の一部を布などで補修し、なんとか雨風を凌いで暮らしている。


「ブランちゃん、ここにご飯置いておくわね」


 いつもルウの元に、ご飯を運んできてくれるのは、ウミドという、中年の女性だ。柔らかい顔立ちに、優しそうなシワが印象的である。


「いつもありがとうございます。…ただ、ルウさんそんなにお腹空いていないので、別に毎食もらう必要はないんですけども…」


「遠慮しないでちょうだい。まだまだ子供、食べないと大きくなれないですよ」


「…むぅ」


 ルウは現在、村はずれにある一番形の整った家に住まわせてもらっていた。

 

 村人とはかなり打ち解けられた。

 最初は堅苦しい、英雄様、ブラン様、ルウ・ブラン様という敬称と、敬語が主体だったのも、ルウの必死の弁明の甲斐あって、ブランちゃん、ブランさんと呼ばれるようなり、敬語を使う者も減ってきたように感じる。


 …あれだな。田舎の人たちは人当たりが良いっていうけど、少数民族ならではの助け合いの精神が心の壁をあまり作らないようになってんだろうな。村人さんたち、飲み込みが早くてすげぇや。


 そんな俺だったが、いまだ一つ解決していない不満がある。


 …飯、いらん。

 

 水で茹でこぼした雑草に、申し訳程度に添えられた何かの動物の肉片。しかも脂身だけ。


 塩も入ってない、草とジビエの悪い匂いを凝縮した汁。正直言って、食べられないのでいらないです…。


 んで、どうしても限界で食べるものがない村人達はこれを微妙な顔で食べているんだけど、俺はそこまで限界でもないのよ。てか、全然余裕。


 俺さ、この世界に来てから空腹も睡魔も感じてないのね。食べることはできるけど、あの食欲に引っ張られて、食べないと気が済まないって感じがないの。ちなみに、寝るのはどうやってもできなかったっす。


 そんなわけで、本心からいらないって言ってるんだけど…ルウが子供の見た目してるからって、断ることを許してくれないのよね。ありがた迷惑ってやつ。


 美味い飯なら食べたいと思って、森に住む動物を狩ったり、村人と分担して野生の果物をとったりしているんだが…やっぱり塩も胡椒もない世界だと全てが味気ない。食欲は元からないけど、やっぱり美味しくないと食べる気は起きないね。


 そんなこんなで、俺は今この村で狩人として雇われているような状態にある。


「…ですけれど、今日はあいにくの雨。狩猟はないと思いますし、ホークさんのところに行って、アリさんの様子と……この世界の詳しい情報でも聞きに行きましょうかね」


 板戸窓の外を見れば、小粒の雨が大地を濡らす音が聞こえる。


「…〈ストレージ〉」


 そう呟き、カッパがわりに、フード付きの淡い緑のクローク〈ミストリーフ・クローク〉をスロットから取り出し、羽織った。


 そして用意された飯を〈ストレージ〉にしまい込み、スロットに追加されたことを確認して家の扉を開ける。


 外に出れば、雨の中だというのに村人達が家の修復作業を行なっていた。


「ブランさん。シルバホーンディア、娘と美味しくいただいでいるよ。本当に…何から何までありがとうね」


 木の板材を肩に担いだ男性が、ルウを見るや否や感謝の言葉をかけてきた。シルバホーンディアとは、この近くに生息している、銀色に近い白色の角を生やした小型の鹿のことである。

 一昨日、狩猟で村に卸した動物の一つだ。


「…お役に立てているようで、何よりです。ローストさん、降雨下での作業、何かお手伝いすることはありますか?」


 今日はやることないからホーク君のところ行こうと考えてたくらいだし、技術的なことはなーんもわからないけど、力仕事ならやるぞ。


「大丈夫だよ。ブランさんは今日、こんな天気だから暇を持て余しているんだろうけど、休めるうちにしっかり休むことも時には大切なんだ」


 それは確かに言えてるな。それなら、ローストさん達もしっかり休む日をつくればいいのに。


「それに、ブランさんはまだ子供だろう? 大人のことは、大人に任せてくれよ。…って、大人もできないようなことをした、村の英雄さんに言う事でもないけどね」


「…わかりました。なら、今日はホークさんのところに行こうと思います。アリさんの様子も見てきたいですし」


「あぁ…。アリちゃん、まだ目が覚めないんだってね。ホークが付き添いながら看病してるって…。若いのに、好きな子が眠りから醒めないのは、見てるこっちも辛いってものだ…」


 ローストさんは小雨の中、その黒髪を湿らせながら、エメラルド色の瞳を悲しそうに細めてみせた。

 

 なんでアリだけ意識が戻らないんだろうね。回復魔術も試したし、アイテムだって使ったけど、万策尽きて、アリだけはどうしても目覚めてくれなかったのよ。

 とりあえず安静にしようって村人の総意で決定したんだけど、やっぱり気になるものは気になるよね。だから今日も見に行ってくるわ。じゃあね、ローストさん。


「…雨の中、滑りやすくなっているので怪我に気をつけて作業してくださいね。ではローストさん、またです」


「ありがとうね。ブランさん、また」


 手でも振って送り出してやるよ。本当に大変な仕事してるよな、大人って。


 さて、ホークの家に行こう。雨もちょっと強くなってきてる。この〈ミストリーフ・クローク〉なんだけど、全身をすっぽり覆えるし水属性の耐性が上がるからいいんだけど、フードで押された前髪が目にかかってちょっと邪魔なのよね。

 側から見たらそれも可愛い要素のうちに入るんだけど、自分がやる分には鬱陶しいったらありゃしない。まあ、ホークの家に行くまでの辛抱だ。さっさと行こっと。



「…おじゃまします。ホークさん、アリさんの様子はどうでしょうか」


 ホークは村長の家を無理やり修復した家で、村長のバケット、村長の息子のホーク、そして親を失った眠りの村娘アリの3人で暮らしてる。

 正直言って、俺のいま住まわせてもらってる家なんかよりよっぽど貧相で、ボロボロだ。


 〈ミストリーフ・クローク〉に付着した水滴を、手で払い落としていると、家の奥からホークがゆっくりとこちらにやってくる。


「……ブランさん。どうも。アリは…変わらずですよ」


 いやいやいやいや、ホーク、お前めっちゃ元気なくね? 顔もげっそりやつれちゃって…。


 まあ、食う飯もない、想い人は目を覚さないんじゃそうなるのも頷けるか…?


「そうですか…」


 俺は奥の部屋、アリが寝ている部屋に案内される。

 アリの状態は、ずっと寝息を立てて寝ている状態で、寝言も寝返りも打たない。

 まるで死んだように眠っている。


 いつものように俺がアリの様子を見ていると、ホークが俯きながら口を震わせる。


「…アリは、母親を失ったんです。その悲しさで塞ぎ込んでしまっているんじゃないかって…。元気で健気なアリ…。どうして目を覚ましてくれないんだ…。一緒に旅に出るって話したじゃないか…」


 さっきも言ったが、俺のできることは思いつく限り試した。でも、ダメだったんだ。


「……アリさんに異常は見られないです。そこで…ホークさん、一度休みませんか? …話でもして、ちょっと気を紛らわせないと、アリさんが目覚める前にホークさんが滅入ってしまいますよ…」


 俺は椅子を持ってきて、無理やり座らせる。

 これでやっとこさ、本題に入れるってもんだ。


「…今日はやけにぐいぐいきますね、ルウさん」


「ルウさんもですね、ホークさんに聞きたいことがあったんですよ。なので、お付き合いいただければなと」


 俺はこの世界のことを何も知らない。

 せめて、一般常識だけでも理解しておかないと、その土地ではやっていけない。それは日本でも同じだったはずだ。


 まず、俺の最も大切なものに関しての質問からかな。


「…ではホークさん。早速ですが、こちらの通貨に見覚えは…?」


 そう言って、あらかじめ懐に用意しておいた日本円の500円玉サイズの金貨を3枚取り出す。

 これはゲーム内で使用されていた、ソルという硬貨だ。


 表には満月のレリーフが、裏には太陽のレリーフが彫られた、俺のよく知る一般的な硬貨である。


「…それは……ソル金貨ですか!」


 うお、びっくりした。なんだこいつ、急に大声出すなや。


「…知っているんですか?」


「…ソルといえば、太古の硬貨で、1万年前の魔天戦争以前に使用されていたものなんですよ。古い遺跡の出土と共に見つかるとか…。とても珍しいものなので、高い値で取引されているって、本で見たことがあります…ブランさんは、それを3枚も…。フリム硬貨にして、金貨1000枚はくだらない…」


 あ、やばい。

 こいつ、興味あることについて語り出したら止まらなくなるやつだ。

 でもさっきより格段に良い顔してるし、とりあえず落ち着くまで話させてよう。


 それにしても、ソルってこの世界にもあったんだな。勝手に太古の硬貨にされてるみたいだけど。

 ということは、多分この金貨は使えないんだろうな。残念。


 んで、気になったこと。

 この世界ではお金は〈フリム〉って言うんだな。金貨1000枚相当が巨額ってことらしいすね。まだそれくらいしかわかんないや。


「…3枚も持っているなんてすごいことなんですよ! ……ブランさん、聞いてます?」


 あー! 聞いてるよ。なんだ、3枚ですごいって言ってるなら、ここに全部ぶちまけたら失神するんじゃないか? 2億枚あるぞ。フリム金貨にして2000億枚ぶんやぞ。


「…はい。この金貨は珍しいものなのですね。あ、どこで拾ったかなどは教えられないのでご容赦を」


 肩をすくめて落ち込むホーク草生える。

 でも、俺は俺で無一文なのが確定して草萎える。


 あ、言い忘れてたけど俺がこの村を助けたのに礼金も何も発生しないのは、俺が丁寧にお断りしたからだよ。

 だって、自己満のためにデーモン張り倒したのにお金もらうなんて、しかもこんな辺鄙な村の悲惨な出来事があった後に金取りますなんて鬼でもやらんわ。

 

 ただ、それだと村の方々が納得しなかったので、一番状態の良い家に住まわせてもらってる。いわゆる、VIP待遇ってやつ。知らんけど。


 さて、他にはここがどこなのかとか聞いておくか。


「次に、ここはどこなのでしょうか。訳あって話せないのですが、ルウさん、この辺りの土地柄に何一つ理解がないので…」


 ホークは頷き、話し始める。


「…ブランさんの出自は気になりますが、恩人に詮索はしません。ではまず、この場所、ソテー村の位置について説明するとーー」


 ホークの説明を要約するとこうだ。


 ソテー村は、聖ゴーフレット王国とペイザンヌ皇国の国土から微妙にズレたところにある、辺境の村で、村の近くに流れる川はブラゼ川という、両国を隔てる国境の役割を担う川の源流にあたるそうだ。

 聖ゴーフレット王国とペイザンヌ皇国は戦争を繰り返しており、未だ勝敗は付かぬままだそう。


 こんな長ったらしい話を延々と聞かされても眠くならないルウの体って最高だな。大学の講義中にこの能力が欲しかった。


 それでだな。その情報を聞いて分かったんだが、俺はこの世界を知っている。


「…この世界は、アルハントリスク。それも、夢の世界ではなく、現世の方の…」


 ペイザンヌ皇国、聖ゴーフレット王国。

 それはゲーム内でテキストのみで登場した国の名前である。


 ゲームの舞台である夢。

 その夢を見る者たちが住まう世界こそ、現世なのだ。


 まだ確定したわけではないが、俺はどうやらゲームの中の現実世界にゲームの自キャラとして転生したらしい。


 …不思議と驚きはないのな。

 これは俺がルウ・ブランになったことが起因しているのだろうかね?


 あ、やべ。色々考えてたらホークがなんか怒ってるわ。


「聖ゴーフレット王国近郊の山嶺では、そこに住まう巨人と聖ゴーフレット王国との協力関係が築かれるのを恐れたペイザンヌ皇国が巨人殲滅に打って出たこともあったほど、ペイザンヌ皇国は強欲な国として知られていて…」


 違うわ。力説しているだけだったわ。


「ずいぶん、詳しいんですね…」


「…えっと、まぁ。僕の夢は、アリと一緒に世界を冒険することだったので…。どこに行こうって、毎日話をしていました…」


 アリのことを思い出し、落ち込みながら語るホーク。


 いや、躁鬱が激しすぎてついていけんわ。


 でもそうか…旅か。


 何も考えずにこの村に居候させてもらってるけど、俺もそのうちここを発って旅に出るとしますかね。

 もしかしたら、ゲーム内のストーリーで出てきた、夢を見ていた人たちと会えるかもしれない。

 

 そもそも今生の目標は、ルウ・ブランとして生きることで、俺の想像上のルウはこんな小さな村に収まらない、ビッグな存在なんだよ。


 まあ、この辺の妄想は長くなるからまた今度として。


「では、ホークさん。ルウさんはそろそろお暇したいと思います。お話、ありがとうございますね」


 ホークに笑顔を向けてやる。


「あ、えっと…はい。こちらこそ、元気が出ました。ブランさん、ありがとございます…」


 笑顔に照れてるの、ホーク可愛すぎるだろ。こいつマジで異性の耐性、なんにもないのな。草生える。

 ちなみに俺もない。草萎える。


 俺は椅子から立ち上がる。


「あ、ブランさん。椅子は僕が片付けておきますよ」


 おお、気がきくな男子。


「…本当に配慮のできる方なんですね」


 椅子を片付けるホークを見る俺。

 細い体してるよな。

 でも、いい意味ですらっとしてるっていうか、顔立ちと似合ってると思うわ。

 そういえば、この村の人たちって全員エメラルド色の瞳してるけど、この世界ではそれがメジャーなのか?


 …美男美女ばかりで羨ましい世界だなおい。


「…えっと、僕の顔に何か……?」


 あ、普通に考え事してたわ。


「いえ、ただ、瞳の色が宝石みたいで綺麗だなと」


 ホークは「そ、そうですか」ってキョドッてる。

 てか、なんかホーク顔赤くない? 熱でもあるんでねーのか?


「ホークさん、顔が若干赤いような…。ちょっとしゃがんでください」


「…えっと、こう?」


 おら! デコ出せ!

 

 俺はホークの前髪をかき上げて、おでこを露出させたのち、俺も同じような状態になり、ホークのデコと俺のデコをごっつんこさせるために背伸びをする。

 おでことおでこをピタッと合わせると、ホークの体温が伝わってきた。


「……にょぁあ!?」


 おい、変な声出すな。うーむ、熱はなし。

 

 俺はホークを手放してやると、ホークは顔を真っ赤にしながら後ずさった。


「熱はないみたいですね」


「…ななな、何してくれるんだい!」


 いや、熱あるか確認したんだけど。

 

 あれ、もしかして私いま、すんごく恥ずかしいことしちゃってた!?


 いっけなーい、きゃー、恥ずかしー。


 まあ、最初からホークが照れると思ってやっていたんですけどね。


 そもそもこんな熱の測り方を素でやるやつなんていないから。いるとしたら痴女か常識知らずかだから。


「…熱はないようですが、体調が悪くなったりしたらいつでも言ってくださいね」


「…ひゃい」


 そう言って、ホークの家の扉に手をかけた時、後ろから声がかかった。


「…ブランさんも、その髪とその瞳はとても綺麗だと思います…。でも、目立って危険なこともあるかもしれないので、その…フードなんかをつけて隠してくれると、良いかなって」


 ホークは最後に小声で「僕も意識しなくて済むし…」と漏らしたのを、ルウの驚異的聴覚は決して聞き逃さない。


 でも、確かにそうだな。

 クリーム色の髪ってだけでも目立つけど、青い瞳もあるもんな。ちょっと隠したほうが良い場合もあるかもしれん。そのほうがミステリアスで良い雰囲気になりそうだしな。


「…確かに。……これで、良いでしょうかね」


 俺は〈ミストリーフ・クローク〉のフードを若干深めに被り、ホークに確認を取る。


「えっと、良いと思います」


「そうですか。何から何までありがとうございます、ホークさん。また、アリさんの様子を見にきますのでその時にでも」


 そう言って俺は扉を開けて外に出た。

 まだ小粒の雨が降り続いていたが、そんなことはどうでも良いほど、俺の頭にはとある思いが込み上げてきていた。


 …前髪、邪魔すぎ。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷


side:ホーク



 クリーム色の美しい髪と、青い大きな宝石のような瞳をフードで包み隠した少女が、戸を開けて雨の降る大地へと歩みを進める様をホークは見ていた。


 ルウ・ブラン。

 12歳ほどの見た目からは想像もつかない、常識はずれの強さ、高潔さ。

 僕はいつも、彼女と会うと緊張してしまう。


 初めて出会った時、まるで夢の中から飛び出してきた精霊、妖精かのような容姿に見惚れた。ゴブリンに追われてなお目を奪う、現実感のいくらか欠けた儚さと美しさである。

 その見た目は村の誰もが目を引くほどのものなのだが、どうやら本人にその自覚はないらしい。


「せめて顔を隠すように、言えてよかった…。でも、あのローブ? クローク? も高価なものなんだろうな…。色艶に質感、どれもペイザンヌ皇国の商人が持っているものよりも良いと思うし…」


 それに初めて出会ったとき、ルウ・ブランは薄手のローブ一枚に腰に携えた刺剣一本といった装いだったのにも関わらず、今日初めてみる服を着ていた。


 ソテー村から遥か遠く、亡国の大魔術師が完成させた収納袋なる物の存在は知られているが、それはあくまでおとぎの中の話である。


「…何者なんだろう」


 僕の中ではそんな疑問が渦巻くことがある。

 しかし、それを聞く権利は僕にはない。


 なので今日、話をしようと言われて嬉しかったのだ。ルウ・ブランと出会って幾日か。僕は、いや、村の誰しもがその救世主のことを何も知らないのだ。

 

 ルウ・ブランは出自を話すことはなく、自分のことはただの剣士であると語る。


「ソル金貨を持っている剣士が、ただの剣士なはずがないんだけどな…」


 ソル金貨は太古の硬貨である。

 はるか昔の魔天戦争。その戦争であらかた消滅した硬貨は、特出した能力等はないが非常に高額で扱われている。


 それはなぜか。

 ソル硬貨は一概に、地下深くに埋もれた神殿などの遺跡群から出土するからである。


 地下遺跡、またの名を迷宮。

 深い層にある迷宮には、魔天戦争でばら撒かれ、蓄積した濃厚な魔力が溜まっており、非常に強い魔物が巣食っているという。

 それゆえ、本来そんな迷宮の最奥から持ち出されるほどの金貨を安易に見せて良いものではないのだが。


「…ブランさんの性格からして、嘘はついていなさそうだよね。…というか、嘘が苦手そうだし」


 村の復興に一役も二役も買ってくれるルウ・ブランは、最早聖人と言って差し支えない。

 そんな相手を疑おうなど、どれだけ非礼な行いだろうか。


「…ルウ・ブランさんは、いつまでこの村にいるつもりなんだろう」


 聖人ゆえに、この村の惨状を見捨てられず束縛してしまっているのではないか。


 そんな不安が僕を襲う。


 あんなにも温かみと力があれば、国一つ救うことだってできるはずだ。


「…温かみ」


 僕はくしゃっとなった前髪の下にあるおでこを手のひらでさする。未だにあのおでこの感覚を覚えている。


「…恥ずかしくないのかな」


 ルウ・ブランは顔色ひとつ変えずにあんなことをやってみせた。もしかすると、それが普通の熱の計り方なのかもしれない。

 何せここは閉鎖的な辺境の村、ソテーだ。

 常識なんて、知らないに等しい。


「……アリは、熱があったりするのかな」


 そう言って僕はアリの眠る部屋へと向かっていった。


 ……結論を言えば、恥ずかしさが勝り実行には移せなかったと言う。

⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【銅鉄の糸】

〈説明〉

特殊な製錬によって作られた、硬い金属の糸。高い加工技術を有するドワーフなどがその製造法を定着させた。

その糸で服を仕立てれば、布のようなしなやかさと金属由来の防刃性を併せ持ったものが仕上がるだろう。

また、切れにくいことからネックレスの紐などに用いられることも多い。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……ちなみに、ルウさんの装備している防具にも金属糸が使われていたりします。…というか、強い防具を作るためにこの系統の素材は必須だったんですよね。当時、金属糸専門の鍛治師が荒稼ぎする、そんな世界でした……」

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