第0話:プロローグ
※よくありがちなネットゲームの設定が出てきます。
«*Alhantrisk*»
ーー眠れぬ夜
ーー訪れぬ朝
ーー糾う悪夢
美しくも不思議な、夢の世界。
そんな夢を遙か古より、悪夢から守り続ける存在が居た。
彼らは“夢渡り”夢の守護者である。
ーー無限に広がる夢幻の地
ーー夢渡りとして多彩なスキルや魔法を駆使しての戦闘
ーー広大なストーリーと謎が謎をよぶ探究果てぬ旅路
ーー新たな出会いと立ちはだかる強大な悪夢
誰一人として同じ主人公にはなれない、職業・外見・所作・ボイス。
世界中のプレイヤーとコミュニケーションし、情報を共有して戦略を立てよう。
ーーそしていつしか悪夢の根源を
今すぐダウンロードして、夢渡りとなり、夜空に輝く希望の星となろう。
公式サイトで詳細を……
そんな紹介文で始まる«*Alhantrisk*»は今より8年前、小規模のゲーム会社から発売されたMMORPGである。
小規模の会社が出したのにも関わらず、爆発的な人気を博したこのゲームは、オンラインゲームならではの多人数プレイを快適化することや、考察の膨らむメインストーリーから最高難易度のエンドコンテンツに至る豊富なコンテンツに力を入れた作品である。
キャラクター作成の自由度、多彩なジョブとカスタムしたスキルを駆使したバトルシステム、そして8年間更新し続けられるアップデートによる新たなコンテンツや物語の導引が、今もなおプレイヤーを魅了し続けていた。
▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷
「……バチくそ疲れた。てかもう大学辞めたい。そんなことより、うちのルウ・ブランが可愛いすぎるんだが?」
俺、川畑優樹はそう言って、大学で得た疲労感を、PCの画面にデカデカと映る自キャラにぶつける。
うちの娘はめちゃくちゃ可愛い。現に、全国の全俺から鳴り止まない自画自賛の嵐がそうであると教えてくれる。
……つまり、そういうことだ。
「……総プレイ時間も3000時間を越えたし、それだけ長い時間いるってことは、もう夫婦だよな、これ」
圧倒的クソキモさで独りごつ俺は、間違いなくこのゲームに魅了されているプレイヤーの一人である。
「……今日はフレンドさんと予定あるし、お洋服お着替えしましょうね〜」
そして、今日も今日とてゲームアバターを愛でる俺は、変質者兼このゲーム、Alhantriskの愛好家でもあった。
俺がこのゲームを愛してやまない理由は、そのあまりにも自由なキャラクターメイクと、圧倒的な装備品の数にある。
キャラクターメイクは、顔面の全てのパーツに加え輪郭から毛穴の大きさまで詳細に設定でき、体も、体型から年齢ごとの肌の色つやなんかも再現が可能の気狂いぷりで、やろうと思えば、歩き方の癖や表情なんかも作り込めた。
…ちなみに、グラフィックはそこそこのため、キャラクリをこだわり抜いたとて、ゲームプレイ時にこだわりポイントがボケて見えないのだから細部の作り込みはやる意味がない。
次に、装備品の数なのだが、現在追加されたものは頭の先から足の先まで、含め十二万もの武具が存在している。
数だけでもすごいのだが、それが装備するとキャラクターの見た目に反映されるのだからもう意味がわからない。さらに、アイテムを使用して武具を染め上げたり、見た目装備にできたりすることから、運営の努力と狂気が垣間見えるのも納得だろう。
また、プレイヤーのお供として共に戦闘をしてくれる〈バク〉というAI搭載の独自のキャラクターもプレイヤー各自で3体まで作成が可能だ。
獣型から、人型。やる人によってはアメーバのような見た目にする人もいた。これも上記に準じて自由度が高く、Webサイト上には[キャラクター・バク生成ツール]なるものも作られていたほどだ。
「うひょひょ、ルウ・ブランは今日も可愛い、可愛い」
俺はそんな自由度の高さに惚れ込み、このゲームをやり続け、ストーリーではガチ泣きした。
ストーリーを簡単にいってしまえば、現世と夢の世界に悪夢が蔓延してこのままだと世界がやばいから、夢の住人兼守護者である我々夢渡りが、各夢を巡り悪夢を取っ払って世界の均衡を取り戻そうっていう感じである。
ストーリーは一応終止符が打たれたが、新たな夢の登場や追加され続けるサイドストーリによってその辺の満足度は今もなお高い。
…プレイヤーのインフレ対策で、新しい敵がアホ強くなってるのはどうかと思うけども。
俺の自キャラ、ルウ・ブランのジョブは【魔法剣士】と呼ばれるもので、そのレベルは〈233Lv〉だ。
魔導士、僧侶、シーフ、セイクリッドナイトetc.色々試した結果、最終的に落ち着いたのがこの【魔法剣士】だった。
というのも、このジョブは自他、範囲にかけられるバフと、そこそこの火力を出すことを得意とし、それが自分のプレイスタイルーーいや、ルウ・ブランの型にバッチリフィットしたため愛用しているのだ。
正直、ファイターなんかには火力で負けるし、バフだってできるのは属性付与だけで、味方のダメージをもっと引き出すことのできる吟遊詩人なんかには劣っていることなど、語るまでもない。
それでも愛用しているのは、やはりルウ・ブランのロールプレイを極めんとするには、このジョブしか無いと思ったためだ。
「……少女にも満たない幼女が、かっちょいい武器で暴れ回るの最高。ましてや、それに魔術なんか纏わせられたら最強で最高にめっちゃ可愛くてかっこいいやん!」
そんなスローガンを掲げる俺にとって、この魔法剣士は必要不可欠な要素だったのだ。
ちなみにロリキャラを使っているのにはとある理由があるのだが、まあ今は良いだろう。
その常人には理解し難い、バカバカしいプレイスタイルと、独自のセンスを極めたロリキャラの見た目や、コテコテのロールプレイの甲斐あってか、気がつけば結構な人数のフレンドがいる名物ネカマ姫プレイヤーと化していた。
「目一杯おめかしをしたし、早いけど集合場所に向かうとすっか!」
ルウ・ブランの装備を整えたら、〈夢架け羽枕〉というアイテムを使って、【夢幻廻廊】というダンジョンの真ん前に転移する。
⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー
・マップ/【夢幻回廊】
〈説明〉
場所は【原初の夢】の上空に浮かぶ門の先である。
かつて神は、現世で争う天使と魔人を、無限に続く夢の中へと封じた。
回廊に点在する天使・魔人を倒すことで装備強化素材や能力値強化アイテムなどが手に入る。※アイテム〈夢のかけら〉を捧げることで、戦う相手を指定可能。
ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎
現在、ルウ・ブランは【夢幻廻廊】に新たに登場したボスを討伐しようとしている最中なのだ。
「……待つとすっか。てか、今日暑くって喉乾いたわ。時間あるし、コンビニでもちょっくら行くかね。アイス買おう、氷菓系のさっぱりしたやつ」
他のプレイヤーの邪魔にならない場所に移動させて放置しておく。フレンドであれば、勝手に見つけてくれるだろうし、放置しているとも気づくだろうから多分、問題はない。
椅子から身を起こすと、背中に微かな痺れが残る。深呼吸をして、独り言を呟きながら軽く背中を伸ばした。
「ほょおぉぉ……。疲れてんなぁ、俺…」
色々な聖遺物(ロリアニメのポスターや、百合ゲーのフィギュア)が所構わず配置された楽園のように穏やかで幸せな趣味部屋の扉を開けて、外出する。
「今日こっそは♪ 良素材を、手に入れる♪」
信号待ちをしながら上機嫌に鼻歌を歌う。
ーー遠くから一台のトラックが走ってくるのが見える。
トラックの運ちゃんも、こんな暑い中大変やなぁ…。
なんて思っていた矢先、強烈な衝撃と激しい音が路上に響き渡りーー。
「ーーーえ」
トラックに轢かれたのだと理解した直後、俺の意識は闇に包まれたのだった。
▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷
ーー俺の意識に、徐々に明るさが溶け込んでいくのがわかる。
微睡の中、暗闇が退いて光が強さを増す。
「…んむぅ」
これは目覚めだ。
まだ開かぬまぶたを貫通し、柔らかな光を感じると言うことは、俺はもう起きているのだろう。
ーーキュイキュイ。
知らない鳥のさえずり。
まるでさざめく森の中、大自然に囲まれた場所にいるようだ。
「ん?」
俺の住んでる地域にこんなきっしょい鳴き声の鳥いたか…?
そんな疑問が、俺の重たいまぶたを開く。
瞳孔を突くまばゆい光に、周囲一帯が真っ白に染まる。
俺がその光に慣れた時、俺は知らない場所にいた。
「ーーはい?」
細かいレリーフの彫られた風化したレンガと、木の梁が天井を支える、まるで中世ヨーロッパ、もしくはそれを模したファンタジーの教会を彷彿とさせる場所。
そして、視線を下にすれば、先ほどまで身につけていたイケてない大学生の格好ではなく、本当に若干膨らんだ胸元と、それを包みこむ淡い色のローブ。
そして、どこからか吹き込む風に遊ばれて見える、クリーム色の長髪。
「ほぇ? はい? へぇ?」
(いやいやいやいや、どうなってーーってか、声ーーー!)
聞き覚えのない高い声が直接、頭に響く感覚。
「マジで何! …俺、もしかして女!?」
俺はトラックに轢かれて目が覚めたら知らない場所で女になっていた。
「ひょぇぇえええ!?!? わけわからんわ! バカちんがああああああ!!!?」
初めまして、ゆめいろたぬきと申します。
なろう初心者のため色々と機能について理解が浅いです、ご了承ください。
1〜2日に1本の投稿を目標に、ひとまずストックのある1章を順におろしてしていこうと思っております。
よろしくお願いします( *¯ ꒳¯*)