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二話 カーストトップのS級美少女



 俺が通う鳴海なるみ高校は全校生徒六百人くらいの学校で、一学年で約二百人ずつに分かれている。そこから七クラスまであるので、一クラスに三十人程度はいるという計算になる。

 しかも普通科しかない公立校なので、これと言ってクラスに格差もなければ隔たりもない。つまりクラスが違っていても他の奴らと気兼ねなく交流できるというわけだ。偏差値もやや高めなので不良みたいなのも少ないし、校則も緩めなので、まあまあ良い高校と言える部類だろう。まあ俺の場合、知り合いが一人もいないところという理由だけで受験した高校ではあるのだが。

 それはさておき、先述の通り垣根のない学校なので、俺の知る限り生徒同士の諍いなんてほとんど起こったことがない。かく言う俺のクラスも色々なグループに分かれてこそいるが、目立ったイジメもなければ、一昔前の不良マンガみたく派閥争いなんてものもなく、至って平和で平穏な状態を保っている。

 ただし壁というか、お互い暗黙の了解で干渉し合わない面もあったりするので、和気あいあいという言葉には程遠い。まあ、ノリの合わない人間と好き好んで一緒にいたいとは思わないだろうし、極々自然なことだとは思うが。

 さて、そんな俺のクラスではあるが、大きく分けて四つのグループに分かれていたりする。



 まず一つ目が、真面目優等生グループ。

 これは文字通り成績も生活態度も良好なグループで、これと言って問題もなければ特徴もない生徒の集まりとも言った感じだ。個性があまりないのでどうしても印象が薄くなりがちだが、比較的温厚な人が多いので他グループとも軋轢が少ない、一番無難とも言える集まりである。



 次いで二つ目が、オタクグループ。

 これも言わずもがな、アニメやゲームが大好きなグループで、どちらかと言えばクラス内でも日陰に位置に属する。ぶっちゃけ自己主張が少ない地味めの奴らばかりなので、真面目優等生キャラとはそれなりに良い関係を築けるが、リア充とはめっぽう相性が悪い。俺自身、両者が絡んでいるところなんてほとんど見たことがないくらいだ。



 続いて三つ目が、なんちゃってリア充グループ。

 こっちは自分達をイケている奴らだと勘違いしているグループで、リア充グループとそれなりに交流もあるが、決して友達と呼べる間柄でもない奴らのことを指す。歯に衣着せぬ言い方をすれば、それまで地味だった奴がなんか無理してリア充になろうとしている痛い人間とも表現できる。俗にキョロ充とも呼ばれ、一部では金魚の糞として扱われていたりもする、なんとも中途半端な連中である。



 そして最後が、リア充(または陽キャ)グループ。

 スクールカーストの最上位に位置するグループで、みんなの注目を最も浴びる文句なしの花形だ。

 見た目も服装のセンスも比較的良い奴らばかりで、なおかつ性格も明るいので、各グループの中で一番男女の交流も多い。なにかと多感な年頃にとっては憧れの象徴とも言えるだろう。もっともオタクグループとは相性が悪いので、そういった奴らにしてみれば目の上のたんこぶとして扱われている場合が多いが。

 とまあ、ここまで四つのグループを紹介してきたわけだが、それじゃあ望月友情こと俺はどのグループに属しているかというと──



 残念! 俺はどこのグループにも属していないのであった!



 ……うん。まあ、現役ぼっちだもんね。当然だよね。

 いや俺だって、話そうと思えば話せるんだよ? かつてはなんちゃってリア充グループの方に属していたこともあったし、相手のノリに合わせる術もそれなりに心得ている。

 だがそれも、今となってはただの陰キャでしかない俺が突然やったら、みんなに変な目で見られかねない。特にリア充グループやその金魚の糞どもに『ぼっちが急に粋がり始めたぞwww』とバカにされそうで嫌なのだ。そんな奴らとまともに話せるわけがない。

 かと言って、成績が並み程度でそれほどオタク知識に詳しいわけでもない俺では、真面目優等生グループやオタクグループと仲良くやれそうな気もしない。まさにぼっち・ザ・ぼっち……ぼっちの頂点を極めている俺なのであった。

 そんな俺が、二週間以内に友達を作らなければいけないわけですよ。どう考えても無理だろこれ。無茶難題だっつーの。

 それを証左するように、紺野先生からの突然のお呼ばれから一週間近く経っているというのに、未だにだれ一人として話せていない。ていうか、朝の挨拶すら交わしていない始末。

 朝に登校してからすでにクラスの半数以上が集まっていたのに、窓際にある俺の席まで行く間の時も、皆さん華麗に総スルーでございますよ。俺も挨拶せずにまっすぐ自分の席に行くタイプだから、お互いさまとも言えるのだが。

 しかし、本当にどうしたものか。手っ取り早いのは一時的に友達の振りをしてもらうという案なのだが、きっとタダではやってくれないだろうし、なによりそのことがクラス中に広まりでもしたら、周りからは嘲笑されそうだ。先生からもきっと冷たい眼差しで見られることだろう。いや、紺野先生なら泣いて悲しむかもしれない。どっちにしても嫌過ぎるが。

 あの先生、みんなに好かれている方だし、泣かれているところをクラスの奴らに見られでもしたら絶対面倒なことになりそうで嫌なんだよなあ。最悪、机に『死ね』とか書かれるかもしれないし。やだ、なにそれこわい。

 ああもう、本当にどうしてこんなことになってしまったんだ。まさか友達がいないことでこんな面倒な事態に巻き込まれることになろうとは思ってもみなかった。

 ……まずいなあ。このままだと、マジで親に報告されかねんぞ。親には友達がいると嘘を吐いてしまっている手前、バレたら一体なにを言われるか、わかったもんじゃない。

 そもそも、親も心配性過ぎるんだよなあ。正確には父親の方なんだが、いくら代々友達が少なかった家系だからって、息子に『友情』だなんて寒い名前を付けるほどのことじゃないだろうに。おかげで名は体を表さない典型例みたくなってしまったじゃねえか。いやまあ、ぶっちゃけそれは自業自得な面もなきにしもあらずなのだが。



「ごめーんっ。遅くなっちゃった~」



 と。

 一人頭を悩ませていた中、そんな焦りを混じらせつつも溌剌とした声が、朝の教室に響き渡った。

 薄く染めた茶髪を側頭部で結んだサイドポニー。スタイルは同学年とは思えないほど抜群で、着崩したブレザーの制服から覗く大きな谷間が、なんとも言えない淫靡な雰囲気を漂わせている。

 なにより目を引くのは、あの顔だ。

 猫のように愛くるしい瞳に、すっと整った鼻梁。唇はぷりっと厚く、肌は雪原のように白く透き通っており、毛穴一つ見当たらない。正直、モデルをやっていてもおかしくないほど可憐な容姿をしていた。

 彼女の名前は小日向こひなた綺麗きれい。名前こそ俺と同じくらい痛々しいものがあるが、しかし、その美貌もあってなんら違和感がない。まさに俺とは真逆の、名は体を表す代表格といった感じである。おかげでこの学校でも学年問わず顔が広く知られていて、告白する男も後が絶たないのだとか。

 ちなみに俺はというと、全然好みのタイプではない。いくら美人とは言っても、あんないかにもギャルギャルしい女子は苦手だ。ぶっちゃけ、関わりたいとも思わない。

 そんな小日向ではあるが、教室の戸を開けてばたばたと忙しなく自分の席に向かったあと、

「今日、なかなか髪が決まらなくてさ~。ちょっと変じゃない?」

 と自身の前髪をいじりながら、そばにいるリア充グループに声を掛けた。

「えー? それのどこが? ウチのスマホに髪型が決まらなくて遅れるって連絡があったから、どんだけ変なんだろうって少し期待してたのに~」

 そう言葉を返したのは、金髪の地毛が目立つイギリス人と日本人のハーフ、双葉ふたばジュリアだ。

 見た目こそ小日向よりは劣るだが、それでも十分美人だと言っていいくらいに顔が整っている。ただしメイクが濃い目なため、ただでさえ欧米人譲りのはっきりとした顔付きなのに余計派手になっていた。なんでギャルって生き物はこうもメイクを派手にしたがるのかね?

「ほんとそれな。ジュリアの言う通り全然変じゃねえって。逆に、いつもより可愛いくらいじゃね?」

 次に声を発したのは、双葉の隣りに立つ喜界島きかいじま長政ながまさだった。

 赤茶毛のツンツン頭。背丈は高めだが、顔は十人並み。だが自分はイケている方とでも思い込んでいるのか、ピアスだったりなんだかよくわからないリングを手首にはめていたりと、かなり装飾過多だ。まるでジャングルの奥地に住む部族のような有り様だ。

 そんな喜界島の言葉に返し、小日向は困ったような笑みを浮かべて、

「え~? それって、いつもはまったく可愛くないってこと?」

「うわー。長政サイテー。綺麗に対して可愛くないとか、目が腐ってんじゃないの?」

「違う違う! マジ誤解だって! ははは、綺麗ちゃんも人が悪いなー。こっちは単に褒めただけなのにさー」

 ジト目で見やる双葉に対し、慌てて苦笑を混じえながら訂正を入れる喜界島。

「うん。わかってるよー。あたしもちょっとからかってみただけだし」

「ぷっ。長政ってば、なに本気にしてんの? だっさー」

「……いやいや。そっちのノリに合わせただけだから。逆にこっちがツッコミ待ちみたいな?」

「なんか嘘くせー。長政、思いっきり焦ってたじゃん」

「はいオレの名演技に騙された奴第一号~。やっべ、オレってば役者の才能あるわー。小日向さんもそうは思わん?」

「うーん。どうなんだろ? あたしにはわかんないかなー」

「ないない。長政が役者とか、マジでない」

「ちょいジュリア。はっきり否定し過ぎじゃね? さすがのオレも傷付くわー」

「あんたが傷付こうがなにしようがどうでもいいし。それより綺麗、ちょっと聞いてよ。昨日行ったコンビニで、すんごいキモいオタクがいてさ──」

「なになに? 三人共、なんの話してんのー?」

 と、三人で盛り上がっていた最中に、横から新しい奴が来たのを発端に、次々と陽キャどもが集まってきた。

 小日向の席は、窓際中央の俺の席より後ろの方にあるのだが、今やすっかり教室の後方が陽キャどもによって陣取られている。

 おいおい。お前らのせいで近くの席にいるオタクグループの男子どもが居心地悪そうにしてるじゃないか。ああいった奴らは陽キャのバカ騒ぎがすごく苦手なんだぞ。ちっとは配慮してやれよ。かと言って、こっちから注意するつもりもないけどね。キレられでもしたら怖いし。

 改めて思うが、アイツらとはほんと仲良くなれる気が微塵もしてこんわー。アイツらと話すくらいなら、壁のシミにでも話しかけた方がまだマシだわー。

 とは言ってもなあ。壁のシミでは友達になれないし、期日までにはこのクラスのだれかと友達にならないといけないんだよなあ。

 いや、なにも紺野先生はこのクラスだけに限定して言ったわけではないのだが、さりとて、入学時からずっとぼっちである俺に、顔見知りでもない相手に自分から話しかけるのはハードルが高過ぎる。よって却下。

 じゃあ一年生の時に同じクラスだった人間ならいいのかというと、それもない。なぜなら、前のクラスメートとなんてほとんど会話した覚えがないからだ。よってこれも却下。

 あれ、よくよく考えたら俺って、ほとんどだれとも話してないんじゃね? それ以前に学校で一言も発さないで一日を終える方が圧倒的に多くね? どうりでここ最近、だんだんと顎の力が弱まってきている気がするわけだわー。

 まあ、当然と言えば当然か。なんせぼっちなんだし。

 むしろ独りでぶつくさ呟いているぼっちとか不気味を通り越して恐怖でしかないし、今の方が断然マシな方だろう。良かったー。無口キャラで。

 ……あ、ダメだこれ。今まで通りでいいのなら無口キャラでも支障はないが、一週間似内に友達を作らないといけない状況を考えたらネックにしかならない。

 なぜなら、普段口を開かない奴が急に話しかけて来ようものなら、ほとんどの人が警戒するに決まっているからだ。これでは友達を作るどころか、まともにこっちの話を聞いてくれるかどうかすらも怪しい。

 唯一こっちの話を聞いてくれそうなのは、比較的今の俺のキャラに近い真面目優等生グループではあるのだが、いかんせん真面目なため、先生を欺くだけの一時的な友達になってくれるとは思えない。それこそ本当に友達になりたいという誠意を見せない限りは。

 が、ぼっち至上主義の俺が、本気で友達を作ろうと思うわけがない。どう考えても詰んでいるとしか言えない状況だった。



 あれ? もうこれダメじゃね? もはや諦めるしかないんじゃね?



 いやまだだ! まだ残り一週間もある! この期間内になんとか良い案を思い付けばいいのだ!

見てろよ。なんとしてでも、この最悪な状況をひっくり返してみせるぜ!



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