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異世界でも話題の美人受付嬢とランチデートなんて俺もラッキーだと思わない?

今の状況はこうだ。

俺はダリアさんと二人でランチデートをしている。

魔王とか、魔界とか、魔族とか……俺には知らないことが沢山ありすぎるよな。

今回はこの世界と魔族について教えてもらう話だから、特に事件も起きない。

読み飛ばしてくれてもさほど今後に影響ないからそのつもりで読んでくれ。



目が覚めたら俺はギルドの床に転がっていた。

なんだかどんちゃん騒ぎが始まっていておっぱいがどうとか騒いでいる。

公衆の面前でおっぱいとか言うのはどうかと思うよ、俺は。


ゴザと多田は……いないか。

「リュータさん、お二人は市場に行ったみたいですよ」

「ダリアさん、受付はいいの?」

「今は別の子がやってます、私も一人で受付をしているわけじゃないんですよ?」

そりゃそうだ。


「そうだダリアさん、今オフなら飯でも一緒にどう?」

「わっ…わわ私ですか?私なんかと一緒でも楽しくはないと思いますし他の人の方が……」

「なに言ってんの、ダリアさんだから誘ってるんだよ」

「い、いいでしょう、何か注文しましょうか」

「うーん、ここは騒がしいし……落ち着ける場所に移動しない?」

「おおおちつける?休憩所!?いいいったい何を!?いえいいでしょう受けて立ちます」

今日のダリアさんはやけにどもるな……しゃっくりでも我慢してるのか?


移動した先は近くの喫茶店……というより定食屋かな?

そこそこ静かで雰囲気も悪くないし、値段も手頃だ。

味は……ギルドの酒場の方が美味いかもしれないな。


「ダリアさんに聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

「私ですか?えっと今はフリーっていうか私ってそういうの全くなくて~」

「この世界……国とか地域について教えてくれないかな?」

「アッハイ、何でもどうぞ」


俺はこの世界について無知過ぎる……のだが、教えてもらえそうな知り合いがあまりいない。

村長は集落周辺の事しか知らないし、ゴザは育ちは良さそうなのに基本的にアホだ。

ネコの商会にはハッタリを利かせておきたいので弱みは見せたくない。

となれば、聞くべきは全国にネットワークを持つギルド関係者だ。


「えっと、俺はすごく遠くの出身で何も知らなくてさ、色々知っておきたいんだ」

「そういうことですか……ここが南部の町であることはご存知ですね?」

「まぁ、一応は」


ダリアさんが言うには、この国には『王都』を中心として東西南北に4つの都市がある。

その各都市にもそれぞれ東西南北の4つの町があり、その周辺に無数の村や集落があるのだとか。


現在地は南エリアの南町。

つまり国の南端にあるわけだ。

南エリアは大陸の中でも自然が豊富で獣人が多い地域らしい。

挿絵(By みてみん)

各地では首長による自治が行われているようだが

領主というよりは市長や知事に近い役割のように思える。

馬車で移動する程度の文明レベルなのに政治に関しては近代的すぎる……?

この世界は何かバランスがおかしい気がする。


あとは、俺が本当に聞きたかったけど聞けなかった事だ。

うかつに聞けば変な奴だと思われかねないから誰にも聞けなかったが……。


「その……魔王とかって、いたりするのかなーって」

「えっと……私をからかってます?」


やっぱり聞くんじゃなかった!

戸惑ってるし変な事を聞く人だなーって顔してるよ。

いくら剣と魔法の世界だからって魔王なんて短絡的すぎるよな!


「あーごめん、変な質問しちゃって―――」

「魔王様って、我が国の国王陛下ですよ?」

「えっ……!?えっ!?」

「本当に知らなかったみたいですね」

「だって、魔王って魔界とかにいて人間と敵対したりとか……」


テンパって色々口走ってしまった。

変な事言ってると思われてるんだろうなぁ……。

「そうです……けど?」

これにはダリアさんも困惑顔だ。

ああもう、本格的にこんがらがってきたぞう。


「リュータさんの故郷の空は何色でしたか?」

「あ、青…だけど」

もはや何を答えるのもおそるおそるだ。


「では、リュータさんは人間界の出身ですね」

「外を見てください、空が黄色いですよね?

 魔界は大地から湧き出す瘴気で空が黄色く見えるんです」

「ああ……って事は」

「ここは魔界なんですよ」


これはショックだった。

イメージしていた魔界とは違いすぎる。

魔界と言えばもっと毒々しいイメージというか……

魔界と呼ぶにはあまりにも平和すぎる。


「魔王……様って悪い事とかするの?」

「それはたぶん、誰が見るか次第だと思います」


それもそうか……。

仲間を守るために敵を殺す事は、相手から見れば味方を殺される事だ。

「それでも、先代までの魔王陛下は悪い人だったと言えるかもしれません」

「……と言うと?」

「力と恐怖で人を縛り、理由なく多くの命を奪う行為に正義があるとは言えません」


しかし、それも歴史書の中の話になってしまった。

今の魔王は理由なく命を奪わず、国民の生活の向上に努める政策をしている。

国民からは賢王として支持されているらしい。


「現魔王様が治めるこの200年の間におよそ“戦争と呼べるもの”は一度も無いんです」

なんだその含みのある言い方は?


「人間界とは地続きですから国境での小競り合いはあります。

 それとは別に少し前に、ヒトの都市が消滅したという話がありまして……」

魔王が直接関与しているという噂があるらしい。


「でも、私を含む多くの国民が魔王様を信じているんです」

もし魔王が関与していたとしても、それは理由があり国益のためだと。

反撃もなく消滅したのだから、戦争とは呼べない?

優しく賢い魔王?なんだそれは……。

あまりにも胡散臭い。

文明レベルが低いのに法整備や社会福祉が進みすぎているのにもなにか関係が……?

いや、何か確証を得るには現状では判断材料がなさすぎる。


「最後の質問になるんだけど、魔族とか魔獣ってなに?」

「それも知らずに冒険者やってたんですか……?本当にあきれた人ですね」

おっしゃる通りすぎてぐうの音も出ない。


「魔族や魔獣とは、魔界の瘴気の影響で生まれた生命の事です

 その中でも、理性に基づく行動ができる者を魔族、そうでないものを魔獣と呼びます」


これは現在の魔王が定めた基準であり、魔族は国民として扱われる。

その一方で魔獣は野生動物として扱われ、狩猟や討伐の対象にもなる。


人間界ではヒト以外はケモノという簡単な線引きだが、魔界ではそうはいかない。

瘴気の影響によって、同一種族でも容姿と知能の個体差が大きいため線引きが難しいのだ。

そうだとすると……


「たまたま超天才で生まれた牙イノシシってどうなるの?」

「ランドボアは典型的な魔獣なので可能性はほぼゼロだと思いますが……

 仮に“言語を理解し法を順守する理性的な個体”がいれば魔族として認められます」


その場合はギルドでの簡単な試験に通れば魔族であることを証明するタグが与えられる。

魔族証明タグを身に着けた個体に危害を加えれば、当然罪となるのだ。


「ややこしいのはゴブリンですね」

「あの小さくて知能が高いっていう……」

「ええ、ちょうど魔獣と魔族の線引きの中間なんですよ」

「その場合ってどうするの?」


「タグのない個体は基本的に魔獣として対処してください」

「まぁ、襲われたらたまったもんじゃないしな」

「戦闘前に警告を発して反応を見るのが理想ですが……」

「警告に従ったフリをして襲ってくる個体もいると?」

「その通りです、自身の命を最優先して下さい」


また、凶悪犯罪者は理性的な行動ができないと判断され、魔獣として扱われる場合がある。

ザックリ言えば、法を守る意思があるのが魔族って認識でいいだろう。


まだまだ聞きたい事はあるが、これ以上ダリアさんを引き留めるのもよくないだろう。

店のお会計はもちろん俺持ちだ。

でも世話になってるし、他にも何かお礼をしたいな……。

「いいんですよ、私も楽しかったですから」

ダリアさんって本当にいい人だよな。


「はじめは少し驚きましたけど、分からないことをそのままにしないのは素晴らしい事です

 皆が常識だと思っている事を誰かに質問するのって、すごく勇気がいりますから」

「俺はパーティでも戦闘の役に立たないお荷物だからさ、自分にできる事をしたくって……」


俺の能力(ウェイ)は最初こそ助かったが、言葉をしゃべれるようになった今では無用の長物。

戦闘では逃げ回るしかできず、へっぽこ魔法使いより役に立たないなんて正直ヘコむよ。


「それでいいんじゃないですか?」

「よくはないだろ?」

「いいえ、自分ができることを考えて、それを精いっぱいやるのってとても重要な事なんです

 できないことを得意な仲間に任せるのもチームワークじゃないですか?」


自分にできることを考えて……得意な仲間に任せる。

そうか、俺はそれでいいんだ。

「そっか、なんだか少し気が楽になった気がするよ」

「お役に立てたなら何よりです」


ふふと控えめに笑ったダリアさんは俺に向き合う。


「私からも一つ質問です、リュータさんっていったい何者なんです?」

「うーん……魔界でもなく、君の知る人間界でもない所から来た、って言ったら信じる?」

「なんですかそれ、面白いですね……でも信じてあげますよ」


うん、ギルドで一番人気の看板娘ってのもうなずける話だ。

仕事熱心で気立ての良い人だから、きっとモテるんだろうな。

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