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異世界で冒険者をしようと思ってたのに農業を通り越して農協やることになりそうだ

今の状況はこうだ。

俺たちは今、集落でこなした依頼の報告のために町に来ている。

もちろん、社会奉仕活動の報告と手当をもらうのも忘れてはいない。

あと、武器のメンテナンスも、ヒゲマッチョのオッサンにお願いしないとな。

資金は多くないが買っておきたい物もあるし、何よりある計画が次の段階に入ったのだ。


俺たちは南方商会の本拠地である猫の館へ、ある物を持ち込んだ。

もちろん、俺はまた制服をしっかりと着込んでいる。

ゴザは……いったいどこにいったんだろうな?


「ウェイさんお久しぶりですね、元気そうで何よりです」

三毛猫は相変わらず物腰が柔らかく、それだけに本性がよく見えない(ひと)だ。

「こちらこそ、先日はブチさんに良くしてもらったよ」

「私たちも良い商いをさせて頂きましたから、ほんのお礼です」

トラ猫は相変わらず無口で、三毛猫とは逆の意味で全く読めない。


「今回わざわざいらっしゃったということは……」

「ああ、とりあえず試供品ができたんだ、まだ量は少ないけどな」


集落から持ってきたのは、十数個のジャガイモだ。

日本から持ち込んだものを種芋に、集落の畑を使って栽培して増やしたものだ。


この世界に来て市場を見て分かったことは、食文化がとても似ているという事だ。

元の世界と全く同じ食材や似ているものも多く、味の好みも極端には変わらない。

そして、俺が見た限りではこの世界にじゃがいもは存在しない。

俺がやっていることは種苗法に引っかかりそうだけど、異世界だし大目に見てほしい。


「ほう、これが……しかしこれ、本当に美味しいのですか?」

「ええ、よろしければ厨房をお借りしても?」


俺たちには、誰よりも食に貪欲でこだわり抜くエンジェルがいる。

あまりの美味さにしょんべんチビっても文句言うなよ?


「簡単なものですが、どうぞお召し上がりください」

多田に作ってもらった料理は、ポテトフライ、ジャーマンポテト、ハッシュポテト、コロッケ。

どれも集落で試食したが、とんでもなく美味い。

「まずはシンプルにじゃがバターからどうぞ」


「おお……おお……これはっ!!」

「こいつぁ……お兄さんよ、てぇしたもんだ」

トラ猫の声は相変わらず渋くていいな。

挿絵(By みてみん)

ジャガイモは美味いだけじゃなく、栽培が容易で寒冷地や瘦せた土地でもよく育つ。

今は集落で村人に栽培してもらってる程度だが、これを大量に栽培して一儲けしたい。

そのための資金・人材・農地の手配協力と流通ルートの確保を商会にお願いしたいわけだ。


「乗るかい?」

「ふむ、我々の取り分次第ですが悪い話ではありませんね……」


あれ、もっと食い気味に来ると思ってたんだけどな……。

「これは私からの提案なのですが、ライセンス契約というのはいかがでしょう?」

ライセンス契約……なんだそれは?


三毛猫が言うには、ジャガイモの栽培権をレンタルするらしい。

まず最初に、各地の領主や農家にジャガイモの魅力をプレゼンする。

契約希望者に対しては、種芋と栽培技術を提供する。

我々はその収穫量に応じて契約料を頂戴する。


なるほど、これなら初期投資も人件費も最低限で済む。

自分自身で大農場を経営すると手間も金もかかりすぎるし輸送も大変だ。

ライセンス契約なら、軌道に乗れば何もしなくても自動で金が入ってくる。

さすがは大商会のトップだ。


しかし懸念点がないわけでもない。

種芋と栽培技術の流出を防げなければ利益を独占できなくなってしまう。

そもそも、農家が契約を守ってくれるとは限らない。


「そこは、特許申請(品種登録)と術式契約で解決できるでしょう」

この世界にも特許の概念があるとは思っていなかった。

こちらの世界の文明レベルと法整備のバランスがちょっとわからなくなってきたぞ?

とはいえジャガイモを独自開発の品種として栽培方法と共に登録すれば、無断使用者に対して法的な措置がとれるようになる。


「術式契約書には多少のコストがかかりますが、こうした契約には最適でしょう」

契約を順守しなければ相応のペナルティが課される魔力を帯びた契約書……

契約の重要度と罰則の重さによって5段階の契約書があるらしい。

こうも穴のない計画を即座に思いつくとは商売人おそるべし。

「商売で長く儲けるコツは、市場で優位に立ち続けることですからね」

仲間でいる限りは頼もしい限りだ。


「まだ用意はできていないが、ニンジンとタマネギも同様にお願いしたい」

「以前言っていた別の作物ですな?」


タマネギは植えていれば分球といって球根が徐々に増えていく。

……はずなんだが、正直まだ上手くいってない。

もしかしたらもっと涼しい地方の方が向いてるのかもしれない。

ニンジンは土に植えれば芽が出て花が咲き、種が採れる。

だかこれにはまだまだ数が必要だ


元の世界でも種や苗の生産と出荷に特化した種苗店というものがある。

村長主導で集落を種苗特化の農園にできれば理想的だ。

そこで経験を積んだ村人は指導員として活躍できる。

今度、集落の皆に提案してみよう。


「だが一つだけ懸念点があってな……」

「ほう、その懸念点とは?」

「タマネギには毒があるかもしれないんだ」

「毒とは穏やかではありませんなぁ」

「それについては私から説明しますね」


後ろで控えていた多田が一歩前に出る。

「タマネギは私たちの故郷では当たり前に食べられていて、ヒトには無害なんです。

 ですが、犬や猫、牛などが食べると中毒症状をおこして貧血になってしまいます。

 私たちの故郷に獣人はいないので、その……」

「もしかしたら我々獣人も中毒症状を起こすかもしれないと」

「実際に食ってもらうわけにもいかないんで確定じゃないけどな」


これは俺も多田に教えてもらって初めて知った。

犬を飼っている人間にとっては常識らしい。

だから集落でもまだ、俺と多田しか食べていない。


「ふぅむ……ではタマネギに関してはいったん保留しますか?」

「いや、南部以外は獣人が少ないけぇそっちで売りゃあええ」

「ええ、ではそのように進めましょう」

三毛猫はトラ猫の“カン”にかなり強い信頼を置いているようだ。


さて、これ以上の商談は種芋や苗が安定供給できるようになってからだ。

ネコの館を出て物陰で村人服に着替えながら、今後の展開に思いを馳せる。


ジャガイモはこの世界の食糧問題に革命を起こすポテンシャルを持っている。

各地の食糧問題を解決するだけでなく、農家の生活向上にも貢献できるだろう。

農業が発展すれば集落の現金収入も増え、生活は豊かになっていくはずだ。


特産品の奨励と営農指導、地域おこしと社会貢献……

これはもはや冒険者ではなく、完全に農協だな。

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