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異世界にいるのにコレといった目標がないのが、物語が締まらない一番の理由なのでは?

今の状況はこうだ。

現在地は集落からほど近い森の中。

ゴザが血走った目で魔力を練り、狙いを俺に定める。

「ウェイくん、覚悟してよね……?」

やめろ、そんな物がまともに当たれば俺は……俺は……ッ!!



俺たちの日常は冒険者……というよりは日雇い労働者だ。

ダンジョンに潜ってお宝を探し回るわけでもなく、魔王討伐の旅をするわけでもない。

獣人の集落を拠点にあくせくと働きながら食料をもらう日々だ。


だがこの生活が不満ということもない。

愛するマイスウィートハニーとひとつ屋根の下で共同生活をし、手料理を食べる。

これ以上に幸せなことってあると思うか?

いや、ないね。


でも、本音を言えばもっと楽に稼いで気楽に異世界を満喫したい。

多田にはもっといい服を着て、沢山の美味しいものを食べてもらいたい。

あの合法ロリは……よく知らないけど金があっても困る事はないだろう。


つまり、俺たちには現金が要る。

集落での日常依頼は現物支給なので金にならない。

ゴザの社会奉仕手当も金額としては微々たるものだ。

であれば、実入りの良い討伐依頼をこなすのが最も効率的だろう。


先日のイノシシ戦を反省した俺たちは、車座になって互いの戦力を再確認する。


まず俺。

武器はナイフで身体能力は中の下。

言うまでもないが、翻訳能力(ウェイ)は戦闘においてクソの役にも立たない。

剣を振っても槍を持ってもセンスが無いと笑われる始末だ。

155センチという小柄を活かして逃げ足だけは自信があるぞ。

自分で言ってて悲しくなるね。


次に多田。

武器は戦鎚で、それを小枝のように振り回す怪力能力がある。

柔道のスポーツ推薦で高校に入学しており、空手道や合気道にも触れている。

加えて182センチという体格にも恵まれていてフィジカルがすこぶる強い。

体のラインが隠れる服を好んで着るが、所々のデカさは隠しきれていない。

まさに美と武を併せ持つ完璧な女神である。

挿絵(By みてみん)

最後にゴザだ。

犬の獣人らしく夜目と鼻が利く上に耳も良いので索敵に優れている。

また、獣人は総じて身体能力が高く俊敏で格闘センスも高いらしい。

で、その手に持ったひょろっちい棒みたいなのは武器か?

「私は選ばれた存在だからね、火と土の魔法が使えるんだよーっ!」


曰く、獣人で魔法を使えるのはごく稀な事らしい。

それで何ができるかというと……

「爆裂魔法と岩石生成、以上っ!」


爆裂魔法というのはイノシシの件でもう見たぞ。

「フフンど素人め、アレは中当たりなのっ!!」

役立たずでもふんぞり返っていられる方法をぜひお教え願いたい。

今すぐに使うから。


「それって……ハズレと大当たりがあるってこと?」

「さっすがお姉様!今からバッチリ見せてあげるんだからーっ!」


「熱量収束、思いっきりぶちまけろ!10連発破ぁ!!」

ゴザが持つ棒の先に光が集まって赤熱化する。

「バカやめろ近いって!」

耳栓をふさぎながら急いで距離をとり、視線をそらす。

連射速度は毎秒6発程度となかなかのものだ。


チカチカする視界の中で冷静に分析した結果はこうだ。


“ハズレ”はただ音がなるだけの“クラッカー”。

“中当たり”は光と爆音の“スタングレネード”

“大当たり”は光も音も控えめで攻撃力がある“発破”

という表現が分かりやすいだろうか。


割合はクラッカー5回、スタン3回、発破2回。

発破の威力はマッチョの本気パンチくらいはあるだろう。


「どうひょわらひのかれーなばくれつまほー……は……」

中国の春節のお祝いってこんな感じだったなーって思った。


しばし時間を置いて、次は岩石生成魔法の実演だ。

こちらは初見なので十分に距離を取りたい所だが……

「灰燼よ集まり岩となれ!岩石生成(ファブリケート)!」

相変わらず前置きのないやつである。


どこからともなく集まった砂粒が杖の先端で徐々に固まり、徐々に岩石になっていく。

その形はほぼ真球で黒く鈍い光を放つ黒曜石のように見えた。

ここまでおよそ5秒。


閃光がよほど目に効いたのか、ゴザの目は真っ赤に充血している。

「ウェイくん、覚悟してよね……?」

覚悟ってなんだ?もしかしてそれを俺にぶつけるのか?

やめろ、そんな物がまともに当たれば俺は……俺は……ッ!!


杖の先端から離れた岩石は高速で射出されて腹部にめり込み骨を砕く――

というような事にはならなかった。


「いたっ」

小豆大の小石が服に当たり、地面に落ちる。

威力のほどは…例えるならエアガンだな。

しかも東京マルイの10歳用モデル。

服の上からではチクッとする程度の痛さだ。


「どうよ?私の華麗なる岩石生成魔法の威力はー!!」

「ゴザちゃんすごーい!この石まん丸ツルツルでキレイだね」

「お……おう」


ここまで使えない魔法を自信満々で見せられると、人はツッコミもできなくなるんだな。

“発破”の威力はそこそこだが成功率2割というのが問題だ。

しかも射程はほぼゼロなので、獣人の腕力で殴るのとあまり変わらない。

“岩石生成”に関しては論外で、その辺に落ちてる石を投げる方がずっと強い。


いっそ武器を持って前衛に出てもらった方が……

「ウェイくーん、魔法使いが前衛とか頭大丈夫~?」

あくまで魔法使いであることを譲る気はないらしい。


つまりこういう事になる。

俺←役立たず

ゴザ←索敵以外役立たず

多田←近接戦最強


オンラインゲームだったら「寄生乙」とか言われること必至。

多田のワンマンパーティここに極まれり、だな。

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