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かなり吐き戻したことで脱水症状が強く出て、熱も高いこともあって二日病院に泊まることになった。
不機嫌そうな凌に、仕事帰りによった良光は笑ってしまう。
「なんだ? そのふくれっ面。まぁ、熱あるもんな。おふくろ、着替えたら、すぐに戻ってくるってさ」
さっきまでいた彩香は、着替えが必要だとかで帰ったばかりだった。ずっと付き添ってくれていた人に、凌はどうしてだろうと不思議で仕方ない。
「おばさん、なんで……俺なんかに、こんなよくしてくれんの?」
「んー……うち、イトコ、一人死んでるからな。六年前に」
「病気?」
「事故。ちょうど、お前くらいの年齢だったか……高校三年生だったな」
今から六年前、父親の弟にあたる善規の娘・理沙を事故で亡くしていた。善規一家は、彼女がなくなる半年ほど前に念願のマイフォームを建てて高台の家に引っ越したばかりだった。娘の受験を機に、一人部屋を用意してやろうという親心もあった。それにこたえようと、理沙も難関大学を目指して懸命に勉強へ励んでいた。
そうして、寝不足と貧血が重なって、駅から家へ至るまでの坂にある階段で足を踏み外し、頭部外傷で亡くなったのだ。
話を初めて聞いた凌は、泣きそうな顔をする良光の腕を躊躇いがちにつかんだ。
「それからかな、おふくろは俺に就職しろとも言わなくなって……あと、昨日聞いたけど……おふくろ、友達を飛び込み自殺で亡くしてるらしくて……会ったこともないけど、体の弱かった母方の大叔母……祖母の妹な? は、二十代で心臓発作で亡くなってるし……だから、誰かを救いたいって気持ちが強いんだろ」
ずっと人の死に向き合い続けてきた人だ。それだけに、余計困っている人を放っておけないのかもしれない。良光は、そう告げて、落ち込む凌の背中を摩った。
「あらー、良光。仕事早かったのね」
「あ、おふくろ。それ、なんだ」
着替えて戻って来た母親の姿を認めて、良光が手を振る。そのまま、母親が手にしているタッパーを指さした。
「苺よ。気分はどう? 吐き気は収まった?」
苺を受け取った凌は、二人をチラチラと見やる。
「美味しいか?」
「……帰りたい」
「点滴が嫌か! 子供だな!」
からかってくる良光に、凌は無言で肩を殴る。
「明日には帰れるわよ」
頷く凌に、彩香は笑顔で何度も何度も嬉しそうに頷いていた。