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素知らぬ顔をしてタブラ・ロサのメンバーが立っている。その変わりなさに、今日ともにハブミュージックへ出る出演者たちの方がソワソワ、落ち着かない。
「リーダーの良光さんが、怪我より復帰しての第一作目アルバムから、〈あかねさす〉を本日は演奏いただきます」
「よろしくお願いします」
怪我して一年経っても、まだ若干立っているのが覚束ない良光に、みどりがそっと背中を支えた。
少し世間から離れているうちに、また新しいアーティストが増えている。良光は続けるのが大事だと、改めて気を引き締め直す。
「ゾンビリアンの由来はなんなの?」
「今までいろいろあって、休止や活動停止を経て、なんとか復活できたのでゾンビのように生き残りたいと思って」
「色々あったもんね」
「ありましたね。ほんと」
メンバーの不祥事などが重なったり、事務所との揉め事があったり……様々な困難を乗り越えてきたゾンビリアンの四人は毛呂の言葉にうなずく。
「でも、レコード会社の人に上にはもっと上がいるって言われて」
視線を向けられた良光は、マイクを受け取りながら首を傾げた。
「今までタブラ・ロサさんはどのくらい活動停止されたことがあるんですか?」
「うちは約二名ほど謹慎処分を受けているだけですね。去年もシングルは出していますし、ライブも七本はやってますから? 今年なんか、アルバム三つですもん。年末にはライブ二本やりますから……活動は止まってないです」
「……すごい」
何故か活動休止することもなく、メンバーが欠けることもなく続いているバンドに、周りはなぜと不思議がって驚く。
マイクを持たされた凌は、少し緊張気味にカメラを見た。
「この曲を最初に持ってきたのはどうして?」
「これを、歌い続けることが償いになるのではないかと……これはみどりさんが作詞して、良光が作曲したものなので」
「それでは、お聞きください。タブラ・ロサであかねさす」
スタッフからの指示に、香月は良光に手を貸して立ち上がらせた。
キーボードを演奏するみどりの横で、椅子に腰かけて演奏する良光がふと笑みを浮かべた。
それを眺めならATUMは、感嘆しっぱなしだった。
「いやー、ほんと。怪我が治ってよかったっすよね」
「ほんとに、そうだよね。ATUMは、彼らから何か影響受けたことあるの?」
毛呂から話を振られたATUMの中でマイクがぐるぐる回される。
「メイン作曲者のヌイが、スランプになって……いや、もうダメかって思ったけど。彼ら見ていたら、何がなんでも続けていればどうにかなるもんなんだなっていうのがわかりましてね」
頷くヌイに、後ろからベル・ランプの鈴木が身を乗り出した。
「ぶっ壊してしまうことがかっこいいと思ってたんですけどね。我関せずと自分の道突っ走り続けるのも、めっちゃかっこいいんだなって知りました。自由気ままさがすごい」
「ねー……ほんとに。なんかあったのくらいな感じで戻ってきたかと思えば、年末ドームやるよってどういう神経してるのかもよくわかんないんですよね。ぶっ飛んでる」
相変わらず面白い。ヌイは、終わって戻ってくる彼らを見やった。
席に戻ってきた良光は、周りからの視線に首を傾げた。
「どうして、そんな風に自由気ままに突っ走れるんだろうって話をしていたんだけど」
毛呂のふりに、良光が香月を見やる。
「ダメだって言われたら別にメジャーじゃなくてもいいかなって思っているだけなので。バンドが食えなくなるのは、新しい音源が作れずに清新さを失った時で、その点うちは自由に放し飼いにさせておくと曲くわえて戻ってくるのがいますから」
「あ?」
「香月のフォローに回れるだけ、俺も先生もキャリアがあるので。だからじゃないですかね」
不機嫌そうな香月にヘッドロックをかけながら、良光は犬を撫でる要領で頭を撫でまわした。