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相も変わらず感覚先行型の香月に、諦めたみどりが確認を取りながら作業を進めていく。
「凌くん、次これお願い」
「俺、これ歌う?」
「え、うん。いいじゃん。あかねさす」
「まぁ、はい。わかりました」
何も言い返せない凌が、曲を見ながらため息をつく。
「じゃ、俺帰るけど」
「一緒に帰る」
「しょーがないよ。香月の作業が終わらないんだから。ね? うさぎさんのオムライス作っておくから」
小さくうなずいたみどりが、ため息をつく。気合を入れるように声を発しながら、背もたれに寄りかかっていた上体を起した。
「児玉、車で送って。流石に、まだ運転はダメみたいでさ」
「まぁ、死にかけたからね。ああ、映像監督見つかったから、その資料の確認と、バイソン事務所との対談の日取り決まったから」
「本当に? 凌の方がいいじゃん?」
「社長さんが出てきた方がいいでしょ」
資料を手渡しながら、児玉は対談にカメラが入ることも付け加える。
「そうなんだ? じゃぁ、それも含めた話し合いしよう。凌、帰りにどりちゃん送って帰ってこい。お前にも、オムライス食べさせてやるから」
手を振ったみどりは、嬉しそうにほほ笑むと作業に取り掛かった。
「相変わらずなんだな」
「良光、変だからな。どの子が一番可愛いかって訊かれて、どりちゃんって即答しやがったぞ。娘と息子じゃなくて」
凌の返答に吐くふりをした香月は、機嫌がいいみどりを見やった。
「良光のどこがいいんだか」
「全部!」
「アタマ悪い回答」
ピックを投げられた凌は、投げ返した。
アルバムが完成し終えると、映像作品が作られることになり、新規の映像監督が迎えられた。どういう映像作品ができあがるのだろうか――新しい監督の感性に任せ、その出来上がりを楽しみに待つ。