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新しくディレクターに就任した小池は、リーダーの良光から注意事項を聞かされる。大半が香月のことで、彼をせっつくこと、土壇場で全てをひっくり返す癖があることを何度も念押しされた。
その言葉通りの香月に、小池は早速振り回されることなる。
「もっと異世界感がほしい」
「んー、じゃぁもう少し変えてみるね?」
対応に慣れているみどりに助けられながら、小池は周りが何も言わないことにも驚いていた。
「いつも、こんな風なの?」
「え、あ、はい、そうですね」
良光は言われて、もう各々が自分のすることを把握して動いていることに気づかされた。香月がシングルのタイトルを決め、アルバムは越智がタイトルのアイデアを出す。香月が作詞作曲し、作詞しなかったものは凌が担当する。井戸が作った曲は、凌が作詞し、井戸も言葉の提案をすることがあった。越智は全体的に英語や外国語の補作詞を担った。アルバムであるならば、そこに良光とみどりが作った曲が一曲入る。その枠の中で、各々が自分の力を試していた。
「アルバム名、前に出したリコールとひっかけてリヴァース」
文字がごちゃごちゃ羅列された紙に、良光はどれがタイトルかと指でなぞる。
「意図は?」
「再生を意味するリヴァース、ひっくり返すリヴァース、川を意味するリヴァース。あと、刺された箇所が肝臓だから」
「肝臓と腎臓の間! 臓器傷つけててたら死んでたわい!」
相変わらずのズレたツッコミが懐かしくて、みんな聞きながら笑顔になる。
「RebirthっとReverseとアナスタシオス・アサナシオスってタイトルを考えているんだが」
「ナスとかナオシマス? 意味何?」
なんだそのタイトル。言いかけた良光は、とりあえず香月に訊く。
「復活・不死のもの」
香月らしい短い言葉に、良光がスコアを眺めていた。
「それはいいけど、なんでこんな曲が明るいんだ」
人が死にかけたというのにやたらと明るい弾けた曲に、良光が不貞腐れる。
「めでたくないか? 凌の出所祝い」
「起訴されてないからな」
音源を詰めながら、六人はいつも通りに各自がすることを確認して動き出していた。