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 徐々にリハビリが始まったものの、立ち上がってのライブが当面無理であることは確実。移動に車いすが要する状況に、復帰目途も立たないままだった。

 リハビリ施設退所後、良光はみどりの負担を考え、実家に戻ることを選択した。少しずつ家族と暮らす時間を伸ばしていくことで、生活の再建をはかっていた。

「パパ、お腹痛いの治った?」

「もう平気だよ。早く治すからな。ほら、おいで」

 心配してくれる息子たちに、良光は思いっきり抱きしめてやる。

「あまり無理しないでね」

「わかってるよ。心配かけてごめん」

 首を横に振ったみどりを抱きしめた良光は、労うように背中を摩った。

 とにもかくにも、今後の方針を決めておかねばならない。事務所に全員がそろうのは、あの日以来ということもあって、かなり久しぶり。凌は、自分の中で折り合いをつける意味もあって土下座した。

「申し訳ありませんでした」

「もういいよ。良光は皆でやることを望んだのなら、私もそうする。凌くんができる償いは、ファンのためにもっと歌が上手くなって、良質な歌声を届けることだけよ」

「一番、どりちゃんが手厳しい」

 睨まれた良光は、車いすを抑えて来るみどりに逃げられない。

「で、どうする?」

 越智の軽い質問に、全員の目が良光に向く。

「ライブが無理でも音源は作れる。それを持って、出してくれるレコード会社探そうか。皆が、一緒にやってくれるなら」

「本人たちにわだかまりがないなら、俺にある訳なかろう。先生は?」

「んー? そんなことよりも、早く音が出したくてうずうずしてる方が大きいかな。デモ音源も作っちゃったし」

「俺も」

 越智に訊かれて、井戸は自分があんまり何も考えずに曲を作っていたことに気づいたほど。横で同じように作ったと言う香月に、早く聞いてみたいという思いすら湧いてくる。

「お、生田。ちょうどいいところに来たな、スタジオ抑えてくれ。音源作るぞ」

 事務所にやってきた生田は、しばし黙った後、嬉しそうな顔をした。

「あぁ、そう? 所属するレコード会社も決まったしな。コンソノがお詫びに引き受けるってさ」

「は? え? お? マジかい」

 あんまりにもあっさりとした移籍に、良光はぼへっと口を開けたまま呆ける。

「なら、ぼく……結婚しようかな」

「……今、このタイミング?」

 越智といい、とんでもないタイミングで結婚を持ってくるのだ。良光は何故と首をかしげる。

「うん、このタイミング。刺された後、退院して動くのもしんどかった時に、一緒に住んでくれて助かったし……なんか死ぬかもしれない目に遭ったら、無性に家族が欲しくなってしまって」

 良光より軽かったとはいえ三か所も刺されたのだ。動けるようには大分時間がかかり、実家と疎遠の井戸は彼女に日常生活を支えてもらっていた。

「皆にも会ってもらいたいな」

 恥じらいがちにそういう井戸に、思いっきり舌打ちした香月がおめでとうを投げつけた。

「相手って、あの制作会社に勤めている教育番組作ってる人?」

「そう……上杉実穂さんって言うんだ。年はぼくと同い年」

「結婚式はいつにするんだ?」

 どんどん話を脱線させていく良光に、生田が軽く咳払いをする。反面、いつもの光景に笑みがこぼれた。


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