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神代の家と、凌の処遇を巡ってもめにもめている様子。その元凶を家に引き込んでしまった良光は、話にどう関わればいいのか悩んでいた。
「お? 凌。おはよう……どうした? 学校だろ」
「だるいからサボる」
パジャマで降りてきた凌に、良光はあっそと呟き、朝食を再開させる。
「あれ、凌くん。学校は」
「だるいから行きたくないんだそうだ」
お弁当箱に蓋をしようとした彩香の手が止まる。電話横にある引き出しを開けると、体温計を探しはじめる。
「あった、ほら」
差し出された体温計に、凌は舌打ちした。
「体温計の使い方くらいわかるでしょう。ほら、脇上げて」
凌の襟首を引っ張った彩香は、体温計を差し込むと腕を叩いた。
「仮病だと思ってんですよね。もういいです。行きますから」
引き出しという引き出しを開けている彩香は、凌の抗議を手のひらでかわす。
「どれ、見せてみろ。あー、おふくろ。結構熱あるぞ」
「ちょっと、待って。どっかに病院のチラシが……」
「片付けないから、そんなことになんだよ」
彩香は引き出しを漁る手を止めて、良光の手元をのぞき込む。
「あらやだ、ほんと……チラシ、探しとくから、二階からお布団持ってきてあげて」
「おふくろ! クローゼットの中?」
「そう! いつもチャタちゃんが寝てるやつ」
二階に上がった良光は、余っている布団を抱えて階下へおろすと、畳コーナーに敷いた。
「まだ、チラシ探してんのかよ。捨てたんだろ」
「あった、ありましたー」
息子の呆れた声に、彩香はチラシを掲げ見せる。
「凌くん、お弁当作っちゃったから、食べられないなら容器取り出して冷蔵庫に入れておいて。冷凍庫に、レンジで温めるだけのうどんがあるから、食欲なかったらそれ食べなさい」
「え、あ、はい」
「熱、三十九℃近いから、もし途中で具合悪くなったら遠慮せずに電話してくるのよ。今日、早く帰ってくるから。病院は一人で行ける? 大丈夫よね? はい、じゃぁ行ってきます」
あっという間に行ってしまった彩香は、凌の頷きも見ていなかったことだろう。