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都合二ヶ月半ほどの入院後、良光はリハビリ施設に移ることになった。
みどりは、自分の母親の手を借りながら三人の子育て中。今年予定されていたライブのうち、残り三十本ほども吹き飛んでしまっている。それもあって、早く動き出さなければと良光には焦りがあった。
「神代さん、どこか体勢辛くはありませんか?」
「大丈夫です。リハビリっていつからですか? 子供たちにも早く会いたいし」
民間の救急車を利用して、良光は転院移送された。送ってきた元の病院の医療スタッフと施設のスタッフ総出で、ベッドからベッドに移される。
「結局、名前何にした?」
越智の質問に、良光がベッドサイドに手を伸ばす。それを見て、近くにいた看護師は写真盾を取って手渡した。
「生き返った後、病室から見えた夕日が綺麗だったから……あかね。早く会いたいな」
リハビリはいつごろからだろうと、良光は質問に答えない人たちの顔を見る。
「みっちゃん、体の具合はどう?」
「アイス食べたい。アイス。ねー? 食事制限ないんだろ?」
食べたいと言い続けて、二ヶ月半。普通の食事は諦めるから、いい加減食わせろと言いたくもなる。
「アイスはもう少し我慢してくださいね」
「どりちゃん、アイス食べたい。アイス、アイス食べたい!」
「先生に聞いてあげるね? 我慢しようか」
「やーだ、アイス食べたいの。アイスがいい!」
みどりに宥められた良光は、機嫌が悪そうにプイッと顔を背けてしまう。
「皆さんちょっと……神代さん、何かあれば、ナースコールを押してくださいね」
外に出されたみどりと彩香、それから児玉や生田とメンバーは、主治医と名乗る坂本を囲む。
「えっと……ご家族だけの方がいいですかね?」
「いや、全員で聞きますけど……何かあったんですか?」
言いづらそうな坂本に、生田が心配そうな顔をして質問をした。
「かなり後遺症が重いと申し送りで聞いていましたけど、今見ただけでも結構重いと思います」
「……え?」
「心停止の影響によって脳にダメージがあったみたいで、感情の抑制が効かない状況なのかもしれません。それから、リハビリしても寝たきりのまま――」
室内から聞こえてきた物音に、坂本は口をつぐむ。その場にいた人たちを近くの会議室へと招き入れた。