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検査結果が出るのを待っていた良光は、報告を受ける前に、ネットニュースで結果を知ってしまった。
今日の午後、結果を聞く予定だったが、良光は急いでレコード会社へと向かった。
もう溢れかえっているマスコミに、何食わぬ顔をして横を通り過ぎようと試みる。あっけなく捕まった良光は、警備員に救助してもらっていた。
とりあえず会社には入ったものの、良光は少し考えて踵を返した。
「おーおい? どこ行くのかなぁ? 良光くん」
「お、お腹が痛いので早退します」
「後で病院連れて行ってあげるから、来い」
「ですよねぇー」
生田に腕を掴まれた良光は、会議室へと引きずり込まれていた。
「検査結果だ。もう知ってるだろうけど」
鑑定書を受け取って中を確かめた良光が、ファイルを床へと叩きつけた。
田沢はわざと検査結果をリークしたのだ。そのせいで、対策を講じる前に世間の知るところとなる。
子供がいない生活を選んだ夫婦として取材を受けることが多い田沢夫妻。その妻である中西に子供がいたのだ。当然、大きなニュースにもなる。それが不倫相手の子であることは、さして驚かれなかったとしても、その不倫相手の中学生だった子供に手を出していたことは、世間に大きな衝撃を与えた。あまつさえ、子供までもうけていたのだ。一層スキャンダラスに、下世話に、面白おかしく書き立てられ、報じられた。
連日連夜、中西伊都美の子供としてメディアに騒がれ、凌はその騒動に疲弊していった。
「凌! やめろって」
「ふざけんな! 俺がいつあの女に顔と歌声を贈られたんだよ! ぶっ殺して俺も死ぬ」
テレビを叩き壊そうとしながら凌が叫び声をあげる。良光は、その暴れ方に抱きしめるしかなかった。
メディアは勝手に、母親譲りの美貌と歌声と関連付けて持ち上げようとする。そのおぞましさに、凌は血管を抉り出そうとジタバタと暴れては、叫んでいた。
どれほど努力して、今の歌唱力までたどり着いたかを知っているだけに、勝手なことを言って褒めそやす人たちに虫唾が走る。良光には、自分のせいだと罪悪感があった。
そもそも、中学生時代の凌はサボり常習犯でろくに音楽の授業にも出ていなかったのだ。しかも、高校での選択芸術は美術。カラオケに行く習慣もなく、歌ったことなどほとんどない。そんな人間が、歌い始めて二年でデビューして、三年目で武道館にまで至っているのだ。その過程で、相当な努力が強いられてきたことは想像に難くない。
なのに、誰もそんな努力見ちゃくれないのだ。
以前よりも増して、凌の表情が荒んでいる。血管を抉り出そうとした搔きむしった爪痕のむごさに、メンバーはかける言葉をなくした。