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 せっかく、よくなったはずの精神状態は逆戻り。凌はとにかく暗い顔をしていた。どこを見ているのかわからないほどに、目は虚ろである。

 ライブ中も、悲鳴に近いような叫び声を上げながら歌いあげていた。良光は、その状況に一つの決断を下す。吉村と直接対峙することにした。

 レコード会社に無理を言って、会社に吉村を呼び出してもらうと、会議室を訪ねた。

「貴方は確か……帰るわ」

 衣装のデザインを依頼したいというアーティストがいる。そう聞かされて、吉村はODEまで来たのだ。これでは、話が違うと席を立とうとした。

 ドアを背にした良光が、退路を塞ぐ。

「貴方と喧嘩をしに来たわけではありません。今日は、あいつの母親の名前を聞きに来ました」

「名前を口にするだけ、おぞましい」

 吉村の背後に寄った良光は、上から覗き込むように伺い見る。

「それほどまでに、その女を憎んでいらっしゃるんですね? 俺もですよ。この間、貴方に怒りをぶつけてしまってから、気づいたんです。そもそも、事の元凶は誰かって……」

 振り返って見上げてくる吉村の揺れ動く目を、良光が真っすぐに見つめる。

「俺は貴方の敵じゃない。その女こそ、今ものうのうと生きているわけですよね? 敵とりたくありませんか?」

 堰を切ったように愚痴を言い募りだした吉村に、良光は一時間も拘束される羽目に――。

 散々愚痴を聞かされた後、名前を教えてもらった良光はそのまさか過ぎる名前に、絶句した。


 楽屋で丸くなっていた凌は、背中を摩る良光を見上げた。

「お前の母親の名前がわかった」

 体を起こした凌は、恐る恐る写真を受け取って、覚悟を決める。

「……これじゃぁ、おじいちゃんも死んじゃうな」

 横顔が自分とそっくり。凌は泣きそうな顔をして、俯いた。

「結局、誰だったんだ」

 香月の質問に、良光が項垂れる凌を一瞥する。

「中西伊都美だ。興信所で調べてもらった」

 中西伊都美は、十代の頃にモデルオーディションに合格。アイドル歌手として紅白への出場経験もある、現役の女優だ。

 凌の祖父にあたる宗重が経営する会社が開催したイベントにも、中西は何度か出演したことがあった。そのことが縁で、輝美は中西の衣装を依頼されるようになり、友人関係を築いていた。神代家と中西夫妻は家族ぐるみの付き合いがあったのだ。

 さらにいえば、凌が生まれた翌月に中西夫妻は離婚している。

 若い頃の中西伊都美は、業種年齢妻帯者関係なく食い荒らす肉食系女子として別の意味でも有名。それ故、離婚はさほど驚きを持って迎えらず。その後も、多種多様な人と浮名を流しているあたり、そういうことだろうと世間も見ていた。

 現在は、十年前に再婚した田沢倫示と平穏な夫婦生活を送っているという。

「どうしたい、凌」

「会いたい」

 その一言に、良光は動くことを決めた。


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