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音源づくりも終わりが見えてくる。凌は、楽しそうな越智を見ながらラーメンをすすった。
「楽しそうでいいねぇ」
「ご、ごめん。チャーシューあげるか」
「来月、結婚式?」
頷いた越智は、気まずさにチャーシューだけでなくメンマも引き渡した。
「結局。行くのは先生と神代夫婦だけか」
「いや、みどりさんは留守番かな」
凌の質問を返した良光が、動揺する越智を見て、自分のチャーシューも凌の丼に投げ入れた。
「……どこでやるんだ?」
「地中海の島……かな。イネちゃんのご両親と祖父母たちとうちの両親と祖父母たちと親戚くらい?」
「……いいな。行きたい」
まさか、そんなこと言うとは思ってもみないことだった。イネスに押し切られて結婚式をすることになったとはいえ、まだ凌の傷も新しい。流石に日本でやることはできず、二人の親戚が多い外国でやる話でまとまっていた。
「お、じゃぁ、行くか」
「え、いや、でも」
越智を伺い見る凌。その様子に良光は、皆で行ける方法を考え始めた。
「なんだ、今日の夕飯はラーメンか。終わりそう?」
「おー、生田。ちょうどいいところに来たな。おっちゃんの結婚式が海外であんだよ。皆で行ける方法ないか?」
一人ラーメンをすすっていた香月が全員を見渡して首を傾げる。
「いや、行かねーぞ! 飛行機に乗りたくもねぇ」
「俺だってそうだ! 先生に手を握ってもらうくらいなら、どりちゃんに手をつないでもらいたい」
睨む香月に、生田はしばし考えこむ。
「そうだなぁ。ミュージックビデオを海外で撮る……のは、もうどれを撮るか決まってて、すぐ入っちゃうしな」
「あ、それだ。現地で作って、撮ったのを送るから、編集してボーナストラック」
我ながらいい考えだと、良光が満足げに頷く。その様子に、生田が青くなる。
「え、マジで?」
「メイク・機材・アレンジャーでどりちゃんも連れて行ける。生田もパスポートあるだろ? あとは、カメラマンだな」
必要なものとことを勘定しはじめた生田が、そのまま項垂れる。
「契約金で新婚旅行行くはずだったのに、あの忙しさで行けずじまいだったし……仕事なら、どりちゃんも俺も気兼ねなく子供を預けていける」
「行かねぇからな!」
「ってことで、楽器の輸送も頼む」
行きたくないとごねる香月を無視して、良光がさっさと決めてしまう。