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最後に一度でいいから話しがしたい。そう凌に言われたメリアは、一度だけ話しをすることを了承した。
「俺の何がダメだった?」
「そうじゃないの。もうあなたといると、ただただ苦しくて息ができなかったの」
「俺が嫌いだった?」
それほどまでに自分は苦しめてしまっていたのだろうか。凌は、不安を押し殺して訊ねる。
「違う。もう少し時間をかけてほしかったの。私は、あんなにすぐに同棲するつもりもなかったし、結婚まで時間をあけてほしかった」
「……俺、急ぎすぎてたんだね」
焦りすぎて、自分のことしか見えていなかった。凌は、そんなことも訊かずにいたのかと、改めて知れた気がした。
言葉に出してみれば、単純なことだった。自分でも納得したメリアに、冷静さがもどり、心にゆとりが生じる。
「凌ちゃんも、私も、考えがまだ甘い子供だったのよ。結婚を軽く見ていた」
「……そっか。俺になんかできることある?」
「私も幸せになるから、凌くんも幸せになって。離婚しても、貴方がこの子の親であることには変わりないから」
泣きながら顔を覆う凌に、メリアは深々と頭を下げた。
「ずっと、この子と貴方の活躍を応援していきます」
「うん……ほんと、ごめん」
「謝らないで……私も悪いんだから。それも嫌だった……私が悪くても謝るから、苦しかった」
「……俺たち、話し合って理解する時間が絶対的に足りてなかったんだな」
謝ればいいと思って、メリアの心情を理解しようともしていなかったのかもしれない。好きだからと言えば許されるつもりでいた。利己的な気持ちがあったから、話し合って互いに理解をしてから答えを出すこともせずに、自己完結してしまったのだろう。凌は、改めて自分の醜い感情に気づかされていた。
「最後に握手しよう。互いの健闘を祈って」
そう言いながら笑顔で手を差し出してきたメリアに、凌はそっと握手する。
久しぶりに見る笑顔だった。自分が急ぎすぎて、色々と振り回して、メリアを傷つけてしまったのだ。凌は、そのことと向き合って、ようやく自分の非と離婚を受け入れることができた。