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グループ内での話し合いの結果が出たことで、再度事務所側と話し合うことに。
「契約は解除になるが、それでも?」
「かまいません。ぼくの、デスク契約も解除していただいて結構です」
「待て! それで、今後どうするんだよ」
荒木にそう切り返す良光に、児玉が驚怖して立ち上がる。
「事務所を起こす。つきましては、後日弁護士を交えて、版権について話し合いさせてください」
こうと決めたら頑固でしつこいのが良光だ。それを知る児玉は、その表情を見て触発された。
「社長、ぼくも今月いっぱいで辞めます。タブラ・ロサについていって、かけてみようと思います」
「え、バカなんじゃねーの? いや、お前は養えないぞ」
まさかの却下。立ち上がった児玉は、テーブルに身を乗り出し、良光のネクタイを思いっきり引っ張って手繰り寄せる。
「雇えよ。雇うよな? 雇うんだよ! いいな! あぁん?」
無言でうなずく良光に、一転児玉が笑顔を見せる。
「よし、決まりだ」
児玉が、後で退職願を出すと社長に宣言をする。
六年ほどの在籍でたまった版権や権利の譲渡手続き。会社の設立。音源制作。今年や来年以後のスケジュール。やることは目白押しだ。良光は、毎日児玉を引きずりながら奔走した。
公演は全行程キャンセル、イベントも欠席が告知され、シングルも発売中止の発表がなされた。所属事務所のサイトには解雇を知らせる文言が踊り、ホームページ上からも情報が削除され、ファンクラブも閉鎖された。
その情報は、すぐに世間を駆け巡り、再起不能説がささやかるようになっていた。
そんな中でも、シングルづくりは相変わらずいつも通り。
「タイトル名、re-call?」
うなずく香月に、ネクタイを緩めた良光が楽譜を手に取る。
ベースラインは一任されている良光は、香月の意見を聞きながら曲作りを始めた。
「良光さん、電話」
作業をしていた良光は、みどりにスマートフォンを差し出されてヘッドフォンを外す。手渡された携帯を耳へと当てた。
「すぐに行きます」
こちらを見る香月に、電話を切った良光が軽く手を払う。
「めーちゃん、先月家を出ていたらしい……今日、めーちゃんの会社まで押しかけて、今揉めてるらしいから行ってくる」
同僚だと名乗る西崎から連絡を受けた良光は、荷物を手に取った。