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新年明けて、年末年始の気忙しさに記事が掻き消えてくれと願ったものの、そうはならず。昨年、世間を騒がしたニュースとしてネットで根深く記事にされ、進退窮まる。
みどりと良光の住むマンションに集まったメンバーは、さてどうしたものかと顔を見合った。
「凌はどうしたい」
「まずは、今回の騒動……すまなかった。申し訳ない」
未成年だったころ、凌も香月も飲酒喫煙を窘められても、それを軽く流してきた。周りに迷惑なんかかけるわけない、とうそぶいてもいた。だが、周りにいる大勢の大人が連日連夜対応する姿に初めてことの重大さに気づき、その言葉の真意を目の当たりにした。
「俺も悪かったと思ってる」
珍しく正座して謝る香月に、良光はこんな時だが笑ってしまう。
「うん、わかった。で、どうしたい」
「音楽続けたい。許されるなら」
不安そうな顔をする香月に、良光はその隣にいる凌にも同じことを訊ねた。
「皆と一緒にやるの楽しい」
呟くような心情吐露を聞いた良光が、大きくうなずく。
「じゃぁ、他の皆は? 俺は、みどりさえ許してくれれば、個人事務所のような会社を興す」
「わー、楽しそうね! 私は、受付嬢やりたい」
「どりちゃんは、可愛いから、うってつけだね」
「えー、そうかなぁ」
こんな時でも二人の世界に行ってしまう気か。呆れた井戸が、咳ばらいをする。
「ぼくは、イネちゃんが仕事なくなったら専業主夫でもいいよって! 結婚して養うくらいの覚悟はあるって、言ってくれたから結婚しようかなぁ」
特に何も考えていなさそうな越智の発言に、良光は別の意味で頭が痛くなる。
「呑気だな……センセイは?」
「昨年久しぶりに同窓会行けたって言ったでしょう」
ここ数年忙しくて行けていなかった井戸は、去年初めて同窓会に参加したのだ。
「そこで、教育番組を主に制作している会社に転職していた教職課程の時の友人に会ったんだ」
「女の子だ」
頷いてしまった井戸は、からかうような視線を向けてくる凌の耳を思いっきり引っ張った。
「その人から、音楽的アプローチで手伝ってくれないかって言われていて、手伝えるかもしれない」
メンバーの顔を見渡した良光が、決心して柏手を打つ。
「アグラフを離れ独立する! 個人事務所を起こして、楽曲制作を始めるぞ」
「大丈夫なの?」
不安しかない船出に、乗っかっても沈まないかと井戸も慎重になる。
「計算上、レコード会社から契約を解除されても、公演動員数と売上枚数が保てれば……他に仕事見つければ、なんとかなる。それでいいね? これだけ知名度もあれば、曲を作り続ければ道は開けるはずだ」
良光の宣言に、解散はしないことになった。受け入れてくれた人たちに、迷惑をかけてしまった凌と香月がそろって頭を下げて詫びた。