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 年内予定されていたツアーも無事に全てが終わった。来年以後の、アルバムとシングルに向けての話し合いが行われていた。

 意見を出しながら、他愛もないおしゃべりをしつつ、お菓子をつまむ。呑気に会話していた六人は、慌てた様子でスタジオに飛び込んできた児玉を見やった。

「週刊誌にすっぱ抜かれた」

「誰が?」

 児玉が叩きつけた週刊誌を手に取る良光。中を開いて、失笑した。

――タブラ・ロサの美人ボーカル神代凌と妻子ある男性俳優長津亮とのW不倫疑惑発覚

 事前通告もなしの悪趣味な記事が勝手に掲載されてしまっていた。児玉は髪の毛をかき乱しながら、足を踏み鳴らす。

 酩酊状態で意識のない凌を、長津という俳優が抱え上げて運んでいる写真は、明らかに盗撮をうかがわせる白黒の低画質。

 記事に目を通した凌は、児玉を睨みながら雑誌を力づくで破り捨てた。

「上等じゃねぇか。ぶん殴ってやる。たかが悪ふざけを記事にしやがって」

「凌さんが、浮気しているってタレコミを受けて張り込んでいた記者が撮ったとか言うんですけど?」

「テメェもぶん殴るか!」

 凌を羽交い絞めにした良光と井戸は、体重をかけて抑え込み宥めにかかった。

「はいはい、落ち着こう」

「離せよ! クソ良光! んで、新婚で浮気すんだよ! ふざっけんな!」

「ですよね。はい……流石に悪趣味すぎるんで……長津さんの事務所と対応協議してきます」

 椅子を蹴り飛ばす凌の足を抑え込む越智を見て、児玉は慌てて対応に走った。

 長津は、若い世代の俳優やタレント、ミュージシャンが集まる飲み会に参加していた一人だ。そこに、村木という俳優も参加していた。

 村木は元子役だったこともあって、幼い頃テレビに出ていた井戸とも知り合いで、テレビ局でよく遊んだ幼馴染という関係にあった。久しぶりにテレビ局でばったり再会したことをきっかけに飲むようになって、井戸と同じバンドのメンバーでもある香月とも飲み友達になっていた。その縁がきっかけで、若手同業者による飲み会に参加するようになって、誘われた凌も度々同席するように。

 その飲み会では、最近ある悪ふざけが流行っていた。酔っぱらって寝落ちした人をラブホテルに運び込み、枕元に可愛い丸文字の置手紙を置く。当然、目が覚めれば、慌てふためいてしまう。それを隠しカメラで撮って、皆で笑うのだ。何回かそんなことをすれば、ドッキリとわかってしまうが、それでも白を切ってすっとぼけることまでしていた。

 周章狼狽する姿を見て笑う悪趣味なものではあるが、あくまで仲間内で行われた若気の至り。

 長津やそのほかの出席者にとり、まさか凌を抱えてホテルに入っていく姿を撮られて、不倫報道にまでなるとは予想だにしないことだった。

 双方にとって、あまりよくない記事だ。事務所同士での話合いが行われ、対応と方針を大まかに相互で確認する。長津の方が取材を受け、浮気の否定するのではなく、悪ふざけをしたことへの謝罪で済ますこととなった。

 とりあえず適当に頭下げて謝ればいい。そう言われて会社の前に引っ張り出された長津は、取材陣の多さに驚かされた。

「あの記事は、本当ですか?」

「あ、その前に当社所属の俳優である長津より謝罪をしたく思います。長津」

「この度は、仲間同士の悪ふざけとはいえ、軽率な行動をとり、彼の奥様にご心痛を与えたことをお詫び申し上げます。不快な気持ちにさせてしまって申し訳ありませんでした」

「あの記事の事実は」

 マネージャーに言われて、馬鹿々々しいと思いながらも渋々謝ったのに。記者たちの下卑た顔に、長津は不快感をあらわにする。

「相手男だろ! 悪ふざけ以外の何があんだよ」

 男同士の不倫報道など、どの会社も対応したことがなかった。騒動の納め方が知るはずもない。

 とにかく悪ふざけで押し通す。良光は、その対応協議のためにODE社の会議室で何度も話し合いを重ねていた。

「くっそ、やられた! 第二砲だ!」

 机に拳を振り下ろした生田に、良光は何事かと腰を浮かせる。

――タブラ・ロサの神代凌と香月蒼海に未成年時の飲酒喫煙疑惑浮上

 ネットニュースを見せられた良光は、こちらを鋭く睨む生田と視線を交錯させる。

「証拠もないんだ。無視できないか」

 短く「ん」と呟きパソコンを差し出す生田に、良光は画面を覗き込んだ。

 そこには、青々とした里山とその合間にどこまで田畑が続く光景が映っていた。


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