12
家にも高校にもだいぶ慣れた様子だった。この状況で帰せとは、流石に彩香も言えなくなる。
だが、子供を一人引き取るのだ。生半可な気持ちで引き受けるわけにはいかない。
何も事情を把握せずに、息子が引き取ってきてしまったのも気にかかっていた。
「凌くん、凌くんを預かってもいいって言うお家、他になかったの?」
「……出てけってことですか? ああ、別にいいですけど……」
やはり、ここでも邪魔もの扱いか。凌は諦めて、次を探そうと気持ちを切り替えていた。
「違うのよ。うちのバカ息子が、無理やり引きずってきたんじゃないかと思って。もっと、近しい人が引き取るとは言ってなかったのかなって……あの子、暴走すると周りが見えなくなっちゃうから」
「俺みたいな生まれてこなかった方がいい人間なんか、誰にも必要とされないから」
これ以上は訊いても、無駄だろう。彩香は、無言で凌のお椀に白米をよそってやった。
義母に連絡を入れ、常長という人が凌の後見人であることを教えてもらっていた。早速、メモをした電話番号に連絡を入れる。
「もしもし、東京の神代茂利の妻の彩香です。神代常長さんのお宅でいらっしゃいますか?」
電話向こうから聞こえてくる不機嫌そうな顔に、彩香は受話器をムッとしながら見つめた。
「今、うちで預かっている凌くんのことなんですけど……は?」
相手が何を言っているのかと、理解しかねた彩香は再度の説明を願った。
「はい? 凌くん、まだ十六歳なんですよ? もういい大人なんだから、自分で決める? なんですか、それ。無責任にもほどがありますよね?」
電話を切ろうとする常長に、彩香はキレてしまいそうな自分を抑え込む。
「関わりあいたくない? 子供一人で放り出して、どうしてそう無責任なんですか! あなた、後見人でしょ? いい年こいた大人が恥ずかしくないんですか!」
言いたいことを言おうにも、怒りで口が回らない。気づいたら、電話は切られていた。彩香は、凌が何故あんな自虐的なことを言ったのかわかった気がした。
怒鳴ったら、トイレに行きたくなってしまった。リビングのドアを開けた彩香は、廊下にいた凌に、おしっこをちびりそうになる。
「う、うわ……びっくりした。あれ、お帰り。アルバイト、もう終わったの?」
「……え、あ、はい」
ぼんやりした表情の凌がリビングへフラフラと向かう。その様子が、彩香を不安にさせた。