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シングルの制作を待って、三月の暖かい日に結婚式が執り行われた。メリアの体調も考慮して、小ぢんまりとした式を教会で挙げ、披露宴ではなく食事会をすることになった。
メリアの方は同僚や友人、親族が集まって、凌の方は良光の親族とメンバーが参加した。
白いウェディングドレスを着たメリアは、憂鬱だった。スーツだというのに、自分よりも華やかな見た目をした夫に、結婚を早まった気さえしてくる。
「徳ちゃん、すごい彼氏捕まえたね!」
「……うん」
「かっこいい彼氏でうらやましい」
「……うん」
会が始まってからというもの、祝福よりも先に捕まえた相手のすごさを褒められてばかり。メリアは段々と、夫婦としてやっていく自信を失いつつあった。
「あら、めーちゃん、可愛いわね」
「あ! おばさん! ね! でしょ!」
式が始まってから、誰かに自慢したくてうずうずしていた。結婚式は花嫁が主役なようなもの。なのに、みんなして何も言ってくれないため、不満だった。ようやくメリアをほめてくれた人に、凌は嬉しくて嬉しくて満面の笑みを浮かべた。
「やめてよ。それ。私は可愛くなんかないんだから」
「なんで? めーちゃんは可愛いのに」
お願いだから、やめてくれ――そう言えないメリアは、口を閉ざす。朝からこうなのだ。凌を褒める人に、本人がメリアの方が可愛いと言ってしまう。相手が醸し出す微妙な空気を察すれば、顔も上げられなかった。
「嫌がることはやめろっての」
「どうして。めーちゃんが、可愛いって自慢して何が悪いんだよ」
泣きそうな顔をしているメリアに、良光は凌の頬っぺたを引っ張る。
「そこが論点じゃない。嫌がることはすんな。嫁が言うことは素直に従え。あとで、痛い目に――」
ベルトを後ろからつかまれた良光は、目が笑っていないみどりにとりあえず微笑みかけた。
「何か言ったかな?」
「い、いえ? みどりは、素晴らしい奥さんだって言う話をね……ごめんなさい」
何も言わず謝った良光に、凌は力関係を見た。
「ああやって、幸せな夫婦になろうね」
そう言われたが、メリアはもう頷けなかった。
事務所のHP上に結婚の報告が掲載された後、すぐにネット上では凌の結婚相手の特定合戦が始まった。
四つ年上の、一般女性。交際歴は一年半、同居期間は一年。初夏には第一子が誕生。
事細かに載った週刊誌の情報によって、ファンの間でも意見が二分した。
――結婚したがっていた若い子を騙くらかして、既成事実をたてに迫ったやばい女
罵詈雑言の嵐を見てしまったメリアは、そうなるよなと諦めながらも傷ついていた。
モデルでもなく、女優でもなく、いたってごく普通の女性と結婚したことで、好意的に見てくれる人もいた。その反応を見て、児玉と生田はシングルの売り上げも問題ないため大丈夫そうだと安堵する。