表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/173

11

 東京に来てから初めての都会の繁華街。井戸と待ち合わせて、ライブハウスに行くことになったものの、凌は緊張していた。

 人混みを通り抜ける間、人が自然と避けていく。ぶつかって舌打ちされることがあった井戸は、横にいる高校生を見上げてしまう。

「先生、俺、ライブハウス初めてで……絡まれたするんかな」

「いや、君は絶対ない」

 はじめて年齢確認をされなかった井戸は、横にいる凌を見てしまう。店員は自分を見た後、明らかに迷っていた。だが、凌を見て納得したようにうなずいたのだ。

「良光、いつもここでライブしてんだって」

「あぁ、そうなんだ? 結構演奏うまいんだな。驚いた」

「うまいの?」

 うまいと頷く井戸に、凌はその演奏にじっと耳を傾けた。

 ライブが終わった後、良光は酒に飲まれるような荒い飲み方をしていた。それに付き合っていた凌が、帰っていくメンバーを指さした。

「あの人たち、帰るけどいいのか?」

「ああ、これ解散ライブになっちまったからねぇ。二十五だから、遊んでらんねぇんだと!」

 勝手に辞めてくれればいいものを。良光は、ついさっきまでバンド仲間だった人たちから説諭を受けたのだ。もう、酒を飲みながら笑うしかない。

「もうすぐ二十八だから、現実を見ろ? うるせーな! 知るかよ! んなこと! 音楽不況くそっくらえ! 上等じゃねぇか! この野郎!」

 散々毒づくだけ毒づいて、良光はそのまま寝てしまう。

 仕方なく背中に負ぶった凌は、荷物を井戸に持ってもらっていた。

「大丈夫?」

「駅まで、おばさんが迎えに来てくれるって」

 物理的には、持ちあがるから何ら問題はない。ただ、大の男を背負って電車に乗るのだ。凌は、心に結構なダメージを食らっていた。

 乗換える駅で、ベンチに降ろして肩を揺すったものの、起きず。結局、最寄り駅まで背負うことになってしまった。

 疲れた様子で、駅の階段を降りていく凌に、井戸は改札まで付き合うことにした。

「ごめんねぇ、凌くん。このバカ息子! 起きなさい!」

 高校生の背中で酔いつぶれて眠るアラサーの息子に、彩香は心底呆れた。

「起きないんですよ、それが……先生に荷物持ってもらったので、お願いします」

「ああ、先生……ご迷惑をおかけしました」

 良光と凌の交通系電子マネーをタッチしてくれている井戸に、彩香は深々と頭を下げる。

 固い床に後頭部をぶつけた衝撃で目が覚める。良光は、ここがどこだろうかと目を擦った。

「起きましたか? まったく、子供に背負われて帰ってくるとか、情けなくて涙が出るわよ! 本当に情けない!」

 玄関の叩きに正座させられた良光は、説教する母親に神妙な面持ちで謝り倒した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ