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 引っ越し日を決めるため、買ったばかりのスマートフォンでやり取りする。凌は、真っ暗になった画面をぺしぺし叩く。

「電源がつかなくなった」

 捕まった香月は、サイドにあるボタンを押してやる。

「消えてない。ここを押せ……落とした時のために、指紋認証をかけておいた方がいい」

「どうやって」

 画面が勝手に横になる。消える。画面がどっかにいった。カメラが起動した。入力が変になった。

 大騒ぎしながらスマートフォンを扱っている凌に、都度都度捕まる羽目になった四人は本当に現代人かと疑う。

「いつ引っ越し?」

「明日……あー! センセのバカ! 話しかけるから、途中で送信しちゃった」

「続き打てばいいよ。それ、テキストチャットだから」

 もうすでに聞いていない凌に、井戸はその指先を見ながら慣れるかどうか半信半疑。

 大きい方の部屋を主寝室にし、徳山の荷物を運びこむことになった。五帖ほどの広さの部屋には、凌の私物と仕事に使うものが運び込まれる。同じ日を選んで越してきた徳山と一緒に、物を広げ、それぞれが持ち寄った荷物の居場所を決めていく。

「おそばあるから、引っ越しそばにするか」

 長くなった髪の毛を束ねた凌が、夕飯にそばを作り始めた。徳山はその綺麗な横顔を、思わず目で追いかけてしまう。

「ねー? どうして、いつもあんなに化粧しちゃうの?」

 派手なアイメイクや、けばけばしいメイクを施していることの多い凌に、徳山は何故だろうといつも疑問だった。

ド ンブリをテーブルに置いた凌は、割り箸を手渡すと椅子を引く。少し悩んだ後、こうして一緒に暮らすなら言うべきかと、腹をくくって水を飲み干した。

「俺、母親の顔を知らないんだ。でも、なんか似てるって言われるんだよね」

 この顔に似ていれば、相当にきれいなんだろう。見てみたいと思った徳山は、凌から親の話を聞いたことがないことに気づいた。

「だから、化粧していれば母親が見つかるんじゃないかって思って……俺、家庭環境複雑なんだよね。聞いたら嫌いになるかもしれない」

「聞かせて?」

 父が十四歳で父親になったこと。自分が生まれた理由。父方の祖父母が養父母であること。すべてのことを偽りなく、詳らかに語って聞かせた。

 想像を絶する過去を知って、徳山も混乱する。だが、不安そうな顔をして見つめてくる凌を前にしてしまえば、何も言えない。ただ、安心させるように大丈夫よと励ます他ない。

「だから、早く家族が欲しいんだ。二十三年、ずっと一人ぼっちだったから」

「私も二十七だから」

「四つ年上なんだっけ? そんな感じしなかった」

「そう? これからよろしくお願いします」

 蕎麦をすすりながら凌は、その言葉に笑みを浮かべた。



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