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自宅マンションには戻らず、そのまま良光の実家へと向かった。家へ上がると、念のため二階に隔離することにして、ドアを閉める。もうすぐ帰ってくるだろう彩香を驚かせぬようメールすると、外に出た。
家に戻ってみれば、先に帰宅していた彩香が猫に水を上げてくれているところだった。
「すみません、おばさん。なるべく様子を見に来て、早く引き取りに来るので……お願いできますか?」
「任せて」
まだまだ手のかかる子猫だ。ひとりぼっちにはして置けない。彩香から仕事の時間を聞いた凌は、自分の仕事とすり合わせて、空いた時間の対策を練る。
幸い、すぐにも徳山の休みが取れて、一緒に家を見に行けることに。
「めーちゃんは、どんなお家がいい? 猫が一緒に暮らせる家は前提条件だけど」
「あの……冷静になって考えてみたけど、部屋借りるのは……」
「嫌? 俺がめーちゃんの部屋に住む? うちは規約でダメだけど、そっちはどう?」
首を横に振る徳山に、凌は不動産屋さんが待っている様子を一瞥する。
「ほら、じゃぁ借りなきゃ。どんな部屋にしようか」
知り合いが紹介してくれた不動産屋さんをいくつか回ってみるつもりだった。
凌の希望は対面式キッチンがあって、ベランダが広くて、楽器が弾ける部屋があること。徳山の希望は、収納が多くて、スーパーが近いことだった。
両者の希望に加えて、不動産屋さんの助言もあって、管理人在中でセキュリティがしっかりした物件を探すことになった。
「お車はお持ちですか?」
「最近買ったばかりで」
「じゃぁ、駐車場も必要ですね」
不動産屋を三つほど周り、部屋をいくつか内見した凌は、後ろをついてくる徳山を振り返った。
「ここ角部屋でいいね」
「……うん」
「他も見る? どうしようか」
首を横に振った徳山は、今までもらった物件の資料を見比べ、部屋を見渡す。
「……動物病院近いから、ここにしたらどうかな」
「あぁ、そうだね」
「ネットで見たけど、評判もいいみたい」
スマートフォンを見せてもらった凌は、その画面を指で押す。
「今度、家具見に行くときに、スマホも買う」
角部屋の物件に決めた凌は、不動産屋さんに借りますと伝える。これから、ここで暮らしていくことになるのだ。気分が弾んだ。