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 いつになく上機嫌な凌は、とにかく楽しそうだった。

「またどこかで、お会いしましょう! 気を付けて帰れよ!」

 手を大きく振ってバタバタとステージから降りてきた凌は、着替えの間も鼻歌交じり。

「良光。おばさん、ここ数日暇かな?」

「おふくろに聞いてみるけど」

「ね、スマートフォンってどんな機種があるの?」

 散々何度もプレゼンしたところでなしの礫だった凌の言葉に、良光は危うく電話を落としかけるところだった。

「どうしていきなり」

「めーちゃんと一緒に暮らすことになった!」

「何がどうして、そうなった?」

 何回かデートに行く際のアドバイスをしていた越智は、かなりの飛躍についていけない。

「そこで猫拾ったんだ。で、めーちゃんと一緒に育てるために暮らすことにしたの。その間、おばさんに預かってほしくて」

 楽しそうな凌に、良光はこめかみを抑えてため息をついた。

「いい大人がすることだから、反対はしないけども、焦りすぎるな」

「わかってる」

「ちゃんと徳ちゃんの気持ちに寄り添ってやるんだぞ」

 まったく話を聞いている様子もないのに、凌がわかっているを乱発している。これから大丈夫だろうかと、良光はただただ心配と不安。


 翌日、凌は子猫を引き取って帰るため動物病院へと向かった。残念ながら、解体と撤収作業がある徳山は来られなかったが。

 グッズのタオルで猫をやさしく包み、丁寧に抱え上げる。慎重に、固紙でできた箱の中に寝かせた。

「帰る途中、何か困ったことがあれば、連絡して」

「わかりました。よし、スイ、帰ろう」

「駐在さんに声をかけて行ってあげて、ここの通りをまっすぐ行って、車なら二分のところに駐在所があるから」

 村田にそう言われて凌がうなずく。世話になったお礼を言うと、猫を助手席に乗せた。少し迷ってシートベルト箱にかけてやると、車を発進させた。

 すぐだという情報がなければ、通り過ぎそうなほど近かった駐在所を訪れた凌は、机の上で眠る子猫を覗き込んだ。

「あ、リョウさん。どうも」

「これから、帰るので。スイちゃんも、一緒に。ねー、スイちゃん」

「そうですか。よかったなぁ、スイちゃん。優しそうなお兄さんに貰われて」

「スイちゃん、兄弟にバイバイしなくていいのか」

 真の猫好きであることがわかるオクターブが上がった優しい声と話し方。これなら大丈夫だろうと。警察官は子猫の頭を撫でて、別れを惜しむように手を振った。


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