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翌日、全体リハを終えた凌は、早めに切り上げると、徳山を伴って動物病院を訪ねた。
「村田先生、どうも」
「あら、ちゃんと来た。綺麗にしたら、結構なイケメンくんだったわよ」
「そうですか。あ、おいでスイ」
小さい手足を必死に動かして子猫が腕をよじ上ってくる。優しく抱え上げた凌は、徳山に子猫の顔を見せていた。
「こっちには旅行?」
「仕事です。今度あそこにある施設で公演をやるんですよ。車で来ているので、連れて帰れるとは思うんですけどね」
扱いに慣れた手つきは、獣医から見ても安心できるもので、村田はよかったと安堵した。
「あ、お兄ちゃんだ! ママが、猫飼って行っていいって言ったの!」
昨日猫を拾った少女が母親を連れてきたようだった。その後ろには、昨日の警察官もいた。
「うちも、嫁がいいって。署の方にも確認したら、探している人もいないようなので駐在所で育てます」
「どっちがどっちを引き取るんですか?」
「女の子がいい」
キジトラの猫を抱え上げた凌は、膝をつくと少女の腕に預けた。
「ゆな、名前どうする?」
「お兄ちゃんの名前にする」
「女の子だから、ローズちゃんはどうかな? お兄ちゃん、タブラ・ロサってバンドやってるんだけど、ローズは薔薇っていう意味なんだ」
可愛いと喜んでくれる少女に、凌はキジトラの頭を撫でた。
「この子は男の子だから、君から名前もらっていい? 君たち二人が助けてくれた命だし。名前なんて言うの?」
「リョウですけど」
「じゃぁ、この子も恩人にあやかって、リョウくんだ」
猫に自分の名前がついている。そのことに少し奇妙な違和感を覚えながらも、凌は了承した。
「明日は、朝からライブで来られないですけど……明後日には迎えに来られるので……いい子にしてろよ、スイ」
ミーミーなく子猫に、凌は顔がにやけて仕方なかった。