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半ば強引に部活への加入が決まってしまった。今まで、凌は部活をごっこ遊びをするような輩の馴れ合いの場所だと忌避してきた。そんなところに放り込まれて、身の置き場があるわけもなく。
それでも、根気よく楽器を教えてくれる井戸との距離は近づきつつあった。
いくら終業後とはいえ、生徒の家へ個人的に招かれるなど望ましい状況とはいえない。しかも、生徒は煙草片手に酒を飲んでいるのだ。井戸は、缶ビール片手に、深みへはまっている気がして憂鬱にもなる。
「凌、今楽器何やってんだ?」
「人手がないところを埋めているから、まだ決まってない」
嘘は言ってない。だが、凌は後ろめたくて視線を泳がせた。井戸が、仲立ちしてくれて練習することはあれど、誰もグループに入れてくれないのだ。
「今度、暇な時にライブ見に来るか?」
「酒飲めるなら、どこでも」
頷く良光に、凌は行くことを承諾した。
「その代わり、おふくろも楽しみにしているから、凌が友達とバンド組んでなんかライブする時は言えよ」
「……わかってる」
背中を押してくれた人たちのためにも、高校生活に順応する気はあった。だが、相変わらず遠巻きにされるばかり。凌は、何がいけないかとやさぐれた。
「センセ、俺何かしたのかな」
顔が怖いんじゃないかと笑いながらからかってくる井戸の足を踏む。凌は顔を抑えて、怖いのかと項垂れた。
「夏休み、部活で合宿あるよ。君も行く?」
「行かない」
「担任の須永先生が、修学旅行の積み立ては? って」
「行かない。金がもったいねぇ。んなことより、明日、身分証忘れんなよ。センセ、お酒飲めなくなるぞ」
余計なことを言う凌に、井戸は無言で足を踏み返した。
「体罰だ、体罰!」
「君の足が思ったよりも大きくて、踏んじゃった。ごめんねぇ」
心が一切こもっていない井戸の謝罪に、凌は肘で押した。