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そこは、その昔、藩窯として栄えた集落だった。
周りを山々に囲まれ、山水画のように美しい風景の広がる風光明媚な場所だ。そこかしこに、はめ込まれた陶板のレリーフが昔を今に伝えている。
田畑の広がるのどかな村を見渡せる橋――これにも陶板が埋め込まれている。その橋にもたれかかった男・神代良光は、スマートフォンを取り出し、とりあえずはしゃいだ観光写真を撮ってみる。
途端むなしくなって、川面をのぞき込む。自分が、ここに来た経緯を思い出して、げんなりした
――おじいちゃんの弟の孫が亡くなった
そんな訃報がもたらされたのは昨日の夜。
本来ならば、良光の父方の祖母である紀代子が行ってしかるべきだろう。
ただ、場所が遠すぎた。
東京から新幹線で五時間。そこからさらに在来線に乗り換えて二時間だ。家から東京駅まで一時間かかったことを考えれば、八時間も電車に揺られていたことになる。
だが、それでもホテルにようやく着いたに過ぎない。そこから、まだタクシーで二十分はかかるという。
当然、今年で七十代後半の祖母が行けるわけもなく。かといって、良光の父親である茂利も仕事で行けないようだった。
母親の彩香は、現在夫と関係がこじれている最中である。それもあって、夫の親族の法事のためにそこまでする気もなく。
そこで目をつけられたのが、コンビニでアルバイトをしている良光だった。
――あんた、アルバイトどうにかできるでしょ
できる訳がない。会ったこともない親戚の法事に行く気もない良光は、にべなく返事をし、無視した。
だがしかし、紀代子はしつこかった。
長男筋の家から一人も出さないのはどうか。あまり知り合いもおらず、法事に人が集まらないかもしれない。
あまりの剣幕と圧に、彩香は心底うんざりして、屈した。
頼むから行ってくれと、母親からの説得を受けた良光は、半ば強引に送り出されることに。仕方なしに、新幹線のデッキから欠勤の連絡を入れ、交代してくれる人を探す羽目に陥った。