受付嬢のソニアさん
「ん〜!美味い!まともな飯にありつけたのも久々だし、あのおっちゃんには感謝だな!あ、ごめんけど、これおかわり!」
「は、はあ…」
ギルド《クリスタルブリーズ》の受付嬢、ソニアは呆れていた。
つい先ほどやってきた見慣れない格好の客がご飯を食べている、この状況に。
冒険者御用達であるギルドには一般の客が使ってはいけない、なんてルールはない。
冒険者に限らず、仕事の話だったりただ飲み食いするだけの利用だって別段珍しいことではない。
ただ、食べる量が常人のそれではないのだ。
「(10人前、いや20人前は軽くいってる…!?一体どれだけ食べるのこの人!?)」
このギルドは比較的人が少ない。
受付嬢であるソニアが給仕係を兼業するし、人が混み合ってきたときはギルドに所属している冒険者がボランティアで手伝うくらいには人がいない。
今回来た客は食べる量はもとより食べ進める速度も常人のそれではなかったため、近くにいた冒険者が総出で手伝いに来るくらいである。
冒険者とはいったい…
そんなことを思いながら数十分後くらいにようやく食べ終わろうとしていた。
「ふぅ〜!ごっそさん!美味かった〜!」
「そ、それは何よりです…」
ソニアは疲れ果てていた。
この客は結局30人前分の料理を平らげていた。
手伝いに来ていた冒険者や厨房の人間は目が死んでいて、達成感などあろうはずもなかった。
「なんか忙しくさせちゃったみたいですまん。こんなに美味い飯食ったのは久しぶりでね」
「そ、そうなんですか。それよりも、あなたはいったい…?」
疑問に思うのは無理はなかった。
この人は見たこともない水色の上着と紺色の履物(羽織袴と本人談)に加えて肩にかかるほど長い黒髪を後ろでまとめており、腰にはこれまた見たこともない武器?をぶら下げている。
屈託のない笑顔には不釣り合いな異質な雰囲気を持ち合わせているその男には聞かずにはいられなかった。
「俺かい?俺はヤマト。一応旅人さ」
「旅人?冒険者ではないんですか?」
「ちょっと訳ありでね〜。それよりあんたは?俺だけ聞かれるのは不公平だ」
「私ですか?私はソニアと申します。ギルド《クリスタルブリーズ》で受付嬢をしています」
「受付嬢ね。なんか情報とか取り扱ってたりする?」
「情報ですか?ものにもよりますが、少しは…」
「それじゃ、この人見たことある?」
ヤマトはそういって一枚の紙を見せる。
そこに描かれているのは女性の絵だ。
ただの人相書きにしてはとても綺麗な絵である。
「…いえ、たまにギルド本部で情報を見に行ったりはするのですが、見たことはないですね…」
「やっぱりかぁ…。この街にもいないとなると、また長い距離歩かなきゃいけないのか…。萎えるなぁ…」
ヤマトは紙をしまう。
人探しは珍しいことではない。
だが特定の一人を探すとなるとよほど有名人ではない限りは探すのは楽ではない。
それこそこの街のみならず、様々な街を巡り歩くことにもなる。
「その紙の人、素敵な人ですね。大事な人なんですか?」
「んー、大事というか、恩人というか、まあそんな感じの人さ」
そういって笑うヤマト。
だがソニアは気付いてしまう。
一瞬、ほんの一瞬だけ寂しそうな顔を見せたことに。
それもそうだ、詳しいことは知らないけど恩人だというのだ。
その人に会えないというのはとても辛いはずだ。
「あの、ヤマトさん?提案があるのですが…」
「ん、提案?」
「はい、ヤマトさんさえ良ければなんですけど、冒険者になりませんか?」
気づけばそんな言葉をヤマトに投げかけていたソニアであった。