クリスタルブリーズにて
この世界には武器と魔法がある。
人はそれを使い、国家を作り上げた。
人が協力し、知恵を振り絞り、一つ、また一つと国を築き上げ、繁栄していった。
人はそれを使い、力を示して見せた。
国を築き上げた人がさらなる欲に溺れ、戦争の道具として使い、混乱を招いた。
人はそれを使い、魔物を退治した。
戦争中に見たことのない生物と対峙し、未来のために争いを中断して手をとった。
人は数多くの失敗を経験し、より良い未来を作るために動いた。
争いがなくなったわけではないにしろ、生き抜くためには無駄なことはしていられなかった。
紆余曲折あありながらも人はそこから繁栄し、今の世界に至る。
だが今でも魔物は出るし争いだって絶えない。
魔物の被害を抑えるためにもギルドを創設し、冒険者に向かわせることである程度は解決できた。
だが今度は冒険者達の中でも争いが起きるではないか。
流石にこれでは、と思ったとある人は、こう提案した。
『冒険者の中でも権力者をたて、争いの起こらないよう仕切ってもらおう』
その提案をもとに、一つの組織ができた。
元々ある火・水・土・雷・風の5属性の他、どのカテゴリにも属さない無属性の魔法の頂点に立つものに与えられる称号を持つ者達の集まり。
冒険者の中で最高権力を持つ者たち。
それが《六流星》である。
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「…はい、今日のお話はここまで!」
「ええー、もう終わりー?」
「ソニアお姉ちゃん、もっとお話聞きたいよー」
「うーん、話してあげたいけど、お仕事もあるし、また今度ね?」
「ちぇー」
ここはギルド《クリスタルブリーズ》。
ここの冒険者兼受付嬢であるソニアは、仕事の片手間で子供達にこの世界について話している。
仕事といっても、最近は受付嬢よりも給餌係をしていることの方が多いのだが。
「お姉ちゃん、今日はありがと!」
「ソニアお姉ちゃん!俺大きくなったら冒険者になるよ!」
「私も冒険者になってここのギルドに入る!」
「わかった。その日がくるのを楽しみにしてるね?」
「おーいソニアちゃん!こっちに酒頼むよ!」
「はーい!今持っていきますねー!」
この街には冒険者が多い。
魔物と戦うのだから危険と隣り合わせなのはわかってはいるものの、冒険者になりたいという人は後を絶たない。
受付嬢をやっていると、依頼を受けた人が帰ってこないなんてこともザラにある。
勧めたいわけではないものの親が冒険者って子もいるし、冒険者に助けられて憧れたっていう子もいるから、やめておいたほうがいいなんて無責任なことは言えない。
頑張ってとは言うけれど、心の中は複雑なのだ。
「っと、こんなこと考えても仕方ないか。仕事仕事!」
私が属しているギルド、クリスタルブリーズはお世辞にも大きいギルドとは言えない。
今は亡き父が立ち上げたギルドで、今属している冒険者は父がギルドマスターを務めていた時代からの古株である。
みんなが頑張ってくれているからなんとか経営しているけれど、一人であれもこれもしていると身がもたない。
とはいえ、新たに人を雇うことができるほどお金もないし、新人冒険者もここ数年は入ってこない。
正直なところ、かなり厳しいし、なんとかならないか…ってお客さん?が来ちゃった。
「いらっしゃいま…せ…」
「ここはご飯が美味しいって聞いたんだけど、席は空いてる?」
「え、あ、空いてますよ!どうぞ!」
突然の来客であろうと普段通り接客をするつもりだった。
だけどその人の格好に一瞬驚きを隠せなかった。
冒険者のような格好でもなければ商人の格好でもないし、雰囲気的にも国のお偉いさんなんてこともなかった。
この街に何度か訪れる演劇集団のような、不思議な格好の男性が、そこにいた。