冒険者の街、グラスフィーネ
「いらっしゃいいらっしゃい!いいもん揃ってるよ!」
「うちの武器屋はいかがー!サービスしちゃうよー!」
「薬〜薬はいらんかね〜」
「うっわすっげえ人いる…なんだここ…」
ここは《グラスフィーネ》といったか。
噂には聞いていたけど、人がこんなにもいるなんて思っても見なかった。
ギルドもいっぱいあるっていうし、目的が達成できるのも時間の問題か…?
「なあなあおっちゃん…」
「おうなんだ若いの!クエスト帰りか!冒険者ならうちの店贔屓にしてくんな!」
圧がすごい圧が。
ただ声をかけただけなのにこの勢いに負けてしまいそうだ。
「まあいずれは贔屓にするかもだけど…それよりおっちゃん。俺この人探してるんだけど、見たことない?」
紙を一枚取り出し、おっちゃんに見せる。
今見せたのはまあ、いわゆる人相書というものだ。
そこに描かれているのはとある女性の絵だ。
「ああ?いや、見たことねえな…」
「そっか…いや、それならいいんだ」
「これ坊主が書いたのか?えらいべっぴんさんじゃねえか」
「べっぴんて…まあ、綺麗な人ではあるよ」
おっちゃんの問いかけに応えながら紙をしまう。
まあいきなり解決する問題でもなかったし、焦らずいこう。
「なんだ坊主、もしかして坊主のこれか?」
おっちゃんはそういって小指を立てる。
意外と俗っぽいなこのおっちゃん…
「別にそんなんじゃないけど、まあ大切な人ではあるよ。恩人とも言える」
「そうか。まあこの街は広いし、誰かしら知ってる奴はいるだろうよ」
「だな。そう言ってくれると気が楽になる」
といってもこの街は中々、というよりはかなり広い。
虱潰しに聞いたところで成果は得られるかわかんないし、正直時間をかけるだけ無駄だろう。
ここもハズレかな…
ぐぅ〜
考え込んでいたら腹が減ってきた。
そういえば最近ロクな飯にありつけていないな…
「なんだ坊主、腹でも減ったのか?」
「どうやらそうみたいだ。ここ最近は旅続きだったし、ロクなもん食えてないからな」
「なんだ坊主、もしかして旅人か。こりゃまた珍しいこって」
おっちゃんが目を見開いてこっちを見る。
まるで奇妙なものを見たかのように。
「そんな珍しいのか?」
「そりゃ珍しいだろう。ここは《グラスフィーネ》だ。ここにいるのは半数はギルドに所属する冒険者で、後は俺達みたいな商売人さ。無所属なの探す方が難しいくらいだ」
「そっか。といってもこの街に来たのは初めてでな。右も左もわからんのよ」
「そうかい。それならこの道を行った先に《クリスタルブリーズ》っていう飯の美味いところがある。そこも一応ギルドなんだが、そんなことよりも飯がうまいしそこの姉ちゃんが可愛いのなんの!」
「別にそこまでは聞いてねえんだけどな。ま、美味い店だってんならいってみるよ」
飯の美味い店まで教えてくれたのは行幸である。
しばらくぶりの料理に胸が高鳴るのがわかる。
まるで子供みたいだ、とは言わないお約束だ。
おっちゃんに一礼して早速向かおう。
「ああちょっと待った坊主!おめえこの街が初めてってんなら先に言っておくが、《六流星》の連中には気を付けろよ!最近その中の一人がこの街に来たって話だからな」
「なんだおっちゃん、いやに親切じゃねえか」
「ほっとけ!なんかおめえ見てると世話焼きたくなるんだよ!」
「そっか。まあ一応気をつけとくよ」
「ったく、本当かよ。まあ坊主がいいんならいいけどよ」
なんだこのおっちゃん、いいおっちゃんじゃないか。
もう少し落ち着いたらまた来てやろう。
「それとよ、坊主。今更だけど、おめえどこから来たんだ?変な服装してるしよ」
「本当今更だな」
まあおっちゃんが気にするのもわかる。
大抵の冒険者は鎧だったり革のローブだったりと見るからに冒険者らしい格好をしている。
それに比べて俺はここらで見るからには珍しい服を着ている。
これはとある国の特産品で、羽織袴というものだ。
だけど、これは別に知らなくてもいいだろう。
「俺はただの旅人だ、どこから来たっていいだろう?それじゃ、教えられたとこ行ってみるよ。あんがと!
「おい、坊主!待ちやがれ!」
もう腹が減って仕方ない。
俺はおっちゃんの制止を振り切り、目的地へ向かうことにした