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9/22

9:免許皆伝?


 葉桜が修行を始めて一年が過ぎた。基礎体力の向上に半年で、剣術に半年の濃ゆい一年を三人で過ごした。その努力の結果と言える言葉をじーちゃんが葉桜に呟いた。


「なぁ葉桜よぉ。もうじーちゃんが教える事……無くねぇか?」

「……」


 直近の出来事を思い出す……じーちゃんの剣術修行は単純に木剣を素振りした後にばーちゃんが使っていたローテク剣術の型を学んだ。一連の動作をコマ送りの様に教えて貰った後は自分で磨いていく行為を反復している。じーちゃん曰く、型は自然な動作をする為の物で、繰り返す事によりキレが増して実践で使えるとの事……。


 魔力に関しても訓練は続けていてじーちゃん程では無いが初めて木剣を手にした時の『(ゲキ)』を使えるようになっていた。その他のじーちゃんが使っている永遠流剣術も比べたらまだ出来ていないが教わる事は無くなった。後は、自分で繰り返して物にするだけである。


紗月(さつき)はもう必要ないのね。私が引き続き葉桜と瞑想や魔力のコントロールをやるわ。紗月は寝たり食べたり寝たりしてればいいわよ」

「ぐっ……何か言葉を返そうと思ったけどよぉ。意外とマジで教えることねぇなぁ……ははは」


 じーちゃんがセラに言い返すことが出来ず溜息を吐いていた。


「僕はじーちゃんと過ごすだけでもいいけどなぁ。あ、そういえば。セラもアレから成長したんだよ」

「葉桜はいい子だなぁ! んで、成長って何が変わったんよぉ?」


 セラは新調した座りやすい石から降りると腕を組んでじーちゃんの前に立った。


「聞いて驚きなさい。私は数を数えられるようになったわ。紗月の八十八も一から数える事が可能よ」

「はん。そーかい」


 大変興味が無い様子のじーちゃんにセラは続けた。


「それに! もう、指を使わないでいいの」


 セラは組んでいた腕を解いてじーちゃんを真っすぐに指さして大きな声を出した。


「頭の中で計算も出来るのよ! この意味が紗月に分かるかしら?」

「あぁん? 俺様も計算くらいできるってーの」


「ふっ。よく考えてね? 計算が出来るって事はお店でお買い物もちゃんと出来るの。今までは紗月のお金で買い物をして計算が出来ないからお釣りを貰わなかったのよ? お釣りは要らないわって甘くて美味しいお団子を買う時に、一万ギル硬貨を渡すとお店の人が何故か驚いておまけをくれていたのよ? 驚きなさい。そのおまけで飲み物やお団子を新しく数本貰えたわ」


 この事実は葉桜も知らなかった。そして、じーちゃんも豆鉄砲が直撃したような顔をしている。


「おいこらてめぇ。団子くらい五百ギルで十本以上食えるだろーがよぉ! それに、金が時々無くなってるのは気のせいじゃなかったんだなぁ!」

「ふふっ。大丈夫よ紗月? これからはちゃーんとお釣りは貰うもの。これが私の成長よ?」

「ちっ。問題はそこじゃねーよ。人の金を勝手に使うんじゃねぇ! ったくよぉ……まぁいいけどな」


 あ、そこはいいんだ……と葉桜は思わず笑ってしまった。


「これも全て葉桜が私に計算を教えてくれたおかげね」


 ふふっとセラは笑っていた。


「話を戻すが葉桜の修行は教える事が無い……でも、葉桜には決定的に足りない物があるんだけどよぉ……」

「うん。そうだね」


 葉桜もそれは分かっていた。剣術を学んで動きも良くなったが経験していない事がある。


「実戦経験を積むのが後の成長に繋がると思うんだけどなぁ。じーちゃんが手を抜いて模擬戦をやるのは違うって思うんだわ。そんで、このポリュス王国には色んな仕事が来てるらしくてな。簡単に実践経験を積めそうなのがギルドに行って冒険者として仕事を受けるのも手かもなぁ!」


 じーちゃんが魔王を倒して人間にとって平和な時代が続いていた。それは、魔物から命を守る必要性が下がったことにより魔物と戦える人は減っている。そんな中でギルドという名前の組織を作ったポリュス王国は功績をあげて他の国にも浸透しているらしい。力自慢や特技を活かして依頼をこなす……戦える人間が少ないからこそ需要が大きくなり、手っ取り早く稼ぐには冒険者になる事が一番との声もある。


 危険は前提であり命を落とす事も珍しくは無い。そして、半年前よりも魔物による被害も大きくなっているのが現状である。


「ふーん、葉桜が冒険者になるなら私も着いていこうかな? 紗月と二人はつまらなそうだものね。まだ、葉桜と過ごす方が楽しいと思うの」


 そう言いながらセラはじーちゃんの顔色を伺っている。


「あ、私。分かったわ。紗月は葉桜が心配なのね。冒険者は死ぬ事もあるものね……」

「はん。別にひ孫の心配してもいいだろうよ。ま、決めるのは葉桜だ」


 実戦経験は積みたい。今までの修行は全て今から二年後の為に積み重ねたことだ。葉桜の覚悟は決まっている。


「僕は冒険者になってみようと思う」

「でもなぁ。じーちゃんは心配だなぁ」


 ふふふとセラは笑った。


「うーん。紗月は葉桜がとっても心配な様子ね。紗月が葉桜と同い年の頃がどうだったのかは知らないけど。自信が無いのね?」

「なぁーにが言いたいんだよ?」


「ふふ。紗月が教えた剣術はそんじゃそこらの魔物に負ける程度の物かしら?」

「バカ言え、世界最強の剣術に決まってらぁ」


「じゃぁ、その世界最強の剣術を学んだ葉桜はどうなのかな? 心配する程に弱く小さいのね?」

「俺様のひ孫であり俺様の一番弟子だぜ? 簡単にはしなねーよ」


 二人のやり取りはいつ見ても面白い。


「そうなのね。なら、葉桜が冒険者になっても心配することなんて何一つ無いって事じゃない? あ、分かったわ。紗月は寂しいのね?」

「うぜー。ちくしょう。俺様としたことが、小さな事で迷ってたらしいなぁ!」


 そう言って大きな手で葉桜の頭をガシガシとじーちゃんが撫でた。


「なんにも心配するこたぁねぇ。葉桜なら大丈夫さ」

「うん。分かったよ。ありがとじーちゃん」


 勇者とかそういう肩書は葉桜にとって関係ない。ただの大好きなじーちゃんがそこには居た。


 それから、最後の修行はあっという間に時間が過ぎた。葉桜が握る木剣は魔力を通しやすくまさに使い慣れた武器である。しかし、最初の頃は魔力を通す技術が無くてただの木で石を斬りつけて所々がぼこぼこになっていた。


「冒険者になるから新しい剣をって考えたんだがよぉ……」


 じーちゃんも木剣を見て何か思う所があったらしく難しい顔をしていた。


「新しく慣れないもんを使うくらいならそのまま木剣でいいかもしんねぇなぁ」

「これで戦える……かな?」

「まず武器の性能を単純に考えてみっか」


 そう言って黄金に輝くモルガナイトをじーちゃんは懐から取り出した。


「じーちゃんの剣と葉桜の木剣を比べると雲泥の差で木剣が劣るんだが……唯一木剣が勝っている部分もある」

「木剣がじーちゃんのモルガナイトよりもいい点?」


 葉桜が思いつくのは魔力の通りやすさが違うのかと脳裏に過った瞬間、じーちゃんはモルガナイトを葉桜に手渡した。


「……初めてじーちゃんのモルガナイトを持ったけど……重いね」


 殆ど、地面から持ち上がる事は無かった。それどころか葉桜の足をつぶしそうになっている。


「このモルガナイトはちょっと普通の剣とは違ってよぉ。魔力を通さないと重いんだわ」


 その言葉を聞いて魔力を通しながらだと持ち上がり素振りすることも可能だった。でも、その姿はぎこちない。


「葉桜がもーちょい。筋トレと素振りを続けたら渡したい剣はある。だが今はこの木剣でいいかもしれないなぁ」


 木剣の素材はユグドラシルの枝である。鉄と違い木は軽いのが最大の特徴だ。そして、魔力を込めるのに慣れている点も大きい。ユグドラシルの性質か魔力を通すとそこらへんに売っている金属製の剣よりも丈夫だとじーちゃんは言っていた。葉桜の全力を込めた『撃』で石を斬る事も出来るので、切れ味の部分も勝っている。業物――スミスが作る剣には叶わないが、他の剣と比べると木剣を持つ方が良いとの結論が出た。


「じゃぁ、しばらくはこれで冒険者をやろうと思う」

「おう」


 じーちゃんとの最後の修行は幕を閉じた。両親にもじーちゃんが説明して勇者のお墨付きが付いた事もあり、葉桜は冒険者へとなる為に翌日ギルドへ向かった。


「じゃ、いこっか」


 何故か本当にセラもくっついてきた。


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