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8/22

8:同窓会


 とりあえず、葉桜はこの森までわざわざ持ってきてくれたスミスにお礼を伝えた。ドワーフのスミスは背が高くなくずっしりとした体形をしている。まさに力自慢って感じだと葉桜は思っていた。


「で、スミス。この木剣の出来はどうよ」

「小僧の用意した木が信じられない物で驚いたが、完璧じゃよ」

「ははーん。でもまぁ、見てわかる通り葉桜は不服そうだなぁ!」


 半年間は剣術を学ぶ基礎段階だった。そして、やっと剣を教えて貰えると思っていたら物が切れない木剣。葉桜は顔に直ぐ出て丸わかりだったらしい。


「葉桜見てな」


 そう言ってじーちゃんは木剣を上段に構えてセラの良く座る大きな石の前に立った。


「気を集中してだな。あー、えっと今は魔力っつったか。じーちゃんは気って呼んでたんだけどよぉ。んでだ、この木剣は魔力を集めやすい素材で出来ているはずでな。この木剣でもじーちゃんが魔力を集中すると……」



 そう言ってじーちゃんが木剣を石目掛けて振り下ろすと簡単に石が二つに分かれた。


「じーちゃんすげぇ」


 葉桜の素直な感想にじーちゃんも誇らしげな顔になっている。


「今のは『(ゲキ)』って言ってな。魔力を集中して火力を上げる技だ。永遠流(えいえんりゅう)剣術の一つだぜ」

(ゲキ)……初めて現実でじーちゃんの凄さを見たよ」


 夢でみたじーちゃんは信じられないほど凄かったけど、今のじーちゃんはあの時と同じくらい凄い。葉桜の目がキラキラと輝いている姿にじーちゃんは満足していた。


「で、これからは基礎訓練の後に剣を振って行くって訳よ。な? やる気が出てきただろ!?」

「確かにやる気は出てきたよ」


 葉桜は早くその木剣を振りたい気持ちに溢れていたが似たような光景を思い出していた。確か、魔力についてセラから教えて貰う事になった時も実践をまずは魅せる事でやる気に満ち溢れてたっけ……。じーちゃんをよく見るとセラに対して俺様も葉桜を喜ばせる事が出来るんだぞと言わんばかりの顔をしていた。


「小僧も力加減が分かる様になったらしいのぉ。知っておるか? 葉桜よ。君のじーちゃんはその『撃』で剣を壊しまくってワシに泣きついてきたんじゃよ。『壊れない剣を作ってくれ』ってな」

「おいスミス。俺様は別に泣きついた事なんてねーよ」


 そんな二人のやり取りを聞いて葉桜は初めて知った情報に興味津々だった。


「スミスさんがじーちゃんの剣を作ったの!?」


 普段、飲食店の陰で何かしているのを葉桜も知っていた。何より、表に出るのはスミスの奥さんだったのでスミスが鍛冶屋をやっていたなんて知らない。


「そうじゃよ。ほれ小僧。あの剣を出してみせい。まさか壊してないだろうな?」

「はん。スミスてめぇが良く分かってんだろ? この剣は壊れても元に戻るってよぉ!」


 じーちゃんは懐に手を入れると黄金に輝く剣を取り出した。


「じーちゃん今の何処から出てきたの? 僕より大きな剣なんだけど……」


 明らかに袴の懐から出る代物ではない。その疑問に対してじーちゃんは教えてくれた。


「これも何か昔貰ったんだけどよぉ! アイテムを収納する小さな箱だ。この中に普段は剣を入れているってわけよぉ。じーちゃんの水と似たようなもんだな」


 葉桜の知らない事が沢山身近に溢れていた。


「ふっ。流石はワシの最高傑作じゃな。いつ見ても輝いてるのぉ」

「おうとも。この剣――黄金に輝く大剣(モルガナイト)は最高の相棒さ」


 年寄二人がモルガナイトを見ながら談笑している中でセラが口を開く。


「で、私のお気に入りでとても座りやすい椅子替わりにしていた石を壊したのよ? 何か一言あってもいいんじゃないかしら?」

「あぁ、めちゃくちゃ試し切りしやすかったぜ」


 大きく息を吸って長い溜息をセラが吐き出した。


「葉桜? この人はとても野蛮ね。葉桜がその血を引いてるなんて私は信じられないわ。葉桜はこういう大人になっちゃだめよ」

「ははは……その。ごめんね。一応、じーちゃんの代わりに謝っとくね」


「葉桜は何ていい子なのかしら。きっと、そうね。璃桜の血が沢山反映されているのね。とても運がいいわ。璃桜は紗月より腕力も体力も少ない方だったけど、とっても強かったのよ。だから、葉桜も強くなるわね」


 じーちゃんが勇者だというのも最近は受け止めたばかりだが、それと同じくらいばーちゃんも凄かったんだなぁと驚く。


「じーちゃんとばーちゃんってどっちが強かったの?」


 葉桜は素直な疑問をじーちゃんに尋ねる事にする。


「あー、それなー。そりゃ、じーちゃんが強いに決まってるんだけどよぉ。ばーちゃんと出会ったときに模擬戦をした事があってなぁ。その時は負けかけたなぁ……じーちゃんの永遠流剣術とばーちゃんのローテク剣術は元が一緒でな。知らなかったら負けていたかもな!」


 じーちゃんの剣術は元々同じ師から学んだ後に気――今でいう魔力を応用した型となっているらしい。じーちゃんのじーちゃんが編み出した流派だという事が分かった。


「ふっふっふ。紗月はそのあと、璃桜さんに頭が上がらず尻にしかれるのですよ!」


 突然、知らない声が聞こえた。葉桜は声の主を見ると……ふわふわと漂う妖精が姿を見せていた。大きさは葉桜の半分程で花飾りや蔓を体に纏い髪の毛は明るい茶色でつぶらな瞳をしていた。手足も短く足に至っては歩く必要が無いからか膝から下は無い様に見える。長いスカートがひらひらと足元全体を覆っていた。


「あーん。なんだよネフィ。うちのひ孫に嘘を教え込むんじゃねーよ」

「あー! せっかく、ユグドラシルの枝を渡したのにネフィが嘘をつく悪者にする気ですか!?」


 そんなやり取りをするじーちゃんと妖精の後ろでスミスさんが妙に納得した顔をしていた。


「あの素材はユグドラシルか……葉桜や。大切にしなさいな」


 ジーちゃんに対してはぶっきらぼうな態度だけど、スミスは葉桜にとても優しい。


「うん。分かった。ところで、じーちゃんその妖精は?」


 ガヤガヤと言い合っている二人の関係が葉桜は気になっていた。


「わわ。そうです。忘れてましたごめんなさい。私は花の妖精アルセーラ・レネ・ネモフィラと申します。ネフィとお呼びくださいね。紗月とは旅をした仲で璃桜さんとの出会いや内心負けそうにひやひやしている姿等も隣で見てきましたよ!」

「ネフィさん。じーちゃんのひ孫の坂上葉桜って言います。じーちゃんがお世話になったようで……」


 葉桜はそう言って深く頭を下げた。その様子を見て花の妖精――ネフィは信じられない者を見た顔で驚いていた。


「紗月のひ孫がこんなにいい子なんですか!? 神様がこの世に居るとネフィは今、この瞬間に確信しました。神様が居なければ紗月の血筋に良い子が産まれる訳がありません! あ、謎がこの瞬間に解けました。璃桜(りおう)さんの優しい性格がちゃーんと。ちゃーーんと受け継がれているのですね。ネフィは納得です」


 セラとスミスがお腹を押さえて大笑いしていた。その中でじーちゃんだけが不服そうな顔をしている。


「おいてめぇーら。俺様も怒るぞおい。まぁ……なんだ。じーちゃんの知り合いの力を借りてこの木剣を用意したわけでよぉ。大切にしなくてもいいけど、まずはこれで剣術の練習をしよーな」

「うん!」


 じーちゃんの過去を色々と知れた。そして、最初は木剣に対して残念な気持ちがあったけど、今は大切にしようと思う。


 そんなじーちゃんの知り合いであるスミスはポリュス王国に帰り、ネフィはただ遊びに来ていただけらしくじーちゃんと話をした後にユグドラシルへ帰っていった。そのユグドラシルもじーちゃんとの旅で行きついたネフィさんの依り代というものらしい。世界の奥深くに根を伸ばし自然のバランスを調整する事がネフィが担っている役割とのことだった。


「そういえば、半年前くらいに騎士団へ新人が入ったって話を覚えているかぁ?」

「うん。レヴィ団長と模擬戦をしたって人だよね?」

「あぁ、そいつは騎士団を辞めたらしい」

「ふーん。どうして?」


 騎士団長と模擬戦をして団長が苦戦するほどの実力者が辞めた理由が葉桜は気になっていた。


「なんか世の中の魔物が悪さを始めたっぽくてなぁ。ポリュス王国からは遠い小さな村が全滅したって話だ。そんで、辞めた新人はこの国にギルドって組織を作ろうと提案したっぽくてな。魔物退治やら何やらを請け負うって話らしい。ちらほら、魔物が人を襲う話は聞いてたけどよぉ……まぁ、騎士団の仕事は基本的にポリュス王国を守る騎士だ。外の仕事に顔を出すには辞めて自由に動いた方がやりやすいんだろーよ。そのギルドって奴は魔物退治や護衛を主な仕事にする。そんな危ない事に首突っ込む連中をひとくくりに『冒険者』って呼ぶらしいぞ」


 じーちゃんはこの国を含めて世界が変わっている事を葉桜に語っていた。じーちゃんが魔王を倒して人間にとって平和な時代を暫く築けていたが、この国以外で人間以外の種族を奴隷とする場所もあるらしい。パワーバランスを変えただけで世界の根本的な部分は変わらないなぁとじーちゃんは呟いていた。


「ま、じーちゃんが人間を頂点にした勇者って言ってもよぉ。スミスから見るとこんな老人でも小僧ってんだ。そんな勇者も寿命で死ぬ。平和ボケした人間を虎視眈々と狙う爪や牙が世の中にあってもおかしくはねぇわなぁ!」


 がははといつも通り笑って葉桜の修行が始まった。

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